表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 黒死
第一章 陰から影へ(前世編:白龍)
11/88

第十一話 六歳の希望

 それから数分後――。


 その珍しい兎を買って、僕たちは家に向かって歩いていた。


 ここで、各自の手荷物チェック。

 まず父親は、兎を飼う為に必要な餌やゲージなどを両手で持っている。


 そして母親は、兎を入れていた段ボールを左手で持っている。

 最後に僕は、兎を両手のひらで運んでいる。


 因みに、兎の手荷物はなし。


 本当は家に帰ってから触ろうと思ってたんだけど……。

 嬉しすぎて待ちきれませんでした。


 しかも、僕の両手にすっぽり収まるくらいの大きさ。

 毛がもふもふで両手が幸せです。


 それに、この兎に外の世界を見せてあげたかった。

 ずっとゲージの中に居ただろうから。


 兎はキョロキョロして、目を輝かせているように見えた。

 そんな兎の姿を僕も目を輝かせながら見つめた。


 その時に思ったこと。

 それは……。


 ――か、可愛すぎる!


 以上!


「陽。兎、段ボールに入れなくていいのか? 危ないよ?」


 父親が心配そうに話しかけてきた。


 確かに、もし落として怪我でもさせたら可哀想。


 けど、こんなにも可愛い兎を段ボールに閉じ込めるのはもっと可哀想だ。


「うん。大丈夫」


 なので、父親の忠告は有り難く思いつつも、拒否。


「そ、そうか?」


 でも、どうやら父親はそれでも心配らしい。

 その気持ちは素直に嬉しいけど、少しは僕のことを信用してほしい。


「そんなに心配しなくても大丈夫よ。それに、陽が『兎を手で持って帰りたい』って言った時、OKを出したのはあなたじゃない」


 お。

 なんとここで母親が会話に参加。


 しかも、どうやら父親を説得してくれてるみたい。

 

「いや、まあそうなんだけどさ。よく考えたら、兎は飛ぶし、もし車道にでも出たら……」


 でも、心配性な父親は負けじと反撃を試みている。


「……あなた」


 けど……。


 おっと?

 これはヤバイかも。


 母親は笑顔だ。

 しかも、満面の笑み。


 だけど、僕は知っている。

 この顔は、母親が怒ってる時の予兆。


 なぜなら、母親のその笑顔は、とてつもなく怖いから!

 更に、なぜか禍々しいオーラを醸し出している。


「え?」


 父親もその予兆を察したっぽい。

 けど、もう遅い……。


「陽が『大丈夫』って言ってるでしょ? それに、陽は今喜んでるでしょ? だから、そんな悲観的な想像しないで? ね? わかった?」


 母親の必殺技、怒りの笑みが父親を攻撃。


「あ、はい……。わかりました……。すいません……」


 父親は恐怖で足が竦み、即謝罪を実行。


 どうやら、立派な父親でも母親には勝てないみたい。


「そんなことより、その兎に名前付けてあげないとね」


 けど、僕には優しい母親。

 しかも、さっきの禍々しいオーラが消え、笑みも普通になってる。


 切り替えの速さが凄すぎる……。

 流石母親です。


「うん。名前、か……」


 まあ、確かに名前は考えないとな。

 ずっと兎のままじゃ可哀想だし。


 なんて呼ぼうかな……。


「け、けどさ」


 再び会話に参加する父親。

 まだビクついてる。


「まだ何かあるの?」


 当然、再び母親の恐怖の笑み攻撃。

 なぜか威力が増してるように見える。


「いや、この兎ずっと車道の方を見てるなって」


 だけど、父親は克服してあまり攻撃が通っていない様子。


 それに、確かに父親が言うように兎はずっと車道の方を見つめていた。


「ん、あら。確かにそうね」


 流石の母親も認めるほど、納得のいくことだった。


「だから、車道が気になるのかなって思ったんだよ」


 そっか。

 じゃあ、きっとこの兎は車道が好きなんだな。


 ……。


 よし!

 決めた!


「シャドウ……」


 僕はぼそっと呟いた。


「「ん?」」


 僕の声が小さすぎて、聞き返してくる二人。


「この子は車道が好き……。だから、この兎の名前はシャドウにする」


 なので、今回はビシッとやや大きな声で答えた。


 少し安直すぎる気もするけど……。

 さて、二人の反応は如何に。


「そうか。うん、いい名前だな。なあ、しゅ……。か、母さん?」


 父親からはOKが出た。


 けど、なぜか母親のことを間違えて名前で呼びかけた。

 気のせいか、戸惑っているように見える。


「ええ。母さんも、とてもいい名前だと思うわ。大切に育ててあげるのよ?」


 なんと、母親からもOKが出た。


 なら大丈夫だな。

 なぜか、『も』を強調しているように感じたけど……。


 まあいいや。


「うん。大切に育てる」


 僕は二人に向かって、嬉しそうな笑みを浮かべた。



 その後、シャドウは僕にとって掛け替えのない存在になった。

 大切な家族で、心の支えのような存在。


 所謂、シャドウは僕の中での……。


 ――一つの希望だった。


 両親の目的通り、僕は弟ができたような感覚で、とても可愛がって大切に育てた。

 因みに、シャドウはオスだった。


 それがわかった理由は……。


 いや、やめておこう。

 皆さんのご想像にお任せします。


 それからの僕は、少し変わった。

 前に比べて、積極的に話せるようになった……、気でいた。


 けど、やはり人間の本質はそう簡単には変えることはできないみたい。


 一応努力はしたつもりだ。


 具体的には……。

 クラスの人が盛り上がりそうな話題を模索したり。

 誰かに便乗して、会話に参加しようとしたり。

 話題になってるゲームを始めて、いつでも会話に参加できるようにしたり。

 まあ、こんな感じ。


 けど、残念ながらその努力は実らなかった。


 結果、当時の僕はクラスの人と挨拶を交わす程度。

 それが精一杯だった。


 案の定、彼女は愚か、友達の一人すら作ることができなかった……。


 そして……。


 ――ある日を境に、僕は陽キャを目指すことを完全に諦めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ