ショートホラー第9弾「ぬいぐるみ」
「何か視線を感じるんだよね」
部屋にいる時、誰かから『見られている』感覚がある。
その事を友人である律子に伝えた所……
「それって盗撮用のカメラとか仕掛けられてる奴じゃないの?」
という事で放課後、私は律子を部屋に招いた。
「今ってさ。小型カメラとか普通に通販で買えたりするらしいし怖いんだよね」
律子はカーテンを閉めて部屋を暗くすると懐中電灯で部屋中を照らしていく。
何でもカメラというのはレンズがあるからそれに光が反射するらしい。
「うーん、反応はしないなぁ。やっぱりネットで見た情報をうのみにしてもダメなのかな。視線を感じるようになったのっていつ頃?」
私は2か月くらい前からだと伝える。
「よく我慢したねぇ。それじゃあさ、その時くらいから部屋の中で増えたものってある?」
「えっと……ああ、その子かな」
私はタンスの上にある白いクマのぬいぐるみを指さした。
「かわいいやつじゃん。どうしたの?」
「4組の吉沢から貰った。プレゼントだって」
「あの根暗男?え?あんたたち仲良かったの?」
「別に。何か一方的に押し付けられてまあいいかって飾ってるの」
律子は頭を抱える。
「いや、それって高確率でこの子が原因ぽいじゃん。ていうか吉沢が何か仕込んでいるとか」
「そんな悪い事する人かな?」
「あんたはもう少し人を疑いなさいよ」
律子はぬいぐるみを取り上げるとあちこちを触る。
そして……
「何か、顔の所に埋まってる。小型カメラとかかも」
「え、マジ?」
「しかもこれ、よくみたら一度開いて首元に縫った跡あるじゃん。絶対クロだよ。ちょっと開けてみていい?」
私の許可を得て律子は縫った跡を開き手を入れる。
そして急に顔を歪める。
「何か目の辺りにあるけど……何これ、ぬるっとしてる?」
泣きそうな顔で律子は掴んだものを引き抜いた。
そして……
「嘘ッ!何よこれ!?」
律子の手から、小さな球体が落ちた。
「ひッ!?」
私も小さく悲鳴を上げた。
床にはこちらをじろっと見つめる、新鮮な眼球が転がっていた。
まるで今も現役で活動しているかの如くぴくぴくと動いていたそれはやがて動きを止め、濁り始めたのだった。
□
あれから時は流れ、私は高校を卒業した。
大学、就職、そして結婚して今ではひとり娘がいる主婦である。
「何かね、最近部屋で誰かに見られている気がするの。気のせいだとは思うけど。疲れてるのかな?」
「ふふっ、意外と本当に見られているかもね」
「止めてよお母さん!!」
私達の話を微笑ましく見守っている夫。
彼は右目の部分を長く伸ばした髪で隠していた。
「人生は何があるかわからないものなのよ」