53.強者達の苦戦
「全員、行ったか?」
「はっ、クロムウェル様」
ランダルト王城のある一室、魔獣の森へ転移する魔法陣を眺めながらクロムウェルはゲルヴァに尋ねた。
「あちらの方もぬかりないな?」
「もちろんでございます。魔獣の森全体に魔物強化魔法、並びに狂暴化魔法をかけてあります。今やトチ狂った魔獣達の楽園にございますう~」
「よかろう。例の件は?」
クロムウェルはゲルヴァに声を低くして聞いた。ゲルヴァがにやにやして答える。
「無論、終わっております。かなり苦労しましたが木に張り付け、強力な結界を張っておきました」
クロムウェルが満足そうな顔で応える。そして尋ねた。
「ふふっ、そうか。で、今回でどのくらい減ると思う?」
クロムウェルは笑みを浮かべながらゲルヴァを見る。
「そうですね~、半分ぐらいかと」
「半分? その程度か?」
クロムウェルが意外そうな顔をして言う。
「ええ、凶悪な魔獣とはいえ彼らの国を代表する冒険者達。間単にはやられませぬ」
「そうか、まあ良い。少なくともあの下賤な平民が消えてくれればそれで良い」
クロムウェルは美しい髪に触れながら言う。ゲルヴァが答える。
「あの臆病な平民などあっと今に魔獣のエサとなるでしょう。それよりもローゼンティア様は大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だろう。彼女にはレンゼントやダンベルがついている。必ず城に戻って来るだろう。そして私と、くくくっ……」
クロムウェルは不気味な声を出して笑った。
「はあ、はあ。なあ、シリカ……」
体中傷を負ったレターナがシリカに尋ねる。
「な、何だ……」
「アークデーモンって、あ、あんなに強かったっけ?」
シリカ・ファインズの前には真っ黒なアークデーモンが対峙していた。シリカが言う。
「分からねえが、黒いアークデーモンって言うのは初めてだ。それにあの大きさ。普通の奴じゃねえのは間違いない」
確認されているアークデーモンは通常紫色。大きさもヒト族の倍ほどだが、目の前にいる黒いアークデーモンはその倍以上はある。
そして圧倒的な魔法の威力。通常の魔法ではほとんどダメージを受けないシリカ達であったが、このアークデーモンが放つ魔法には驚くほど体力を削られていた。
「行くぞ!!!」
シリカがそう言って地面を強く蹴り、俊足を飛ばしてアークデーモンに肉薄する。
「はああ!!!」
ドオオオオン!!!
シリカの右拳から繰り出される強烈な一撃。重低音を響かせながら辺り一帯の森に響く攻撃。その衝撃で周りの巨木が揺れる。
「ぐほっ」
アークデーモンは少し後退し、そして口から液体を吐き出す。
(い、痛ってええ!!!)
シリカは撃ちこんだ拳を逆の手で押さえる。多少ダメージは入ったが、それでもほぼ一撃で沈める自分の拳があまり通じないことに改めて驚く。シリカは後退してレターナに言う。
「本気で行くぞ、でなきゃやられる!!」
アークデーモンが魔法の詠唱に入った。
「ローゼンティア様はダンベルの後方へ、早く!!」
ローゼン・ファインズは二体の凶悪な魔物と対峙していた。
一体は山ほどの大きさもあるワイルドボア。イノシシ型の魔物だが、その凶暴さと体と同じぐらい長く太く前に突き出した牙が特徴。
もう一体は凶悪な邪竜。禍々しい邪気を放ち、所々破れた翼で宙を舞いながら今にも襲い掛かろうとしている。
ローゼンティアはドワーフのダンベルの後ろへと隠れる。
ローゼン・ファインズの盾役、ディフェンダーのダンベル。強靭な肉体と分厚い甲冑でどんな魔物の攻撃をも体で防ぐ最強の盾。
そして前方にはローゼン・ファインズの最強の矛である通称『女神の剣』と呼ばれるレンゼントが構えて立つ。ローゼンティアが回復魔法の準備をする。
最強の盾に矛、そして回復魔法が揃ったこのファインズだからこそ、常に世界でもトップクラスと称され続けている。
「行くぞおお!! はあああっ!!!!」
レンゼントが剣を構えてワイルドボアに斬り込む。ワイルドボアもそれに合わせて巨大な牙を左右に振り始める。
ドン!
レンゼントと共に前に出たダンベルがその巨大ない牙を受け止める。そこにレンゼントが跳躍して剣を振りかざした。
「絶対斬りィ!!!!!」
ドオオン!!
レンゼントのスキル『絶対斬り』。
どんな硬いものでも必ず斬れると言うレアスキル。『女神の剣』と呼ばれるレンゼントの必殺の一撃である。
「グギャゴオオオオオォ!!!!」
ワイルドボアの背中から噴き出す鮮血。それを見たダンベルが叫ぶ。
「よし! 追撃だああ!!!」
しかしレンゼントは分かっていた。
(違う! ほとんど斬れていない。斬ったのは皮程度……)
ドン!!
「ぐはっ!!!」
ワイルドボアは背中を斬り近くに立っていたレンゼントに向けて大きな牙を振って攻撃をした。
「レンゼント!!!」
最高の攻撃手レンゼント。その弱点を挙げるとすれば『防御』であろう。攻撃に特化した為に防御に関しては並の冒険者程度であった。牙の攻撃を受け巨木へ吹き飛ばされるレンゼント。
「きゃああ!!!」
一方、ローゼンティアには護衛の団員が数名いたがあっと言う間に邪竜に倒され今やその身が危険にさらされていた。
「ロ、ローゼンティア様!!!」
鉄壁のディフェンダーダンベルが急ぎローゼンティアの元へ駆けた。
「うわわわわっ、は、早く助けに行かないと!!」
カイン達は叫び声がした方へと急ぎ向かう。
巨大な葉やシダが多い茂る魔獣の森は思った以上に移動が困難であった。絡みつく植物を払いながら声の方へと進むララ・ファインズ。右も左も分からぬ深い森の中、不安と恐怖が一行を包み込む。
「み、見つけた!! あれは!! シリカさん!!!」
森の中を移動しやって来た先でようやく見つけた声の主、それは怪我をしたシリカ・ファインズの一行であった。
身につけたアマゾネスの正装がぼろぼろに破れ、シリカもレターナも大きな怪我を負って倒れている。そしてその先には黒いアークデーモンも顔の形が分からぬほど殴られて死に絶えている。
「回復が、回復が追い付かないよ……」
シリカ・ファインズのヒーラーであろう褐色の女の子が泣きながら二人の怪我を治そうとしているが、その怪我の酷さに一向に回復が追い付かない。
「マリエル、そして姫もお願いできますか?」
「ええ、勿論よ!」
クララの指示を受けてマリエルとシルファールが二人のアマゾネス戦士の元に向かい回復の手伝いを始める。それに気付いたヒーラーの女の子が言う。
「あ、あなた達は!?」
「いいのよ、同じ冒険者同士。助け合いましょう」
マリエルが回復しさせながら返事をする。カインが倒れたアークデーモンを見て言う。
「ああ、あんなのと戦ったのおお?? ここ、怖いいいいぃ……」
真っ黒なアークデーモンは倒れているだけでも十分な迫力を持っていた。
「ううっ……」
しばらくして回復魔法が効いたのかシリカが目を覚まして上半身を起こした。
「お、お前達は!?」
倒れたアークデーモン、そして回復をするララ・ファインズのメンバーを見て言った。
「な、なぜ回復を??」
シルファールが答える。
「怪我しているでしょ。理由はそれだけよ」
「ううっ……」
同じくレターナも目が覚める。シリカが立ち上がって言う。
「か、回復して貰ったのは有り難く思う。だが、お、お前達と慣れ合うつもりはない!! せいぜい死なぬよう頑張るんだな!!!」
シリカはそう言って立ち上がったレターナと他の団員と共に去って行った。シルファールが言う。
「予想以上の難易度ね。今回の試練。あのシリカ・ファインズがこんなに苦戦するなんて……」
「どどど、どうしましょうぅ。今度は僕らも危ないかも……」
「……」
黙って何かを考えるクララにマリエルが尋ねる。
「ねえ、どうしたの、クララ?」
クララが答える。
「いや、さっき私達が聞こえた悲鳴って、男の人の悲鳴だったよね……」
「!!」
「いなんだよ、シリカ・ファインズに男の人って……」
女性だけで構成されるアマゾネスのシリカ・ファインズ。そこに男性の姿はなかった。カインが言う。
「そ、それって……、どう言うことで……」
「ぐわああああ!!!!」
「!!」
別の方向から男の声で叫び声が聞こえた。クララが叫ぶ。
「彼女達だけじゃなかったんだよ、襲われていたのは!!!」
「行きましょう、声のする方へ!!」
シルファールが大きな声で言う。
カイン達は、今度ははっきりと聞こえた男の声がする方へと急ぎ向かう。
草を搔き分け進むごとに大きくなる叫び声と戦う音。そしてその声を発する場所に辿り着いたカイン達は驚きの光景を目にした。
「ロ、ローゼンティア姫!!!!」
そこにはたったひとり凶悪な邪竜の前に立つ怪我を負ったローゼンティアの姿があった。カインの姿に気付いたローゼンティアが叫ぶ。
「カ、カイン君!!!」
その瞬間、邪竜が恐ろしいほどのスピードでローゼンティアに向かって突入した。




