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闇の抱擁

作者: とみか

車の通る音で、目が覚めた。鼻息程度ではあったが、意識を取り戻すには充分な気配だった。ここ最近、朝に寝て夜に起きる生活が続いていた。夜の目覚めは、脳の温かさと暗闇が融和するような心地良い感覚があった。しかし、天井に細い光が不格好な形で伸びては消えていくのを見るのは不快であった。僕はすっかり鈍った身体を無理に起こし、隙間の無いようにカーテンを閉めた。これで僕自身を脅かすものはないと思った。僕は安堵し、再びベッドへ横たわった。


夢の中でも、暗闇にいた。今となってはどうだっていいのだが、高校生の頃、クラスの集団から虐めにあっていた。僕は机に伏せ、自分を視界の中に溶け込ませることに集中していた。しかし、いつも上手くはいかなかった。聴覚が視覚に反発するかのように研ぎ澄まれていき、心臓の鼓動が激しくなるのを常に感じていた。名前が呼ばれるたびに、不安と緊張が同時に沸き起こり、そして絶望した。男と女の垢染みた声が身体に混入し、血液として循環していくような気味の悪さがあった。


スマホの通知音で、目が覚めた。鼓動は激しく、脳までもが脈を打っていた。嫌な夢を見て、嫌な音で起こされたと思った。だが、この通知音の設定をしたのは僕自身であることを思い出して何とも言えない気持ちになった。僕は心臓の拍動が静まるのを待ち、5分ほど仰向けになったままでいた。車の通る音がしたが、天井の光はもう見えなかった。僕は身体を起こし、スマホを手に取った。画面の眩しさに僕は酷く眩暈がした。体調が悪かった。辺りの暗さで顔認証でスマホのロックは解除されなかった。“1111”のパスコードを入力し、昨日が僕の誕生日であったことを思い出した。最低限のセキュリティにもなっていないが、どうだってよかった。僕はLINEの内容が気になり、同時にそれが余計な感情であるとも思った。内容は、辞めたバイト先からのものであった。僕は不快に思い、ブロックを押した。


眼が眩むほどに、腹が減っていた。冷蔵庫の中を覗くが、ほぼ何もないに近しかった。身体は気だるくて仕方がなかったが、僕はコンビニへ向かうことを決心した。街の灯りで空の様子はよく見えなかったが、気温は温かかった。僕は空腹の中、街灯の灯りを浴びていた。白樺の葉は黒と緑を行き来するように身を揺らしており、僕の心を不穏にさせた。僕は空腹から身体に力が抜け、重心が定まらないのを感じた。僕は、この空腹を早く埋めたいと思っていたが、いつの間にかこのままでも良いと思っていた。僕は自分がそう思ったことに、妙な興奮と安堵のようなものを感じた。コンビニを通り過ぎ、僕はより暗い道を探し歩いた。僕は闇を求めている。光になど邪魔されない、完全なる闇を求めている。


瞼の裏側に、僕の意識はあった。気づけば、激しい眩暈でその場に倒れ込んでいた。身体を起こすほどの力は残っていなかったが、それで良いと思えた。ここが何処なのかは定まってはいないが、おそらく僕は辿り着きたい場所についたのだと思った。心臓の鼓動は聞こえず、代わりに葉と葉の擦れるような音が聞こえてくるばかりであった。僕は救われたと思った。この醜い世界の循環から外れ、闇と一体になったとき、僕の血液は初めて浄化されていくのだと思った。僕を纏う憂鬱な影も、闇の中では姿をあらわすことはなかった。僕を惑わせ、悪戯のように消えていく光がただ憎かった。闇はただ、闇として存在していることが美しいと思っていた。これで、救われる。僕は背中にアスファルトの冷たさを感じながら、最後にゆっくりと目を開けた。

そこには無数の星が広がっていた。

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