51.試練開始
「あ、あのおぉ……」
その小さな少女は何か言いたそうな顔をして下からお菓子を売るマリエルを見つめた。
ランダルト王国にやって来てもマリエルはぶれなかった。
世界選抜会議を『異世界お菓子』の海外進出の絶好機と考え、クララ達とは別にこの日の為に念入りに準備を進めた。冒険者としても参加するかもしれないのでハクとマリと共に綿密な計画を練り、移動後にすぐにお菓子を売り出せる環境を整えた。
そしてその狙いはずばり当たった。
お菓子と言えば質素なクッキーぐらいしかなかったこの国に、マリエル達が持ち込んだ異世界のお菓子はあっと言う間に人々の心を掴んだ。売り出してすぐにできる行列。人々はマッジャークッキーやジョコレッドの美味しさに魅了された。
「か、可愛い!!」
また雷牙が紹介したメイド服を着て接客をすると言う奇抜なスタイルも受けた。これまでお菓子などに興味のなかった独身男性も店に来るようになり、子供から女性、そして男性までと幅広い層に異世界お菓子は広がっていった。
そんな中、今日何度もお菓子を買いに来た少女がマリエルに声を掛けた。
「どうしたのかな?」
マリエルは忙しい中、優しく少女に答えた。少女は真っ赤な顔をして言った。
「わ、私にお菓子作りを教えてください!!」
そこからのマリエルは早かった。
現れたその少女、チョコが父親から受け継いだ廃れた喫茶店の店主だと知り、すぐにお菓子屋さんに改装することを提案。もともとお菓子は好きで、異世界お菓子に魅せられていたチョコは二つ返事でこれを承諾。
チョコと契約を結び、拠点でお菓子を売りながら、改装工事や材料発注などの手続きをマリエルは手際良く行った。試練に向かう三日間ですべての段取りを終え、開店への仕上げをハクとマリに任せた。
「よし、これで数日後にはランダルト支店が開店できるわ!」
実はこの遠征でマリエルにとっての一番の目的である『支店開業』がこうして実現することとなった。
生存試練が始まるまでの三日間、それぞれが好きなように自分の時間を過ごした。
生存試練当日。
ランダルト王国に集まる代表冒険者達。王城中庭には大きな魔法陣が描かれており、受付を済ませたグループから順にその中へと消えて行く。
魔法陣の転生先はもちろん『魔獣の森』。広大な森のどこに転送されるかはランダムだが、そこで魔獣を討伐しこのランダルト王国まで戻って来なければならない。
ララ・ファインズからは団長のクララ、カイン、スミレにマリエル。そして補佐役にシルファールが加わった。そんなカインに後ろから声が掛かる。
「おい、カインとか言ったな。せいぜい死なぬよう頑張る事だな」
皆が振り返るとそこにはクロムウェルの姿あった。クララが言う。
「クロムウェル様はご参加されないのですか?」
「なに?」
クロムウェルがクララを見る。小柄だがいやらしい体をしている。そして思う。
(あの俺を見る目、きっと一目惚れでもしたのだろう。俺はイケメンだからな。きっと何か会話をしたくてあのようなこと言うのだろうな。くくくっ……)
クロムウェルが答える。
「世界最強の私が参加しては意味がない。私と共に行く冒険者を決める試練なのでね。それは興覚めではないかね」
「そうですか」
クララは興味なさそうに言った。
「では、健闘を祈るよ」
そう言ってクロムウェルが去って行った。それと入れ替わりに別の女の声が響いた。
「お、お前達、またクロムウェル様の邪魔をしたのか!!」
今度はシリカ・ファインズのシリカとレターナが現れた。褐色の肌を大きく露出させたアマゾネスの正装を着ている。カインが慌てて答える。
「いいい、いえ、ぼぼ、僕らはただ挨拶を……」
シリカが腕を組みながらカインに言う。
「ふん! お前のような弱小者が選ばれるとは、この選抜もレベルが落ちたものよ」
シリカに続いてレターナも言う。
「本当にそう。弱い奴らは見ているだけでイライラする。生きる価値もないわ」
「は、はあ……」
カインはそう言って黙り込む。シリカ・ファインズのメンバーはそう怒りながら去って行った。
シルファールが言う。
「我々ガーデン王国の国際的地位は決して高くはないとはいえ、これまでの私達の戦績が低いばかりにカイン様に……」
悲しそうな顔をするシルファールにカインが言う。
「い、いえ、そんなことはないです! これから頑張りましょう!!」
「ああ、カイン様、何とお優しい……」
シルファールがカインを見てうっとりする。
「シルゥ、何してるの~?」
そこにシルファールの友人であるローゼン王国の姫ローゼンティアがやって来た。
「ティ、ティア!?」
シルファールが答える。ローゼンティアがカインに言う。
「カインく~ん、これから試練ね。一緒に行けないけど、頑張ろうね!」
ローゼンティアはカインに近付いてニコニコして言う。
「ちょ、ちょっとティア! 近すぎですわ、近すぎ!!」
カインの目の前まで迫っていたローゼンティアを離してシルファールが言う。カインが答える。
「あ、は、はい! 頑張りましょう!!」
ローゼンティアがカインの頭を撫でながら言う。
「可愛いわぁ。頑張りましょうね~」
「ティ、ティア!!」
怒るシルファールを横に、ローゼンティアは微笑みながら自分のファインズへと帰って行った。
「皆さん何しにいらっしゃったのかしら?」
マリエルがつぶやく。クララが答える。
「きっと竜の力を持つっているカインのことが気になるんでしょ?」
ようやく自由になったカインは近くでウトウトするスミレの背にある荷物を見て言った。
「スミレちゃん、その大きな荷物は何?」
皆がスミレの背にある荷物を見る。スミレが答える。
「うん? ううん、ふわあぁぁ、これはあ……、寝袋ですぅ~」
「へっ?」
スミレは準備の三日間の間に唯一準備したのがこの寝袋だった。野外でも快適な眠りを約束する高級寝袋。中級レベルの魔物では傷すらつけられない強度を誇り、防水はもちろん暑さ寒さにも強い。どこでも寝られるスミレのお気に入りの品であった。
「さあ、行こうか!」
「はい!!」
ララ・ファインズが魔法陣の中へと入って行った。




