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  作者: 黒死
第一章 陰から影へ(前世編:白龍)
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第十話 六歳の決意

「お。ここに居たのか、陽」


 突然、どこからか父親の声が聞こえた。

 僕は反射的に声がした方向に目線を向けた。


 そこには別行動をしていた父親と母親の姿が見えた。

 徐々にこちらに向かって歩いて来ている。


 それはわかったんだけど……。

 僕は珍しい兎に夢中で上の空だった。


 なので、直ぐに目線を戻し、


「うん……」


 と掠れるような声で一応返事。


 両親はこちらに辿り着いたら足を止め、僕が見つめている珍しい兎に目線を向けた。


「この兎が気になるの?」


 母親が僕の近くに寄って来て、中腰になって聞いてくる。


 もちろん僕はまだ上の空。

 だから、さっきと同じように、


「うん……」


 と呟く。

 今回は頷きながら。


「兎か〜。うん、いいんじゃないか? この大きさなら室内で飼えそうだし」


 どうやら、父親は兎を飼うことに賛成らしい。


 てっきり、自分と似てるから多少なりとも抵抗感があるのかと思っていた。

 けど、余計な心配だったみたい。


 もしかしたら、この珍しい兎限定かもしれないけど……。


「その兎は、今生後一ヶ月ほどなので、飼うにはいいタイミングだと思いますよ?」


 突如現れた店員が声を掛けてきた。


 僕はその声に驚いてビクッと体が反応。

 瞬時にその店員へ目線を向けた。


 うわ、ビックリした!

 ど、どこからやって来たんだ……?


 しかも、適切な説明をしている。

 もしかして、どこかで僕たちの会話を聞いてたのか?


 ……。


 定員って、怖いな。


「そうなんですか。じゃあ、つい最近生まれたんですね」


 だが、母親はその店員に疑問を感じず、そのまま会話を始めた。


 え?

 そのまま会話始めちゃうの?


 しかも、父親も別に驚いている様子はない。


 もしかして、これが普通なのか?


 僕は店員や両親に目線を向け、疑問です感を提示した。


「はい。この子は九月九日が誕生日で、とてもいい日に生まれたんです」


 そんな僕にはお構いなしに、そのまま質問に答える店員。


「いい日、ですか? 九月九日って、何か特別な日でしたっけ?」


 違う疑問を提示する母親。


「多分救急の日だから、じゃないかな? 一応、正式に定められてるしさ」


 母親の疑問に返答する父親。


 ……もういいや。

 これが普通。

 以上。


 それによく考えたら、この人は店員で僕たちは客。

 なら、僕たちに買ってもらうために、耳を澄ませて話を聞いていても不思議はない。


 うん。

 多分、不思議はない……、はずだ。


 この店員はさっきから受け答えしてるだけみたいだし、話だけ聞いておこう。


「はい、その通りです。なので、きっとこの兎が居れば、例え急場を迎えても、救ってくれるんじゃないでしょうか?」


 と思いきや、いきなり突拍子もないことを言い出す店員。


 流石にそれは無理があるって。

 幸運の兎じゃあるまいし。


「あ〜、なるほど。確かに、それはいい日ですね」


 当然、母親は苦笑いを浮かべて、先程店員が言った例えはスルー。


「はい。それに、この子なら室内でも飼うことができますし、いかがでしょうか?」


 だが、この客はいけると思ったのかな?

 やたらグイグイくる店員。


「陽、どうする? この兎にする?」


 母親は店員の圧に負け、一応僕に確認することにしたみたい。

 目線を一切店員に向けないようにしてる。


「……」


 なので、僕は少し考えることにした。


 とりあえず、この珍しい兎を飼うことに対して、両親は賛成してる。

 更に言えば、僕自身も飼いたいと思ってる。


 その理由は、ただ珍しいからではない。

 なんというか、何かの縁を感じるからだ。


 心の中にある糸のようなものが繋がったような感じ。

 例え切り離しても直ぐに再び繋がってしまう程、強く結ばれた縁を。


 はい、自問自答タイムスタート。


 なぜ?


 ……それは、この珍しい兎と僕が、重なって見えるから。


 他の兎は、全て白色の毛並みに、赤色の瞳。

 ということは、恐らくこの珍しい兎の両親も他と同じで白色の毛並みに、赤色の瞳をした兎の可能性が高い。


 ……まるで、父親のように。


 それに、周りには空になっているゲージがいくつかある。

 そこには『生後一ヶ月程度』と書いてある一枚の紙が貼られていた。


 その珍しい兎以外の兎がいるゲージには、『生後一年程度経過している』と書いてある。


 つまり、生後一ヶ月程度なのは、もうその珍しい兎だけ。

 他の兎は、もうある程度成長しているってことだ。


 どうやら、生まれて間もない状態の兎が人気らしい。

 確かに飼うとしたら、そっちの方が育てがいはある。


 なら、なんでその珍しい兎だけがまだ残ってる……?


 ……それは、きっとその兎だけが他の兎と違う容姿だから。


 だから、選んでもらえない。


 多分、今その子の前には、とても大きな難関な壁が立ち塞がっている状態。

 そのゲージから出るのを阻む、何をやっても乗り越えなれないほどの強大な壁。

 でも、その壁を乗り越えないと一歩も先に進めない。


 なのに、同じ年に生まれた他の兎は一人で軽々と乗り越えて先に進んで行ってしまった……。

 

 けど、その兎はまだ自分一人では乗り越えられないでいる。


 ……僕と同じだ。


 僕も他の人とは違う部分がある。

 だからこそ、父親みたいに一人だけでは乗り越えられないって思った。


 それに、きっと僕も同じ状態なら一人じゃ乗り越えられない。

 そのことを、僕自身がよくわかってる。


 だから、僕は決めたんだ。

 僕一人だけじゃなく、誰かと共に支え合ってでも乗り越えて行こうって。

 そう決めた。


 だから、その兎も自分だけじゃ駄目だって分かってるから。

 その壁を乗り越える為の救いを求めてるんじゃないか?


 僕に救いを求めてるんじゃないか?


 なら……。


 ――僕はこの兎を救いたい。


 そして……。


 ――今後立ち塞がる難関な壁を互いに支え合い、一緒に乗り越えて行きたい。


 これが、僕の答え。

 いや……。


 ――僕の決意だ。


「いや……。でも、確か他にもあったような……」


 僕が考え込んでいる間、父親が何やら一人でぶつぶつ呟いていたみたい。

 全く聞こえなかったけど。


「ん? あなた、どうしたの?」


 母親はそんな父親が気になって問いかける。


「うーん……。あ! そうだ。その日は……」


 そして、父親が何かを思い出したー!

 ……のはわかるが。


「決めた。この兎がいい。この兎を飼いたい」


 それをお構いなしに、僕の言葉が遮る。


 決してわざとじゃないよ?

 考え込んでたから、父親の言葉が聞こえなかっただけ。


「ちょ、あー……」


 結果、父親は変な声を出していた。


「そっか。じゃあ、この兎にしましょうね」


 しかも、母親も父親をスルー。


「ありがとうございます!」


 最後に満面の笑みを浮かべる店員。


 更に、どことなく落ち込んでいる父親。

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