表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/71

70.お菓子の口づけ

「えっ? だ、団長!?」


カインの目の前にいるクララが一瞬で表情を無くし、目が虚ろになる。そしてまるで人形のような動きで木箱を開け、中にあったお菓子を取り出し口に入れる。それから『お菓子な魔法』を発動するため食べながら言った。


「……ファイヤーストーム」


「えっ!?」


カインを中心に巻き起こる炎の嵐。カインは驚きつつもその火力の強さに驚いた。



(あ、熱い!! 魔法耐性を持つ僕がダメージを受けている!?)


カインはクララも魔神竜のギフトを貰って魔力が上がっていることを思い出した。カインは一歩下がって剣を抜き、下段から思い切り振り上げた。



「強風漸!!!!」


その剣筋に伸びるように現れる一筋の竜巻。そのままカインの周りにあった炎を巻き取りながら天空へ伸びる。そしてカインが気合を入れると同時に、竜巻は炎と一緒に消え去った。



「だ、団長……」


カインは目の視点が合わないクララを見つめる。そして両肩に手をかけ大声で叫ぶ。


「団長、団長おおお!!!!」




「くくくっ、効いた、効いたよ、やっぱり。何でか知らないけど、あの女、『竜支配』が通じる」


クロムウェルは壊れた城壁の中で小さく笑ってクララを見つめた。



トン、トン、トン……


肩を必死に揺するカインに、クララはゆっくりと拳を上げてまるで肩叩きのように何度も叩く。


「ううっ、うっ、ううっ……」


カインを叩くクララに苦痛の表情が浮かぶ。



「団長……」


カインが目を赤くしてクララを見つめる。



「カイン君!!」


それを見ていたマリエルがカインの名を呼ぶ。カインは走り掛けていたマリエルを右手で制する。


「カイン君……」


マリエルは立ち止まってカインとクララを見つめた。




「……団長、笑って」


カインがクララを見つめて言う。


「団長が教えてくれたんですよ。辛い時こそ笑って、て」


「ううっ、ううっ……」


クララはなお一層苦しそうな顔をする。カインはクララが叩く手を握りしめてすっと背後に回る。そして背中からクララを抱きしめて言った。



「団長、覚えていますか。ちょっと前に団長が僕にお願いしたこと」


そう言うとカインはポケットの中からひとつの指輪を取り出し、白く細いクララの指へゆっくりはめた。



「ううっ、うっ……!?」


カインが言う。


「前に指輪をはめた時に『今度はもっとちゃんとしたのをくれ』と言ったでしょ。僕、探したんですよ。頑張って。買ったことなかったんですけど、一生懸命選びました」


クララの指に真っ白い綺麗な玉がついた指輪が光る。カインが続ける。


「これね、強神竜じっちゃんのギフトそっくりなんですよ。綺麗でしょ。団長に似合うかなと思って」


「う、ううっ……」


「団長。大丈夫ですよ、安心してください。僕がいますから」



クララの目から涙が流れる。

カインはクララをすっと横に向け、その涙流れる頬に手を当てて唇を重ねた。


「うっ!! ん、んん……」




「カ、カイン君ーーー!?」

「カカカ、カイン様ああああ!!!」


それを見たローゼンティアとシルファールから悲鳴に似た叫び声が上がった。




口を重ね終えたクララの目にははっきりとカインが映り、そして涙で潤んでいた。クララが言う。


「ねえ、カイン。前にも言ったろ。こういう時は『団長』じゃなくて、《《クララ》》だって……」


カインが慌てて言う。


「あああ、ああ、そ、そうでした!! ごめんなさい……」


クララが少し笑って言う。



「……でも、悪くないもんだね。男の子の口づけで目が覚めるのって」


クララが頬を少し赤くして言う。カインが答える。


「だ、団長おおぉ、い、いえ、ク、ククク、クク、ク、クララ……、さん……」


クララが笑って言う。


「あははっ、いいよ。それで」





「何を、何をやっているんだ、くそおおおお!!!! 黒竜!!! いい加減目を覚ませ!!! 動け、暴れろ!!!!」


クロムウェルが今度はずっと倒れたままの黒竜に向かって『竜支配』のスキルを発動した。



「グッ、グゴオオオオオ!!!!」


ずっと伏せていたままの黒竜がそれを受けて咆哮し、立ち上がる。しかしそれを見たカインが黒竜に大声で言った。



「下がれ!!!」


この声を聞いて黒竜の身体がビクンと動き、そして頭を下げて大人しくなった。




「な、なんだよ。くそ、くそ、くそおおおお!! じゃあ、次は……」


「次はお前だろ?」


再びスキルを使おうとしたクロムウェルの前に二体の大きな竜が立って言った。それを見たクロムウェルが驚いて言う。



「おおお、お前はまさか……、ふ、風神竜、邪竜!?」


怒りの表情で立つ邪竜。その横に立つ風神竜の手には縄で縛られたゲルヴァを掴んでいる。全身怪我を負ったゲルヴァが泣きそうな声で言う。


「ク、クロムウェル様~、お、お助けを~」


「くっ、お、お前……、この使えぬクズが……」


瓦礫に埋もれたまま青くなるクロムウェルに邪竜と風神竜が言った。



「木に打ち付けられた我が息子の痛み、貴様にもとくと味わってもらう!!!」


「貴様だな、我等を討伐しようと目論んだのは? 亡くなった弟の恨み、ここで晴らさん!!!!」



「ひ、ひええええ!!!」


風神竜と邪竜は壁の瓦礫に埋もれたクロムウェルを引きずり出し、そしてその太い腕や足を振り上げた。





強神竜きょうしんりゅう様、どうしますか、こいつら?」


風神竜は左右の手にクロムウェルとゲルヴァを掴み、カインの前に来て言った。二人とも全身ボロボロになり惨めな姿を晒している。クロムウェルが周りに集まった竜達を見て思う。



(くそ、くそ、くそ!!! お、俺は英雄の血を引く者。竜の加護を受ける者!! この素晴らしき力、誰にも止められないんだぞおお!!!)


クロムウェルは掴まれたままスキル『竜支配』を全力で発動した。



「!! お前、またスキル使ったのか!?」


それに気付いたカインが叫ぶ。クロムウェルが小さな声で言う。


「くくくっ、さあ、暴れろ、竜達。この統べる者のめいによって……、!?」



しかしクララを始め、そこにいる竜の一体も『竜支配』を受けることはなかった。クロムウェルが青い顔をして言う。


「なんで、何で誰もかからないんだよ……」



クララが答える。


「信頼できる人がいるから」


「な、何だと……?」


クロムウェルが掠れた声で言う。


「私が自分を見失ってもちゃんと傍にいてくれる人がいるから。もうそんなまやかしには掛からない」


「そ、そんな……」


クロムウェルは下を向いて小さく言った。クララがカインに言う。


「でも、カインがまた《《キス》》をしてくれるなら洗脳されてもいいかな?」


「だだだ、団長おおお!? ななな、何を言って!!!???」


カインの顔が赤くなる。クララが尋ねる。


「キスは嫌い?」


「い、いえ、その、あのぉ……、嫌いじゃ、ない……、です……」


「ふふっ、ねえ、キスはどんな味がした?」


クララはカインに顔を近づけて聞く。カインはそのクララにどきどきしながら小さな声で言った。



「あ、あ、甘かった……、です……」


下を向いて恥ずかしそうに答えるカインにクララが小悪魔的に笑って言った。


「さっきお菓子食べたもんね、わたし。あははっ」


「えっ、あ、ひゃっ、だ、団長おぉぉ……」


クララは顔を赤め笑ってカインに応えた。





「カインさーーーん!!!」


ひとりの男が城の階段の下からカインの名を呼びながら走って来た。


「ライン王子!!」


ライン王子はカインの前まで来ると大きく頭を下げてから言った。



「この者共の処罰、何卒私にお任せ頂きたい」


「え、ええ?」


カインは突然王子に頭を下げられて驚く。ライン王子が言う。


「この共の不祥事、我が国の、いえ、私の不徳の致すところ。何卒、厳罰を与える故、私に処分を一任して頂きたい」


ライン王子は再びカインに頭を下げた。



「ええっと……、えっ、ええっ!?」


カインはふと後ろを振り向いて驚いた。

そこには風神竜、光神竜、黒竜、そして邪竜に回復して飛んできた白神竜と魔神竜、その他大勢の竜達が揃いカインに頭を下げていた。


「あ、あれ!? みんないつの間に?」


光神竜が言う。


「強ききょうが帰って来た! 我らは嬉しいぞ!!」



風神竜が言う。


「我ら一同、カイン様に忠誠を誓う所存でございます」


一斉に頭を下げる竜達。邪竜が言う。



「そいつらの処分は強神竜様に任せるが、もし俺に任せてくれるならこの爪と牙で跡形も残らぬよう切り刻んでやる」


「ひ、ひいいい!!」


クロムウェルとゲルヴァが床に伏せながら青い顔をして悲鳴を上げる。風神竜が言う。


「切り刻む? それなら私の風魔法が最適だろう。すぐにでも……」



「いやだ、いやだ……、助けて、助けてくださいよおおお。私は、この男に命じられただけなんです。嫌だって言ったのにーーー、私は、私も被害者なんです!!!」


竜の迫力に押されゲルヴァが涙ながらに言った。


「き、貴様!!! ゲルヴァの分際で何を言う!!!」


それを聞いたクロムウェルがゲルヴァに向かって怒りを露わにする。



「醜いね」


「ああ、そうだな」


それを見ていたマリエルとハクが話す。

クロムウェルとゲルヴァはカインの元に来て頭を下げて懇願する。



「お、お願いだ。助けて、助けてくれ……、殺さないで、命だけはああぁ……」


「私達を、お願い。どうか助けて下さい……」



「え、ええっ、どうしよう……、ラ、ライン王子、お願いします、任せます!!!」


カインの言葉を聞いたライン王子がカインに頭を下げて感謝する。


「ありがとうございます!! それ、この二人を牢に入れておけ!!!」


「はっ!!」


クロムウェルとゲルヴァは、ライン王子と共にやって来た兵士に縄で縛られる。クロムウェルが力なく言った。



「私は、私は英雄ヴィンセントの血を引く選ばれし者ではなかったのか……、竜を操る力を持つ、世を統べる者では……、なかったのか……」


それを聞いた光神竜が言う。


「お前の力はほんの一瞬だけ竜を操るまやかしの力。そしてお前は触れちまったんだよ、《《本当》》に竜を統べる者の逆鱗に」


「ううっ、ううっ……」


クロムウェルは涙を流し、下を向きながら縄で縛られ兵士達に連れて行かれた。




「カインくーーーん!!!」


「カイン様ああああ!!!!!」


クロムウェル達が去った後、ローゼンティアとシルファールが慌ててカインの所にやって来た。


「カ、カイン君!! 未来の妻をさし置いて何をやっているのお~!!!」


「カカカカ、カイン様ああ!? わわわ、わたくしとも、そのおぉ、せ、接吻をおおぉ」



シルファールはそう言いながら顔を真っ赤にしてその場に倒れる。


「シ、シルファール姫えええ!?」


慌てるカインにスミレがよろよろとやって来て声を掛ける。



「カ、カイン様……」


「ス、スミレちゃん!? ど、どうしたのかな??」


スミレが顔を赤くして小さな声で言う。


「カ、カイン様として頂いた約束、まだ全然叶えて貰ってないんですが……」


カインの頭にこれまでさんざんスミレに行ってきたその場しのぎの約束を思い出す。


「あわわわっ、そ、そうだったね……、で、何があったっけ?」


スミレが照れながら言う。



「はい、わ、私とのデートに、おんぶ、お姫様抱っこに……、その、あ、後はパンツを貰って、そ、その、カイン様のお尻に顔をうずめて……」


カインが真っ赤になり慌てて言う。


「ちょ、ちょっと待って、なななな、何だか知らない約束もたくさんあるんだけどおおお!?」


カインがゆっくりと逃げ始める。スミレが叫ぶ。


「カ、カイン様ああ、お願ああいいしまああああすううぅぅ!!!」


「あわわわわっ!!!」




逃げるカインに更に後ろから大きな声が掛かった。


「あ! いた!! カイン《《様》》!!!!!」


カインが振り返ると、シリカ・ファインズのシリカとレターナが走ってやって来た。カインの目の前に来て言う。


「惚れた、惚れたぞ、カイン様!! 俺と子作りしろ!!!」


「へっ?」



「お前の子供が欲しい!! さあ、子作りだ!!!」


「ちょ、ちょ、ちょっとどうしたんですか!?」


驚くカイン。同じくレターナも興奮して言う。


「わ、私も子作り……、ううん、団長が一番なら私は二番でもいい!! ダメなら《《種》》だけでもいいわ!!!」


「いいい、いや、何言ってるのか意味が分からないんですけどおおおお!!??」




「カイン君、モテモテじゃん」


そんなカインを見ながらマリエルが笑って言う。クララも笑いながら言う。


「本当にそうだ」


カインが走りながらやって来て言った。


「だ、団長おおおぉ、た、助けて下さいよー」



クララが言う。


「人の初めての唇奪っておいて、そのすぐ後に他の女と子作りとか考えられないよな~」


「いいいいい、いいや、いやいや、そんなことは、僕は、何も、団長おおおぉ~」



クララが笑って言う。


「ふふっ、冗談だよ」


そしてクララはみんなの方に向かって大きな声で言った。



「さあ、帰ろうか。私達の拠点ホームへ!!!」


カインも笑顔で答える。



「は、はい!! みんなで一緒に帰りましょう!! えっ、あっ、ま、待ってください!! だ、団長おおおぉ」


カインは笑顔で先を歩くクララの後を追った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ