第十四話 十二歳の絶望
その後、僕たちは急いで外に出て、三人で手分けして近辺を探し回った。
具体的な方向は……。
父親は、東側から西側。
母親は、南側から北側。
僕は、西側から東側。
以上。
周囲は完全に闇が立ち込んで、視界が当てにならない。
それほど、何も見えなかった。
だから、僕は走りながら、
「シャドウ!」
と呼んだ。
シャドウはいつも僕が名前を呼んだら直ぐに寄り添ってくれた。
だからきっと、今回もいつものように僕の声に反応してくれるんじゃないか。
僕の近くに来てくれるんじゃないかって思った。
僕はとにかく走った。
そして、走りながら叫んだ。
例え息が切れても、声が枯れても叫んだ。
そして……。
――遂にシャドウを見つけた。
見つけた場所は、ちょうど西側と東側の中間地点。
見つけられたのは、月の光がシャドウを照らして地面に影が映っていたから。
遠くからだが、見た感じ怪我はしていない。
僕はとりあえずシャドウが無事なことに安心して吐息を一つ。
シャドウを呼ぼうと口を開いたが、声が枯れて言葉が出ない。
なので、シャドウの元に駆け寄ろうと近づいた。
……けど。
徐々に左側から二つの光がシャドウを照らして近づいている。
最初はなんの光かわからなかった。
でも、数秒が経過した後、その正体に気づいた。
その光の正体。
それは……。
――救急車のヘッドライトだった。
なんで救急車が?
そう疑問に感じた。
その疑問は直ぐに解決した。
僕は真夜中の暗闇でわからなかった。
今シャドウが居る場所が……。
――車道だってことに。
そのことがわかった途端、僕は残った体力を振り絞り、足を動かして走った。
ここまで走った疲労がまだ残ってる。
視界もぼやけ、まともに走れない。
でも、そんなことは今どうでもいい。
僕のことなんて知ったことじゃない。
とにかく走れ!
足を動かせ!
理由は決まってる。
助けたいからだ。
更に僕は、
「シャドウ!」
と叫んだ。
つもりだった。
けど、完全に喉が潰れて全く声が出なかった。
僕はシャドウに向かって左手を前に突き出した。
助けたかったからだ。
助けたかったんだ、僕は……。
けど……。
届かなかった……。
シャドウは微動だにしていなかった。
ただ、その紫色の瞳で僕を見つめていた。
まるで……。
――僕に救いを求めるように。
徐々に迫り来る救急車のヘッドライトが、二つの月みたいにシャドウの影を映し出す。
その二つの月明かりの中にシャドウが浸透しているかのように見えた。
そのままシャドウは救急車に轢かれた……。
それが、シャドウとの。
僕の掛け替えのない大切な存在との別れだった。
その瞬間、僕の心の中で繋がっていたものが切り離されていくような感じがした。
僕は膝から崩れ落ちて泣き叫んだ。
声は枯れていたが、掠れた声のような音を上げながらただ泣いた。
泣くことしかできなかった……。
数分が経過した頃――。
一緒に探してくれてた両親が僕を見つけて駆け寄ってくれた。
両親は僕の様子を見て、直ぐに状況を把握したらしく、敢えて何も聞かなかった。
その後、シャドウの亡骸を回収して小屋の横に埋めてあげた。
この時、僕は自分自身に絶望した。
何もできなかったことに。
ただ泣くことしかできなかったことに。
この出来事がきっかけで、僕は自分から向かって行動することを辞めた。
と同時に、僕の新たな人生……。
――陰キャとしての人生が始まった。
それからは、何事にも下向きで、流れに沿うまま日々を送った。
とにかく怖かった。
僕が何かをしようとしたら、いつか失ってしまうんじゃないか?
その考えが、刀のように鋭くなって、僕の頭に突き刺さっている。
だから、僕は日陰者として生きていこうと決めた。
そうしていると、次第にクラス内で孤立し始めた。
そして、気がつけば周りから、
『陰キャの極み』
と言われるようになっていた。
まあ、仕方がない。
これは、自分で選んだ人生だ。
だから、これでいい。
これでいいんだ……。
てなわけで、僕は陽キャを目指すことを完全に諦めた。
はい、思い出話終了っと。
そんなことを考えながら歩いていると、右側に電柱が目に映った。
なんの変哲もないただの電柱だが、僕にとっては一種の目印。
この電柱から約百メートル程先に横断歩道がある。
流石に下を向きながら横断歩道を渡るわけにはいかない。
だから、その時だけは前を向くことにしている。
僕は顔を上げて前に目線を向けた。
すると、真っ先に僕の目に飛び込んできたのは……。
――一人の女性だった。
僕はその女性を目の当たりにし、目を見開いて驚愕した。




