49.穢れた勇者の怒り
ランダルト王国の歓迎会に出席したカイン達。
ローゼン王国の姫であるローゼンティアと親交のあるシルファールが会話をしていると、そこについ先ほどカインを愚弄したクロムウェルがやって来た。
(げっ、クロムウェル!!)
その姿を見てクララが思う。
やって来たクロムウェルがララ・ファインズの面々を見てローゼンティアに言う。
「姫よ、このような平民達と一緒におられるのはローゼン王国の姫としていかがなものでしょうか。シルファール姫は仕事なので仕方ございませんが、さあ、私と共にあちらへ行きましょう」
そう言ってローゼンティアの手を握ろうとする。
(嫌な奴!)
クララやマリエルが内心思う。ローゼンティアは手を握ろうとしたクロムウェルをすっと避けて言う。
「私はこちらの方々と親交を深めていますので、どうぞお構いなく」
クロムウェルが自信に満ちた顔で言う。
「あなたはこの私と話をしたいことがたくさんあるでしょ?」
クロムウェルはローゼンティアが自分に気があると思い込んでおり自信満々な表情で笑う。ローゼンティアが言う。
「えー、私は特にありませんけどお~」
クロムウェルが少し怒った顔で言う。
「わ、私の求婚を受けて喜んでいるのでは……?」
「えっ? 求婚?」
驚く一同。
ローゼンティアはとぼけた表情で言う。
「えっとですねえ……」
ローゼンティアはそう言ってカインの腕に抱き着いて言った。
「私はこのカイン君に一目惚れしちゃったんで、結婚は無理ですぅ~」
「はっ?」
「えっ!?」
「ええええええええっ!!!!」
驚いて大声を上げる一同。それ以上に頭が混乱するカイン。
「ロロロロ、ローゼンティア様、そ、それは一体、どど、どう言うことで……?」
それ以上に顔を赤くしてクロムウェルが言う。
「ひ、姫よ! ご冗談が過ぎる!! こ、こんな平民になぜそのような!!」
ローゼンティアが答える。
「えー、だってカイン君可愛いし、『竜の力』持っているから強いし、ティアも分からないけどフィーリングかな?」
「な、なんと言う、愚かな……」
クロムウェルの顔が徐々に怒りに染まって行く。そして言う。
「い、いいでしょう。今日は歓迎会なのでこれ以上申しませぬが、必ずや姫の口からしっかりとした良い返事を聞かせて貰いましょうぞ」
そう言ってクロムウェルは取り巻きと共にその場を去っていく。すぐにシルファールの声が響いた。
「ティアああああ!!!!」
シルファールが赤い顔をして言う。
「カカカ、カイン様に一目惚れって、いや、そ、その気持ちは良く分かる……、じゃなくって、カ、カイン様は私と生涯を歩むとお誓になったんですよ! さあ、その腕を離して!」
それに今度はカインが反応する。
「え、えええ!! しょ、生涯を共にいいいぃ?? い、一体いつそんな……」
ローゼンティアが笑って言う。
「そお? カイン君を見ていると、とても生涯を誓い合ったようには見えないけど。ね、カイン君?」
ローゼンティアの大きな胸が腕に押し付けられて何も言えなくなるカイン。シルファールももう片方のカインの腕に抱き着き付く。
「カ、カイン様! 私を見て!!」
そう言ってシルファールも負けじと胸を押し付ける。
「あわわわわっ、ぼぼぼ、僕は……」
「カ、カイン!?」
クララが心配してカインの名を呼ぶと同時にドンと大きな音を立ててカインは後ろに倒れた。
「カイン!? カイン!!」
皆がカインを呼ぶ声が会場に響いた。
歓迎会の後、ひとり部屋でワインを飲むクロムウェル。
しかし先程起きた屈辱を思い出しワインを何度も一気に飲み干し、そして空になったグラスを壁に投げつけて割る。
「ローゼンティア姫よ、皆の前で恥ずかしさ故にあのような振る舞いを。くくくっ、私は分かっておりますぞ、好きな男の前では素直になれぬことも。しかし……」
クロムウェルは空になったワインの瓶を持ち同じように壁に投げつける。音を立てて割れる瓶。クロムウェルが言う。
「しかし、許さんぞ。あのクズ平民。この私の逆鱗に触れた代償、しっかりと払ってもらう!!」
その顔は怒りの為に醜い程に変化していた。
翌日、選抜の説明を受けに王城に招集される冒険者達。カイン達、ララ・ファインズのメンバーもシルファールと共に参加する。
大きな城の広間に集められた多くの冒険者。皆これから始まる選抜に向けて緊張した面持ちである。
「カイン君~!」
ローゼンティアがカインを見つけてやって来る。そして笑顔で言う。
「また会っちゃったわね、あはっ!」
カインが緊張した声で返す。
「あああ、ああ、ロロロ、ローゼンティア様ああぁ、おはようございますうぅ」
「おはよ! カイン君!!」
そう言ってローゼンティアがカインに抱き着く。それを見たシルファールが言う。
「ティ、ティア、それはだめ、だめっ!!」
慌ててシルファールがカインとローゼンティアの間に入る。
「ティア様、ここは公的な場。お戯れはほどほどに」
そう言って鋭い眼光で感を睨むローゼンティアのお供の剣士。ローゼンティアが言う。
「えー、ティア、分かんなーい! レンゼント、こわ〜い!」
レンゼントと呼ばれた剣士がローゼンティアの腕を掴み言う。
「では、失礼」
と言って他のローゼン・ファインズの団員と共に去って行った。それを見たクララが言う。
「そう言えばローゼンティア姫のファインズって……」
シルファールが答える。
「ローゼン・ファインズの団長よ、彼女」
「ええ、そうなんですか?」
驚くカイン。
「彼女のスキル『大回復』で団員の凄腕の剣士を助けながら戦うの。さっきのレンゼントって冒険者。ローゼン王国でもトップクラスの剣豪よ」
「なるほど……」
先程の鋭い眼光を思い出して皆が頷く。そんなカイン達にまた別のファインズがやって来て声を掛けた。
「おい、お前」
カインが振り向くと日焼けした褐色の肌の女戦士が立っていた。スレンダーな肢体。しなやかな美しい筋肉。ひと目でただ者ではないと分かる。カインが恐る恐る答える。
「あ、は、はい……、あのお、どちら様でしょうか?」
女が言う。
「俺はアマゾネス王国、シリカ・ファインズ団長のシリカだ。お前、昨日クロムウェル様に無礼を働いただろう?」
「へっ?」
その言葉に目が点になるカイン。シリカが続ける。
「私達は強さこそが正義。圧倒的な強さのクロムウェル様が居てこそ暗黒竜討伐も叶う。そんなクロムウェル様の邪魔をするな、とお前に言いたいのだ!!」
シリカの隣にいた同じく褐色の女戦士が続く。
「シリカ、もういい。こんな軟弱な奴と話しているとイライラする。いいか、お前。どこの小国かは知らんが、クロムウェル様の邪魔だけはするな! それだけはこのレターナ様が許さねえぞ! いいか!!」
「は、はいぃぃ……」
完全にアマゾネスの女達の気迫に押されたカインが弱々しく答える。シリカ・ファインズの面々はその返事を聞くとプイと顔を背けて去って行った。
「な、何あれ? いきなり失礼ねえ!!」
彼女らが去って行った後にクララが不満そうにつぶやく。シルファールが言う。
「そうですね、ただ、世界選抜会議では私達が全く活躍できていないのも事実。彼女達は鍛え上げられた拳ひとつで選抜戦を勝ち抜いています。強さは本物です」
「そそそそ、そうなんですか、や、やっぱり強そう……」
カインが震えながら去り行くシリカ・ファインズの背中を見る。
その時周りが静かになり、そして会場から拍手が起こった。
皆の視線の先には壇上に現れたクロムウェル率いるヴィンセント・ファインズのメンバーと、ひと目で分かる高貴な少年が歩いて登場した。シルファールが小声で言う。
「あちらの少年がランダルト王国のライン王子です」
「お、王子様……」
若いとはいえ品のある身なりに顔立ち。まだ少年ながらその聡明そうな顔つきはこれからのランダルト王国を背負って行くに相応しい人物であった。ライン王子が集まった冒険者達を前に挨拶を始める。
「皆さん、今回は暗黒竜討伐会議に参加頂きましてありがとうございます。これより選抜の方法をクロムウェルよりご説明します」
気のせいかライン王子の顔が引きつったようにも見える。クロムウェルが前に出て言う。
「ごきげんよう、皆さん。お待ちかねの選抜方法ですが、それは生存試練です」
「さ、生存試練!?」
それを聞いたカインの顔が青くなった。




