58.光のギフト
「い、今、何て言ったんだ?」
二体並んだ風竜のうち弟の竜が信じられない顔で言った。年老いた竜が言う。
「風神竜の名は兄に継がせる」
弟は隣にいる自分より出来の悪い兄を見てから言った。
「実力、強さ、戦歴、どれを取っても俺の方が上。何故俺じゃないんだ!!!」
老竜が言う。
「決まったことだ。いずれお前にも分かるだろう……」
「く、くそおお!!! お前らなんてみんなくたばれ!!!!!」
そう叫ぶと弟の竜は大きな翼を広げて強い風と共に空の彼方へ消えて行った。
「お、弟よ……」
弟が飛び去った空を眺めながら兄は小さくつぶやいた。
「う~ん、試練残念だったね」
ランダルト王国の拠点に戻って来たララ・ファインズの一行。夜も更け、辺りは既に夜の帳がおりている。温かい明かりが灯った部屋でマリエルがクララに言った。
「そうだね。失格と言う言葉は不本意なんだけど、本音を言えばランダルト王国の討伐隊には参加したくなかったので良かったかなと言う気持ちもある」
シルファールが言う。
「同感です。少し、いえ大いに納得できない感はありますけどね」
「あ、あのおぉ、これからどうするんですか?」
カインがクララに聞く。
「そうだね、ひとまずは情報収集かな。シルファール姫にお願いして、遠征隊の情報はローゼンティア姫から流して貰えるようにしておいたわ」
「えっ! そうなんですか?」
「そうですわ、カイン様。カイン様、いえ、世界の為に私も全力を尽くします! もちろん、カ、カイン様にも昼夜問わず全力を尽くしますわ!!」
そう言って顔を赤らめて恥ずかしがるシルファール。
「また病気か?」
ハクが無表情で言う。
「まあ病気みたいなものよね~」
マリエルが笑って言う。
ガンガンガン……
その時、ホームの扉を誰かが勢い良く叩く音が響いた。
「誰?」
皆が扉の方を振り向く。
「ぼ、僕が開けてきます……」
カインが立ち上がり、そして恐る恐る扉を開く。
「あっ!」
それはそこにいる皆が会ったことのある男であった。カインが叫ぶ。
「こ、光神竜さん!?」
それは筋肉質で中年の渋さ光る竜、光神竜その人であった。
「だ、大丈夫ですか!?」
光神竜は全身に大怪我を負っていた。
ヒト型ではあったが着ている衣服に真っ赤な血が滲んでいる。ゼイゼイと息も荒い。
「な、中へ、早く!!」
カインは光神竜に肩を貸し、急ぎ拠点の中へと入れる。
傷の手当てをし、マリエルが回復魔法を掛ける。皆の治療の甲斐もあってやがて光神竜は話ができるくらいに回復した。
「すまねえな、強よ」
幾分回復した光神竜がカインに言う。
「い、いえ、ぼ、僕はカインと言う名前があって……」
「光さん!」
「光おじさん!!」
何か言おうとしたカインの口を遮るようにハクとマリが光神竜の名を呼んだ。
「心配掛けちまったな、二人とも」
「大丈夫です。無事で良かった……」
ハクが涙目になって言う。クララが尋ねる。
「で、どうしたんですか? その大怪我は?」
光神竜が答える。
「黒に、黒竜にやられた」
「こ、黒竜に?」
カイン達は驚きの顔をした。
「黒竜は行方不明のはずじゃ……」
ハクの言葉に光神竜が答える。
「ああ、行方不明だった。ずっと探していたんだが急に現れた、俺の目の前に。そしていきなり襲って来たんだ」
「どうして黒さんが? それに戦ったとしても光さんが負けるはずが……」
ハクの言葉に頷いて光神竜が言う。
「普通なら負けない。だが、あいつは普通じゃなかった。何と言うか操られているというか、まったくあいつの意思を感じられなかった……」
「あ、操る??」
クララ達がその言葉を聞いて驚いた顔をする。光神竜が言う。
「強かった。万全の俺がほぼ一方的に負けた。ははっ、情けねえよな」
一同の間に沈黙の空気が流れる。光神竜が言う。
「強よ、黒の奴を助けてやってくれねえか」
そう言われたカインが驚いた顔をして言う。
「ぼぼ、僕がですか?? で、できるかな……」
光神竜が笑って言う。
「できるさ、お前なら」
そう言うと光神竜は真っ白い玉を取り出してカインに渡す。
「俺のギフトだ。受け取ってくれ」
「えっ! い、いいんですか?」
黙って頷く光神竜。カインは頭を下げて白い玉を受け取りもぐもぐと口に入れて食べた。
「……もぐもぐ、味はないんですね。やっぱり」
「そうなのか? 一回しか渡せねえんで、俺は知らねえ」
食べ終えたカインに光神竜が言う。
「これで光の力が使えるようになったはず。頼む、黒を救ってくれ!!」
「は、はい!!」
カインは手握って頭を下げる光神竜に向かってしっかりと返事をした。
一方、ランダルト王城では新たに発見されたという風の竜の情報をもとに討伐隊が編成されていた。
「なかなか壮観な眺めだな」
王城中庭に集まった各国の冒険者達を見てクロムウェルが言う。
「御意。世界最高の討伐隊でございます~」
横に立つゲルヴァが言う。
隊に編成されたのは隊長のゲルヴァを始め、ローゼンティア率いるローゼン・ファインズ、シリカ率いるシリカ・ファインズなど厳しい試練を通過した厳選された冒険者達である。
集まった一同にクロムウェルが言う。
「諸君、これより暗黒竜討伐の前哨戦とも言ってもいい風の竜退治に向かう。心配は要らぬ! この世界最強の討伐隊の前に敵などいない!!!」
「おおおーー!!!」
大英雄ヴィンセントの血を引くクロムウェルの言葉に皆が酔う。盲目的に心地の良い言葉だけに酔い、選ばれた者と言う自尊心がそれに火をつける。討伐と言う大義名分があれば虐殺も厭わない。
(各国の代表する冒険者でもこうなってしまうのか……)
その中でひとり冷めた目をしてみていたローゼンティアがその発狂じみた討伐隊を見て思った。
「この先は風の竜様がいらっしゃる聖域。どうか、どうかこれ以上の進軍はお控え頂きますよう……」
竜討伐隊は新たな竜が目撃されたと言う風神山の近くの村へ来ていた。
村には風の竜にまつわる言い伝えが多く残っており、これまで誰も見たことはなかったが竜が棲む山として一切の立ち入りを禁止していた。村の長の言葉を聞き、大将に任命されたライン王子がゲルヴァに尋ねる。
「ゲルヴァ、この先は聖域。本当にこのまま進軍を進めてよいものか?」
ゲルヴァが答える。
「当然でござりますう。暗黒竜を始めとしたヒト族に害をなすものの殲滅が我らの使命。そこに情は要りませぬぞ~」
「しかし、実質的な被害も出ていないものを討伐するのはどうかと思うが」
ゲルヴァが無表情で言う。
「それはクロムウェル様の戦略に沿えないと言う意味で? このまま帰還すると言うことでしょうか?」
ライン王子が慌てて言う。
「い、いや、そう言う意味ではない。分かった。このまま進軍しよう」
「かしこまりました」
ゲルヴァは頭を下げながらにやにやと笑った。
一方、風神山中腹にある竜の住処では見回りに出ていた飛竜からの報告が行われていた。
「申し上げます! 山の結界を破ってヒト族らしき者達が攻めて来ています!!」
「わかった。ご苦労」
「はっ!」
側近が言った。
「風神竜様、山の麓より邪の念を感じまする……」
「ああ、何者かは知らぬが、戦いは避けられぬようだ……」
ひと際大きな体の風神竜が悲しそうに言った。




