65.選抜された者達の意地
「あそこにもいるわ!!」
邪竜の仲間の背に乗ってランダルト王国へと戻るクララ達。
魔獣の森の結界が解かれ、その中に居たAランク以上の魔物達が森を出て近隣の村々を襲い始めている。
移動中、小さな集落を襲う魔物を見た冒険者がシルファールに言う。
「我々が対処します! 姫達は王城へ!!!」
「分かったわ、無理しない様に!!」
王城への移動の途中であちこちの村や街を襲う魔物達。それを冒険者達が手分けして対処しながら進む。
「一体どれだけいるのよ……」
竜の背に乗って移動しながら戦況を見るローゼンティアがつぶやく。森の結界を解いたのが誰かも分からない。ただ大変なことが起ころうとしているのは間違いなかった。
その時、隣で飛行していたレンゼントが皆に向かって叫ぶ。
「ランダルト王城が!!!」
やがて見えてくるランダルトの街や城。そこには既に砂煙や火の手が上がっていた。
「急ぎます! みなさん、戦闘の準備を!!」
ローゼンティアは風神竜達と戦って万全の状態ではない冒険者達にそう叫んだ。
「あれは、邪竜? 乗っているのは……、討伐隊の冒険者達なのか? あのゲルヴァめ、邪竜の討伐すら失敗したのか? ……まあいい。うちの可愛い子が暴れる舞台でも作ってあげようか」
ランダルト王城の最上階屋上から単眼鏡で空を見ていたクロムウェルがひとりつぶやく。
そして手で合図をするとその上空に真っ黒な黒竜が現れる。黒竜はゆっくりクロムウェルの傍に降り立つと、小さな鳴き声を上げてその巨体を擦り付けた。クロムウェルは黒竜を撫でながらその背に乗る。
「さあ、行こうか。私の世界構築の最終章、その開幕に向けて」
そう言って大空へ飛び立つ。
するとすぐ後に城の兵士がクロムウェルを探しに屋上へ現れて言った。
「ク、クロムウェル様、緊急事態です!! 魔物が、たくさんの魔物が城や街にやって来て暴れて……、あれ? いらっしゃらない?」
兵士は誰もいない屋上でひとり立ち尽くした。
「戦える者は全力で魔物討伐、回復できるものは負傷者の手当てを!!!」
「それ以外の人は街の人の救助をお願い!!!」
ランダルトの街に戻って来た冒険者達。シルファールとローゼンティアはすぐに皆に指示を出した。街中には既に数体の魔物が入って来て暴れており、一刻も早く討伐しなければならなかった。
ただ怪我が完治していない冒険者も多く、どこまで防げるか分からない。
「ハク! マリ!!」
クララ達は真っ先に拠点にいた二人の竜族を向かいに行った。
「よかった、無事で!!」
幸い二人に怪我はない。二人が言う。
「ど、どうしちゃったの、これ? 一体……」
クララが二人に事情を説明する。一緒にいた邪竜の仲間が二人の竜族に言う。
「白神竜様、魔神竜様、我らの背中に乗り上空へ避難を」
ハクが周りで暴れる魔物達を見て言う。
「そうか……、我らの力がまだ戻らぬ以上、ここはその行為に甘えよう。マリ、乗るぞ」
「うん! じゃあ、またね、みんな!」
ハクとマリは大きな邪竜の一体に乗り、そのまま上空へと飛んで行った。
「では、私達も行きましょう!!」
「ええ!!」
ララ・ファインズのメンバーも街で暴れる魔物達の応戦に走った。
ドーーーーーン!!!
「ぐっ、だが、負けぬ!!」
シリカ・ファインズのシリカ達アマゾネスは、街で暴れる巨大なトロールと戦っていた。巨大なハンマーを持ち目に映るものを次々と破壊していく。シリカはその重いハンマーの攻撃を両腕で受け止めてからトロールの大きな体へ反撃の拳を打ち込む。
ドン!!
「痛ってええ!!」
筋肉質の分厚く硬い皮膚にシリカの拳が悲鳴を上げる。その様子を見ていたレターナがシリカに言う。
「な、なあ、シリカ。こいつってもしかして、トロールキングじゃないか?」
「なに?」
シリカはその言葉を聞き耳を疑った。そしてよくその太い腕を見ると何かの紋章の様なものが描かれている。
「ト、トロールキングだ。ま、間違いない……」
Sクラスの魔物。
トロールの最上級種族。並の冒険者では一瞬で瞬殺される実力の持ち主。シリカが言う。
「へへっ、こんな最悪な状況でこんな最悪な奴と戦わなきゃならねえなんて……、嬉しいぜ!!」
「シリカ!!」
団長シリカはそうレターナに言うと拳を上げてトロールキングへと向かって言った。
ドーン、ドーーーーン!!!
「あ、あんなのがいるのかよ……!?」
ローゼン・ファインズの一行の前には体が石で作られた巨大なゴーレムが暴れていた。その恐るべき姿に盾役のダンベルが思わず弱音を吐く。レンゼントがその前に立って言った。
「お前に怖い物なんてあったのか、ダンベル。怖気づいたのならそこで見ておれ!」
レンゼントの手にはヒビが入って使えなくなった聖剣『レーヴァティン』の代わりに、途中冒険者が落としたただの鉄の剣が握られていた。レンゼントが言う。
「俺は姫様を守る『女神の剣』。何が起ころうと俺の心の剣までは折ることはできない!!!」
そう言うと単騎、鉄の剣を持って暴れるゴーレムへと斬りかかった。ダンベルが答える。
「ああ、分かってる。分かっているわい、そんなこと。このダンベル、命尽きるまで戦うのみ!!」
ダンベルもそう言うとレンゼントの後追ってゴーレムへ向かって言った。ローゼンティアが言う。
「回復は任せて。頼むわよ、二人とも」
ローゼンティアは回復魔法の発動準備にかかった。
「ねえ、こんなレアモンスター、こんなところで見たくなかったわね」
クララはその目の前に立つ魔物を見てマリエルに言った。
「同感、書物でしか見たことの無い魔物だよ。ホントに……」
ララ・ファインズの前に対峙するのは吸血鬼の幹部とされるマスターヴァンパイア。Sクラスの魔物である。クララ達を見たマスターヴァンパイアが言う。
「これはこれは可愛いお嬢さん達がこんなにもたくさん。ひとりひとりしっかりとその美味しそうな血液、飲んで差し上げましょう」
そう言って尖った長い舌を出して笑うマスターヴァンパイア。シルファールが言う。
「な、なんとおぞましい……」
「行くわよ! もぐもぐ……、ファイヤーストーム!!!」
クララが木の箱からお菓子を口に入れて魔法を発動する。マリエルとシルファールが後に続く。
「私も行くよ!! クロスウィンドウ!!!!!」
「行きますわ!! フレイムファイヤー!!!!」
魔法を放ちながらクララがスミレに言う。
「スミレ、魔法が終わったら頼むよ!!」
「ふぁ、ふぁい!!」
スミレは今回頑張ったらカインに『お姫様抱っこ』をして貰えると、クララから聞かされていた。
(おおおお、お姫様、抱っこオオオ!! カイン様のおおお!!)
スミレの剣を握る手に力が入る。
「ぐはっ、ぐほっ、うぐぐぐっ、ぐはああっ!!!」
風神竜はヒト型になり、一心不乱に目の前の岩にもたれ掛かるゲルヴァを殴り続けた。
「お前のせいで、お前の為に……」
ゲルヴァは唸り声を上げながら避けることもできずに一方的に殴られる。
「風神竜……」
その様子を後ろから見つめるカインと邪竜。風神竜は涙を流しながら殴り続ける。
ドン!
その場に倒れるゲルヴァ。
風神竜も両膝をついてその場にうずくまる。その後ろにカインが行き、声を掛けた。
「もう気は済みましたか?」
風神竜が答える。
「こんな奴を殴っても、殺しても、弟は帰ってこない。私が、私が未熟だからなんです……」
風神竜は冷静だった。もうずっと前から冷静であった。邪竜が隣に来て言う。
「俺の息子はカイン様に助けられたんであなたと同じじゃないけど、そのやるせない気持ち分かります」
倒れたまま顔の形が変わるほど殴られたゲルヴァが言う。
「お、お願い、だ……、も、もう許して……、くれ……、わ、私も命令、されただけなんだよ……」
カインが言う。
「誰に命令されたんですか?」
「……」
無言になるゲルヴァ。
「答えろよ!!!」
ドン!!
「ぎゃ!!」
その態度に腹を立てた邪竜が倒れているゲルヴァを蹴りつける。
「痛い、痛いよお……、もう、やめて、本当に……、クロムウェル、さま……、クロムウェル様よ……、だから、もうこれ以上は、勘弁して……」
血に溢れた口からようやくその名前が告げられた。
「やはりそうか。邪竜、ランダルト王国まで運んで欲しい!!」
「はっ、カイン様!!」
邪竜は前屈みになってカインを乗せる。そして風神竜に言った。
「ゲルヴァの拘束を命じる。決して殺さぬように。彼には生きてその罪を償って貰うから!!」
風神竜はカインの方に振り向くと頭を下げて言った。
「かしこまりました、カイン様……、ありがとう、ありがとうございます」
風神竜はカイン達が見えなくなるまで頭を下げ続けた。その意味を理解していた。
――カイン様は私にお時間をくださったのだ……
ランダルト王国が魔物の襲撃を受けているこの状況。少しでも戦える戦力が欲しい中、あえて自分に時間をくださったのだ。この愚か者に対峙する時間を。
風神竜は再び竜の姿になって転がるゲルヴァの頭を掴む。
「ひ、ひいぃ……」
血塗れの顔のゲルヴァに再び恐怖が襲う。風神竜が大声で言う。
「カイン様のお情け、ご命令だからお前は殺さぬ。だが我ら風竜族に行ったこの度のこと、決して忘れぬ。良いかああ!!!」
「ひ、ひえぇぇ……、は、はい……、ぎゃ!!」
風神竜はそのまま掴んでいたゲルヴァを近くの岩に投げつける。悲鳴を上げるゲルヴァ。そして風神竜は翼を広げると、近くにいた飛竜に言う。
「王城へ向かう。その男を殺さぬよう、一旦牢に入れておくように!!!」
「御意!」
風神竜はそう命じると翼を広げて大空に舞った。
(カイン様、今私も参ります!!)
風神竜は全力で先に飛び去ったカイン達を追いかけた。




