48.ふたりの姫様
「あ、あれは、暗黒竜!?」
カイン達が訪れたランダルト王国では、最近夜になると暗黒竜が空を飛んでいるのを度々目撃されるようになった。真っ黒な体。その姿は暗き闇夜に溶け込み、不気味な翼の音だけを立てて国の人達を震わせた。
「おかえり、私の可愛い竜よ」
その身なりの整えられた品のあるイケメンの男は、戻ってきた真っ黒な竜の頭を撫で不気味に笑った。
「ここが歓迎会の場所なんだ」
ランダルト王国の王城。その迎賓館で開催される各国の代表を迎える歓迎会。宮殿のような豪華な建物に見たことも無いような料理が並ぶ。カイン達が訪れた時には、既に多く国の代表達が集まって雑談をしていた。
眼光鋭い冒険者、遠くに居ても感じられる強力な魔力を持つ魔導士など、さすがに暗黒竜討伐の為に集まった強者ばかりである。
皆が雑談に花を咲かせる中、壇上にひとりの男が現れると皆が拍手をしてからしんと静かになる。カインが尋ねる。
「だ、誰ですか? あの方は……?」
身なりが整えられた品のあるイケメン。気品溢れるその姿に女性達からため息が漏れる。シルファールが言う。
「英雄ヴィンセントの子孫、勇者クロムウェルですわ。カイン様」
「あ、あれが……」
その身なり発せられるオーラはさすがに英雄の血を引く者であった。シルファールの説明に何度も頷くカイン。クロムウェルが挨拶を始める。
「この度は暗黒竜討伐の為の世界選抜会議に集まって頂き、誠に感謝致します。暗黒竜討伐こそ我らの最後の希望。ここ数年幾度も苦杯をなめさせられてきましたが、今回ここに集まった皆さんと共に必ずや討伐という願いも成就されることと思っております」
クロムウェルの言葉ひとつひとつに大きな拍手が沸き起こる。さらに続ける。
「そしてご存じの通り、明日からは皆さんに更なる選抜試練をお受け頂きます。これは厄災暗黒竜に対して少数精鋭で挑む為であります。その中で選ばれた強者がこの私、竜の力を手にしたクロムウェルと一緒に討伐へと向います!!」
「『竜の力』!?」
クロムウェルが言った言葉に会場がどよめく。クララが小さな声でカインに言う。
「竜の力って、カインじゃないのかい?」
「わ、分からないですぅ……」
カインが力なく答える。会場のざわめきを感じたクロムウェルが言う。
「ご説明しましょう。私、クロムウェルは先日、飛竜の魔心を入手しました!!」
「おおーーっ!!!」
会場からは頼れる勇者の言葉に歓声が沸き起こる。そこにひとりの女性の声が響いた。
「お待ちください!!」
「シ、シルファール姫!?」
声の主はシルファールであった。驚くカイン達。ガーデン王国代表に集まる皆の視線。シルファールは挙手をしてクロムウェルの話の腰を折り、大きな声で言った。
「お言葉ですがクロムウェル様。ここのおられるカイン様こそ、真の竜の力を受け継いだ方です!!」
(ええええええええっ!!!!)
カインは心の中で大きな悲鳴を上げた。カインに集まる会場の視線。クロムウェルが言う。
「これはこれはシルファール姫、ごきげんよう。で、その者が竜の力を受け継いだと仰りますがなぜそのような事を?」
クロムウェルは表情を変えずに言った。シルファールが答える。
「彼こそが世界最強の竜である『強神竜のギフト』を受け継ぐ者でございます。従ってカイン様抜きに暗黒竜討伐はありないでしょう」
「きょ、強神竜のギフトだって!?」
「それは凄い!!」
『強神竜のギフト』と言う言葉に過剰な反応を見せる冒険者達。会場のあちこちから起こる驚きの声。カインは汗をだらだら流して下を向く。そして小声で言った。
「シ、シルファール姫えぇ、も、もう、その辺で……」
シルファールが答える。
「カ、カイン様、しかしこれはカイン様の名誉を守るため。『竜のギフト持ち』のカイン様こそ我らを導く希望なのです!!」
「ううっ、ぐへほおおおっ……」
カインは逃げられない状況に混乱し始める。それを見ていたクロムウェルが言う。
「これはこれは何の冗談でしょうか、シルファール姫。毎回選抜戦で落ち、討伐に行ったこともないあなたのような小国に『竜のギフト持ち』がいるはずないでしょう。私の竜の魔心に嫉妬するのも分かりますが、噓はよろしくないですよ、嘘は」
それを聞いたシルファールが言い返す。
「う、噓じゃないわ! ここにいるカイン様は……」
そこまで言うとカインがシルファールの肩に手を乗せて言う。
「シ、シルファール姫様、も、もういいです。これ以上は……」
「し、しかし、カイン様あぁ……」
シルファールはカインに触れられ興奮で倒れそうになるのを堪え悔しそうな顔をして言った。カインがクロムウェルに言う。
「あ、あのお、クロムウェル様、た、大変失礼しました。ぼ、僕は決して言い争うつもりはないんですので……」
クロムウェルが言う。
「カイン殿、失礼だが、どちらの家系で?」
「あ、あのお、そのお……」
口ごもるカインにクロムウェルが言う。
「まさか平民ですか? ガーデン王国は今回ロイヤル・ファインズではなくて、平民ファインズを連れて来たのですか? これは驚いた!!」
会場がざわざわ騒めき笑いが起こる。シルファールが言う。
「い、家は確かにありませんが、暗黒竜討伐に家柄など必要ないでしょう!」
「シ、シルファール姫、ほ、本当にもういいですぅ……」
カインが泣きそうになって言う。クロムウェルがカインに言う。
「カインとか言ったね、君。明日からの試練ではせいぜい頑張りたまえ。期待しているよ、竜のギフト持ち君」
クロムウェルは蔑んだ顔で笑って言った。
「なんなのよ、あれ!」
各国代表の挨拶も終わり、これまでの雰囲気とは違って和やかな空気の中立食での食事が始まった。もぐもぐと料理を食べながらクララが怒って言う。
「いつもですよ」
それにシルファールが疲れた顔で答えた。
カインは未だ注がれる周りからの視線に小さくなって食事をする。マリエルももぐもぐと料理を頬張りながら怒って言う。
「本当にあれが英雄ヴィンセントの子孫? 全然イメージが違うわ」
「いい男ではあったがな……」
そう言ったハクのセリフに皆が冷たい視線を送る。そこへひとりの女性がやって来て声を掛けた。
「シル! 探したわよ、シルゥ!!」
シルファールが名前を呼ばれ振り返る。そして顔を明るくして言った。
「えっ? あ、ティア!!」
そう言ってシルファールが抱き着いたのは金色の長髪が美しい上品な女性。シルファールに負けず劣らずの美貌で二人が並ぶと嫌でも会場の皆の視線を集める。会場に輝く二つの華。まるでそこだけが別空間のようになった。
「久しぶりだね、元気だった?」
ティアと呼ばれた女性が言う。
「ええ、随分久しぶり。相変わらず綺麗ね」
「ううん、シルだって。あら? そちらが『竜のギフト持ち』さん?」
ティアがカインの方を向いて言う。シルファールが紹介する。
「ええ、こちらがカイン様。『竜のギフト持ち』よ」
ティアがカインをじろじろ見る。
「あ、あのお、こ、こちらは……?」
カインの質問にシルファールが答える。
「こちらはローゼンティア。ローゼン王国の姫で、私の大親友ですの」
「ええええええ!!!! こ、こちらも、ひひひひ、姫様ですかああああ!?」
驚くカインンシルファールが言う。
「ティアはレアスキル『大回復』を持つヒーラー。回数制限はあるけど大怪我や病気の冒険者を一瞬で治しちゃうの。通称『回復の女神』と呼ばれていますわ」
シルファールの説明にクララが答える。
「聞いたことあります。回復の女神……」
そんな自分の紹介にまったく興味を示さないローゼンティアはシルファールとカインを何度も見て言った。
「あれれぇ、もしかしたらシルはカイン君のことが気になってるのかな?」
「あ、あら。どうしてそう思うのかしら?」
シルファールがローゼンティアに聞く。
「だって、カイン君と話す時は顔が赤くなるし、そんなに体をくねくねしてたらすぐ分かるわよ」
「あら、いやだわ。私ったら」
そう言って体をくねくねさせて照れるシルファール。
「でも……」
「ひぃ!?」
ローゼンティアがカインの顔に近付いて言う。
「でも、可愛い顔していますわね」
カインが顔を赤くして言う。
「えええええ、えええええっと、そのおぉ、ぼぼぼ、僕は……」
それを見たローゼンティアが言う。
「あら、照れちゃって。可愛らしいわ」
「ティ、ティア! カイン様はダメですよ、あなたでも!」
むっとした表情でシルファールが言う。ローゼンティアは金色の髪を触りながら首を振って答える。
「よく分かりませんわ~」
とぼけるローゼンティアにひとりの男がやって来て声を掛けた。
「ローゼンティア姫、こんなところにいらっしゃいましたか」
それは英雄ヴィンセントの血を引き継ぎ、先ほどカインを『平民』と罵倒した勇者クロムウェルであった。




