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55.カインの決意

強神竜きょうしんりゅう様、ご無礼をお許しください……」


ローゼン・ファインズの一行を襲っていた邪竜は、カインが強神竜のギフトを受け継ぐ者だと知りその父親である老竜と共に頭を下げた。



「い、いえ、そんな、僕はべつに、退治にやって来たのは僕らの方だし……」


戦闘モードが終わり普段の内気なカインに戻って答える。クララが言う。


「カイン、まずは回復を!」


「あ、はい!」


クララの指示で倒れているローゼン・ファインズのメンバーの回復が行われた。意識を取り戻したレンゼントやダンベルが頭を下げている邪竜を見て驚く。ローゼンティアが説明すると更に驚いた顔をして言った。



「ほ、本当だったのか? 竜のギフト持ちって……」


信じられぬ気持ちはあったが、目の前の光景を見せらえては疑うこともまた難しかった。




「で、強神竜様がなぜこんな場所へ?」


老竜がカインに尋ねた。カインは暗黒竜やランダルト王国の試練の為にここへ飛ばされたことを説明した。それを聞きながら怒り出す邪竜。老竜がそれをなだめてカインに言う。


「暗黒竜については暴走したとは噂で聞きましたが、そんな被害が出ておりましたか。そうですか……」


老竜はあまり納得できない様子で言った。


「カイン様もヒト族であるので申し上げにくいのですが、ここらのヒト族の行いは少し度を過ぎております」


「度を過ぎている?」


クララが聞き直す。


「ええ、周辺国で扱えなくなった狂暴な魔獣を集めてこの森に放つまでは大目に見ましょうが、周囲に結界を張って出られなくしたり、今日は魔獣強化の魔法を掛けたりと少し度が過ぎます」



「魔獣強化の魔法?」


意外な話にローゼンティアが聞き返す。


「そうじゃ。だからこの森の魔物が皆いきり立っておる。ヒト族は何を考えておるのか知らぬが、冒険者の試練とか森に暮らす生き物達を皆殺しにでもする気か」


「そんな……」


クララ達は邪竜の話を聞き、もしそれが本当ならば一体何が正しいのか分からなくなっていた。それまで黙って聞いていた邪竜が老竜に言う。



「オ、オヤジ。この方が本当に強神竜様の力を持っているのならば、もしかして助けて貰えるかも……」


それを聞いた老竜が答える。


「わしも同じことを考えておった所じゃ」



「な、何でしょうか?」


にわかに自分の話題となったカインが恐る恐る聞く。邪竜が言う。


「強神竜様、実はオレの幼い息子がヒト族に捕まり、巨木に打ち付けられています……」


「えっ?」


その言葉に驚く一同。邪竜が続ける。


「ある日突然転移魔法でやって来たヒト族達が、俺がいない間に息子を捕まえ巨木に杭で打ち付けた。すぐに皆が助け出そうとしたが、ヒト族の奴らはその周りに強力な結界を張り誰も入ることができない」


「そんな酷い……」


マリエルが口に手を当てて言う。


「まだ、今も俺の息子は痛くて泣いているんだ!! 強神竜様よお、助けて、助けてくれねえか!!!」



「わ、わかった。出来るかどうか分からないけど行って見よう」


「すぐに行きましょう」


クララもカインの言葉に賛成する。しかしローゼンティアの後ろにいた男が異論を唱えた。



「お待ちください、それはあなた方のファインズで対処願います。ローゼンティア様は我々と共に別行動します」


「レ、レンゼント!!」


思わぬ発言をしたレンゼントにローゼンティアが言う。



「当然のことです。何をどう考えれば邪竜などの言葉を信じることができましょうか。我々の使命は姫様の安全。そんな危険な場所に行くことはできませぬ」


レンゼントは力強い言葉で言った。


「な、何だと? 俺の言葉を信用できないってのか!!!」


邪竜が怒り大きな声で威嚇する。



「やめぬか!!」


老竜がなだめる。そして言う。


「相容れぬのじゃ。竜族とヒト族では。それは仕方のない摂理……」


悲しそうに言う老竜を皆が見つめる。ローゼンティアが言う。



「私は行くわよ~。だって未来の旦那様が行くんだから!!」


「えっ!?」


「はっ?」


レンゼントが大きな声で言う。


「ひ、姫。な、何をご冗談を!! わ、私は姫様のことが……」


そこまで言ったレンゼントが慌てて自分の口を塞ぐ。それを聞いていたマリエルが言う。



「私には関係なんだけど、姫様の安全を考えるならカイン君と一緒の方がいいじゃない?」


「な、なんだと?」


レンゼントとダンベルがマリエルを睨む。


「だって、邪竜さんに負けちゃって姫様をひとりにしたのは誰なのかな~?」


「うっ、そ、それは……」


マリエルの言葉に何も言い返せなくなるレンゼント。ローゼンティアが言う。


「レンゼント、皆で行きましょう。これは団長命令です」


団長命令と言う言葉を聞き、下を向いて頷くレンゼント。ローゼンティアがカインに言う。



「ごめんね~、カイン君。レンゼントは悪子じゃないんだけど、頭がちょっと固くて……」


「は、はあ……」


カインが苦笑して応える。老竜がカインに言う。



「カイン様、旦那様と言うことはこの雌がカイン様の()()()になると言うことでしょうか」


「へっ!?」


「えっ!? つがい? いや~、恥ずかしいわああ!!」


顔を赤らめてローゼンティアが言う。それを聞いたシルファールがそれ以上に顔を赤くして言う。



「つつつ、つがいって、メ、メスって、な、なんて、羨まし、じゃなくて淫乱な、わ、私が()()()です!!!!」


老竜が頷いて言う。


「ほお、カイン様は多妻制ですか? 結構結構」


カインが慌てて否定する。


「たたた、多妻制って、ええっ、そ、そんなことは絶対ないし、いや、二人ともそんなんじゃ……」



「なあ、そろそろいいか。息子の所行っても……」


それを聞いていた邪竜がぼそっとつぶやいた。






「こ、これは酷い……」


邪竜に案内されたのは更に森の奥にある一本の巨木であった。

その木の真ん中あたりにまだ幼い竜が大きな杭で打ち付けられている。ずっと泣き続けているのか顔は涙で濡れ、杭の刺さった翼からは血液が流れ一部が黒く変色している。


「息子よ……」


邪竜がその息子に近付こうとしたが木の周りに張られた特殊な結界によって近づけない。ローゼンティアが言う。


「こんな酷いことをヒト族が……」


「そりゃ怒り狂うのも無理はないですね……」


シルファールも同意する。レンゼントが剣を抜いて皆の前に出て言った。



「先の言葉訂正致します。同じヒト族の蛮行、このレンゼントが許すまじ!!」


そう言って結界に向かって剣を振り抜いた。


ガン!!!


「なっ!?」


レンゼントの剣が結界に当たって甲高い音を立ててその攻撃を弾く。


「硬いな……」


その後何度か剣で斬りつけるものの結界はびくともしなかった。老竜が言う。


「何度も試しました。でも破壊できぬのじゃ、この結界……」


その後もレンゼントやダンベル、そしてシルファールの攻撃魔法で結界突破を試みるもやはり破壊することはできなかった。



「僕がやってみます」


カインは疲労したみんなの代わりに前に出て剣を抜いた。


「はあっ!!!」


ガーーーーン!!!


カインの剣でもその結界を破壊することはできなかった。


ガンガンガン、ガーーーン!!! バキン!!!


何度も叩きつける剣。その衝撃についに剣が半分に折れてしまった。


「カイン……」


「大丈夫、これからです!!」


カインは右手に力を込めると思いきり結界を殴りつけた。


ドン、ドン、ドーーーーン!!!


それでも破壊できない結界。

ゼイゼイと肩で息をするカイン。やがてその拳から血が流れるようになる。



「カイン様……」


それを見守る邪竜達。

割れない結界。それでもカインは諦めずに無心で何度も何度も殴り続けた。



――壊さなきゃいけない、自分が


そこにはヒト族であり竜族の意思を受け継ぐ自分だからこそ必ず、この忌々しい結界を壊さなければならないと言う意識しない決意のようなものがあった。

そして結界と格闘すること半刻、ようやくその時が訪れた。



ドン!! バリイイイイイン!!!!


「や、やった……」


そう言うとカインはそのまま崩れるように地面に座り込んだ。



「い、今、助けるぞ!!!!」


邪竜は一目散に木に打ち付けられた息子に走り寄り、杭を抜いて抱きしめる。


「と、父ちゃん、ううっ、うわあああああん!!!」


大声で泣く息子。しかしその生命力は限界に近かった。シルファールがローゼンティアに言う。



「ティア、『大回復』使える?」


ローゼンティアが答える。


「もう今日は一回使っちゃったけど、やってみるわ!!」


ローゼンティアはそう言うと泣いている邪竜の子供の所に行って回復魔法を唱え始めた。



「お、お前……」


驚く邪竜にローゼンティアが言う。


「大丈夫、そのまま……」


ローゼンティアの手が緑色に輝く。

それと同時に顔色が良くなって行く邪竜の子供。ローゼンティアが言う。



「だめ。まだ全快じゃない。やっぱりヒト族じゃないんで勝手が違うわ。あと一回掛けられればいいんだけど……」


「じゃあ、明日また掛けよう」


「えっ?」


クララの言葉にローゼンティアが驚く。クララが続ける。


「うちのカインもあの通りくたばっているし、ねえ、今夜は私達をこの森に泊めてくれない?」


クララは老竜を見て言った。邪竜が答える。



「ああ、大歓迎だ。強神竜様にお礼をしなきゃならないし、それで明日もう一度回復魔法をかけて貰えるのならばこれ以上の喜びはない!!」


「……良いのか?」


老竜は人一倍他種族に干渉されることを嫌った息子が、ヒト族を自分の住処すみかに招き入れることに驚きを持って聞いた。クララが言う。



「じゃあ、行こうか。竜のおうちへ!!!」


「は、はひ~」


体力を使い切ったカインが小さな声で返事した。

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