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50.おまじない

ランダルト王城で発表された代表冒険者達の更なる選別方法、それは生存試練バトル・サバイバルであった。それを聞いた会場がどよめく。


「バ、バトル・サバイバル? こ、怖い……」


カインが震えながら壇上のクロムウェルを見つめる。そのクロムウェルが自分の後ろに立つ男に目をやってから言った。



「詳細はこのヴィンセント・ファインズ副団長のゲルヴァが説明致します」


その紹介を聞いてからクロムウェルの代わりに前に出た長身の男、その長い髪を耳にかけてから話し始める。


「は~い、みなさん。それではわたし、ゲルヴァが教えちゃうね~」


シンとする会場。クララが頭を抱えて首を振る。そんな空気も意に介さないゲルヴァが続ける。



「ランダルト王城郊外にある特別な森、通称『魔獣の森』ってのがあるんだけど、みんなにはそこに行って貰ってAランク以上の魔獣を三体、どきゅんどきゅんって倒しちゃって貰うわねえ~」


「魔獣の森?」

「Aランク以上の魔獣を、さ、三体!?」


それを聞いた会場から不安な声が聞こえる。ゲルヴァが説明を続ける。


「魔獣の森にはいっ〜ぱい、いっ〜ぱい魑魅魍魎がいるけどお、つよ〜いみんななら、だ・い・じょ・う・ぶ♡」


そう言って会場に向かってウィンクをするゲルヴァ。カインは目を合わさないように下を向く。ゲルヴァが続ける。


「そして三体を倒して城まで戻って来た順に合格としま~す。討伐の証にはこの紙を持って行ってね」


そう言って小さな紙を数枚取り出す。


「これは特別な紙で、Aランク以上の魔物を倒して数十分以内にその体に触れさせると真っ青に染まるの。これを三枚以上持って帰ってくださ〜い。で、一緒にAランクの魔物資料も渡しま~す」


そう言ってヴィンセント・ファインズの団員に資料を配らせようとするゲルヴァに少年の声が響いた。



「ちょ、ちょっと待った!!」


同じ壇上にいたライン王子である。王子が青い顔をして言う。


「ま、魔獣の森と言えばAランクどころかSランク以上の魔獣がいる場所。結界で覆われていて森から出られないようにしているが、そんなところに行く意味があるのか? 下手をしたら暗黒竜討伐前に死者が出る!!」


死者と言う言葉に騒めく会場。クロムウェルがライン王子の前に来て言う。



「王子、暗黒竜はランク評価ができないほどの厄災ですぞ。このくらいの試練でやられるようならばそもそもそんな奴は遠征隊には入れない。それを決めるのがこの試練。お分かりでしょう、そのくらい?」


「し、しかし……」


ライン王子が口籠る。


「は~い、王子様、そろそろお引き取りを。挨拶も終わったんでしょ?」


ゲルヴァが嫌味を交えて言う。突然の壇上の不穏な空気にどよめく会場。そんな空気を察してかクロムウェルが前に出て大声で言った。



「安心したまえ、諸君。君らなら必ず全ての魔物を倒して戻って来るだろう。私は信じている。そしてこの英雄ヴィンセントの血を引く私と共に厄災を打ち破り、誇りある同志と共に未来を紡いでいこうじゃないか!!」


「お、おおおーーっ!!!」


クロムウェルの話に大歓声で答える冒険者達。ライン王子が心配して言った発言もその大きな歓声によってかき消されて行った。





「ここがランダルト王国での拠点ホームになるところか!」


カインやクララが王城の説明会に行っている最中、戦闘に参加しないハクとマリはランダルト王国で滞在する仮拠点の場所を探していた。

そこで見つけた新しい物件。日当たりも良く宿泊はもちろん、調理設備も整った極上物件。説明会の後にやって来たクララ達も納得する。


「素晴らしいわ。入り口付近でお菓子も売れる!!」


特にランダルト王国でも商売をしようと思っていたマリエルはその造りに満足した。入り口が表通りに面しており、人の往来もある。異世界お菓子売りにはぴったりの場所であった。



「三日後か……」


生存試練バトル・サバイバルが始まるのが三日後。それを思ってクララが皆に言う。


「それまでに各自しっかりと準備をしておくように」


クララは自分に言い聞かすように大きな声で言った。マリエルがそれに反応する。



「そうね、しっかり準備するわよ。ハク、マリ。いい?」


マリエルが二人の竜族に言う。


「ああ、大丈夫」

「うん、頑張ろうね」


三人は商売用にしっかりとメイド服を持参して来ている。それを見たクララが言う。


「おいおい、君達は一体何を頑張るんだい?」


「何って、お菓子売りだよ」


普通に答えるマリエルにクララが呆れて言う。


「あははっ、やっぱりそうだよね……」


そして皆に向かって言った。



「よし、じゃあ明日、宿屋から引っ越しするよ!!」


「はい!!」


皆が元気に答えた。




その夜、宿泊している宿屋にいると、ランダルト王国の使いの者が尋ねて来た。

王家の紋章が入った身分証を提示する使いの者。それを確認してからクララが言う。


「何でしょうか? こんな夜分に?」


使いの者は遅い時間に訪れたことを謝罪し、そして国からの伝令を伝えた。



「本日の魔物討伐の件ですが、ライン王子の憂慮もあり討伐数が三体から一体に変更となりました。どうぞよろしくお願いします」


そう言って使いの者は頭を下げて帰って行った。帰り行く使いの者を見ながらクララが言う。



「変更、ねえ……」


「よ、良かったですね、団長。す、少し楽になって……」


「そうだね」


笑顔で言うカインにクララが答えた。




一方、早朝にアパートを出る雷牙。

今日は社運を賭ける大事な商談を予定していた。駅に着いた雷牙の携帯に不意にメールを告げる音が鳴る。入社以来数年、現場一筋の雷牙であったが、最近はその人柄から取引先へ赴くことも多くなっていた。

雷牙が携帯メールを確認する。それは会社の専務からのものであった。



――社長が倒れて救急車で運ばれた。


その言葉を見た雷牙の心臓が止まると思えるほど激しいショックを受けた。少し前から体調が優れないと言っていた女社長。

雷牙の携帯には次々と社長の容態を告げるメールが飛び込む。



「しゅ、腫瘍が見つかったっだと……」


仕事一筋。碌に健康診断も受けていなかった女社長。その身を削って会社のために働いていたのだ。


「見舞いに、だが……」


雷牙の今日の商談は、会社の社運を賭けた大切なもの。女社長からも絶対取って来いと厳命されている。雷牙は病院に行きたい衝動をかみ殺してメールの返信を行い、そして遠方の顧客先に向かう為に新幹線に乗った。



新幹線内でうとうととした雷牙。気が付くと目的駅近くになっており、急ぎ下車の準備をする。そして夕刻過ぎに取引先に到着した雷牙は夜遅くまで交渉を行い、その熱意もあって無事契約を結ぶことができた。

宿泊するホテルに行く雷牙。送られてくるメールを一気に読む。


「明日、朝一で手術だって……?」


明日、準備が整ってから手術が行われるとの事。ホテルの部屋で座り込む雷牙。心配でずっと眠れなかったがいつの間にか意識が遠くなっていった。



「これは?」


カインの世界にやって来た雷牙。既に夜遅くクララ達は眠っている。雷牙は情報整理の為にカインの書いた日記を開いた。そしてカインの書いた()()を読んでいるうちに雷牙の目頭が熱くなるのを感じた。



雷牙へ。

いつもは自分のことを話さない君が僕に相談してくれるのをとても嬉しく思うよ。

ただ残念だけど世界が違うその『君の大切な人』を直接助けることはできない。


だから君に贈るよ。直接治せないけど何でも治る魔法の言葉。


『大回復』


回復の女神と言う素敵な女性が使う凄い回復魔法なんだ。

是非その大切な人に言ってあげて『大回復』と。

絶対に治る、僕()からのおまじないだよ。



昼間、新幹線の中でうとうととした雷牙は、珍しく日記に大切な人が病に倒れたと弱気な内容を書き込んだ。それを見たカインが返事を書いてくれたのだ。



翌朝、無理を言って部下を病院にいる女社長の元へと走らせた。そして彼の携帯で雷牙が女社長と話す。



「雷牙、契約は取れたんだろうな?」


「ああ、問題ない」


「そうか、お前がそれ放ってここに駆け付けたらぶん殴ってやるとこだったよ」


「分かってる」



「……」


少しの沈黙。

雷牙が口を開く。


「ひとつ聞いて欲しい言葉がある……」


「なんだい? 珍しい」



(……大回復)


「えっ? 何だって? 聞こえやしないよ!」



「何でもない、あんたなら大丈夫だ。じゃあ」


雷牙はそう言って目を閉じ携帯を切った。



数時間後、新幹線で帰る雷牙の携帯に表示される『手術成功』のメール。

それを見た雷牙の心がたくさんの人達への感謝で一杯になった。

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