密室で勝手に死ぬな
おれの名前はうーたん。もうすぐ2歳になるフェレットだ。ちなみに白は真っ色……間違えた、色は真っ白、だ。
おれは野菜以外ならなんでも食べる。飼い主はおれをケージに閉じ込めず、放し飼いにしているので、落ちているものはなんでも食べる。
飼い主は用心して何も落とさないようにしているようだが、たまにカップヌードルの謎肉とか落ちてるぞ。拾って、いただきますする。
落ちていなければ飼い主のバッグを開ける。おれは頭がいいのでチャックを開けられる。甘いものが大好き。中にカプリコでも入ってたら大喜び。
今日は飼い主が落ちてる。床にでーんと寝転んで、目を開けたまま。顔をペロペロしてみる。くすぐったがらない。ミルクくれー、と爪で腕に訴えてみる。痛がらない。
なんかおかしい。とりあえずすり寄って、添い寝した。冷たい。いくらおれが寒さに強いからって、これは居心地が悪い。どうした、飼い主?
カリカリを食べ尽くした。新しいのがもう出て来ない。水はお風呂場にたっぷりあるけど、ごはんがない。ないぞー、飼い主。甘いものか、お肉が食いたいぞー。
飼い主の開きっぱなしの目と見つめ合う。動かない唇をじっと見る。「うーたーん」って呼べよ。「かわいい」って呼べよ。どっちかがおれの名前なんだろ。
腹減った。おれは野菜以外ならなんでも食べる。でっかい肉が目の前にどーんと落ちてることにはもちろん気づいてる。おれは頭がいいからな。
でもこれは飼い主だ。食べ物じゃない。
死にそうに腹減った。おれは飼い主に近づき、胸の前でくるんと丸くなる。早く飼い主、起きねーかな。早くカリカリかササミ食わしてくれよ。
ペロペロと顔を舐める。爪で腕やお腹を掘る。こうすれば飼い主はいつもは起きる。起きてすぐにミルクはくれないけど、とりあえず起きる。
起きろ。起きろ。ペロペロ。起きろ。起きろよ。ガリガリ。
「こらっ……! うーたん……! 痛い!」
起きた。目を開けた。やった。
「んー……。ここはどこかな?」
どこでもいい。早く抱っこしろ。嫌がるふりしてやるから。
「あはっ。うーたん、かわいい」
やっぱり。『うーたん』か『かわいい』がおれの名前なんだな? 呼んでくれてありがとうな。
「頭に天使の輪っか、ついてるよ」
おまえもだ、飼い主。頭の上にふわふわと、輪っかが乗ってる。あれ? あんなにお腹空いてたのに、なんか今、何もいらないや。
2人、並んで、星空に上がって行った。
フェレットが「うーたん」か「かわいい」が自分の名前だと思っているのは、脱兎田 米筆さま作『俺は犬である。』の中のアイデアからパクりましたm(_ _)m