45.雷牙のささやかなお願い
「かんぱーい!!」
「凄い料理だね。さすが国主催の壮行会。びっくりしちゃうよね!」
マリエルが目の前に並べられた豪華な料理を見て嬉しそうに言った。
カイン達ララ・ファインズのメンバーは世界選抜会議を前に、ガーデン王国主催の壮行会に招かれていた。各ファインズの団長や幹部、国王を始め上級貴族、その他関係者なども多く参加している。会食の前に皆の前で挨拶をするメンバー達。
見事に堂々とした話をする団長のクララに対してカインは、「あのお……」とか「うう……」とか言うだけで会場の失笑を買っていた。
国王や国の大臣達の話の後に皆がテーブルに着き食事が始まる。椅子に座ったハクが言う。
「で、何であんたがここにいるんかい? ファインズが違ってるんじゃないのかい?」
カインの横で嬉しそうにワインを飲むシルファールに向けて言った。シルファールが答える。
「問題ありませんわ。これからララ・ファインズの皆さんとは会議に一緒に行く訳で、しっかりと親睦をと~っても深めて行かなければなりませんので」
そう言ってカインの腕に抱き着き胸を押し当てる。
「あわわわっ、シ、シルファール姫えええぇ、あ、当たってますううぅ……」
カインは腕に当たる胸の感触に戸惑いながら顔を赤くして言う。シルファール耳元で囁く。
「シルゥ、ですわよ。カイン様ぁ」
シルファールはワインで寄った赤い顔で下からカインを見つめる。
その時クララ達はカインとシルファールの背後に人影が現れたことに気付いた。
「姫様」
貴族の令嬢であろうひとりの若い上品な女がシルファールの名を呼んだ。一緒にいた貴族の男はカインの背後に立つ。女が言う。
「姫様、さあ参りましょう。国の代表に選ばれた彼らへの挨拶はもう十分でしょう。いつまでも平民達と過ごすことは好ましくありません」
そう言ってシルファールの手を握って立たせようとする。
「その通りです、シルファール。すぐにこちらに来なさい」
そう言うとひとりの淑女が同じくシルファールの手を掴む。
「おば様……」
シルファールはその顔を見て驚く。
「さあ、行きますわよ」
そう言って無理やりシルファールを連れて行く。
「カ、カイン様ああ」
シルファールは悲しそうな顔をして二人の女性に連れて行かれてしまった。
残った貴族の男がカインに言う。
「選抜されたからっていい気になるなよ。本来はロイヤル・ファインズが行くべきもの。意味の分からぬ冤罪によってヴェルナ様が不参加になっただけで、本来お前らの様な平民が出るべきものではない。辞退もせずにこの様な場に出て来るとは図々しいにも程がある」
「ぼぼ、僕らはそんな……」
豹変した貴族の男に驚いたカインが小さな声で言う。それを見ていたクララが立ち上がって言った。
「なら、あなたが代わりに出られますか?」
「なに?」
貴族の顔が引きつる。
「私達の代わりにあなたが出てもいいと言いているんです。私やここにいるカインを倒せれば、の話ですが」
「き、貴様、平民の分際で貴族を愚弄するのか!!」
貴族の男が顔を赤くして怒鳴る。クララが冷静に言う。
「愚弄じゃありません、事実です。何なら今からでも外でお相手しましょうか?」
「ふ、ふざけるな! そんなこと私がするはずないだろう!!」
そう言って貴族の男は更に顔を紅潮させて去って行った。マリエルが言う。
「ご飯が不味くなっちゃったね。さあ、食べ直しましょう」
「平民とか貴族とかくだらぬ。同じヒト族なのに」
ハクがご飯を食べなら言う。
「本当にそうね」
クララも同意する。カインは強気の女性達とは別に、ひとり居心地が悪そうに座り続けた。
壮行会の帰り。
ララ・ファインズの一行が暗い路地に差し掛かったところで、彼らの背後に黒い複数の影が現れた。
「きゃ!」
マリの悲鳴を聞き皆が振り向くと、一番後ろを歩いていたマリが黒い服の男達に捕まりナイフを突きつけられている。
「マリちゃん!!」
マリエルが叫ぶ。男達が言う。
「そこの男、武器を捨ててひざまずけ!!」
カインが答える。
「てめえら、何者だ?」
(あ、雷牙)
その口調を聞いた皆が思った。男のひとりが別の男に小さな声で言う。
「あ、兄貴。本当にこいつですか? 弱気な男って聞いてましたが、なんかそんな雰囲気じゃないっすよ……」
「だ、大丈夫だ。俺達には人質がいる!」
カインがマリに言う。
「マリ、自分で対処できるか?」
マリが首を振って答える。
「無理だよ~、魔法使いなら得意だけど、ナイフとかは無理ぃ。助けてよ、雷牙」
「そうか。おい、お前ら。そのガキを放せ。今なら許してやる」
男が少し怒った口調で言い返す。
「な、何を言っている!! お前こそ早く武器を捨ててひざまずけ!!」
「分かんねえようだな、くそ共がああ!!!」
そう言ったカインの身体から強烈な覇気が放たれる。
「な、なんだ、こいつ。ふ、普通じゃねえ……、くそっ!」
そう言って持っていたナイフでマリを刺そうとする。
「えっ!?」
しかし突如動かなくなる男の手。
「あ、兄貴ぃ!?」
見るとナイフを持っていた男の手がいつの間にか凍っている。
「うわわわわっ、な、何だこれ? 魔法じゃないぞ!?」
雷牙は既に白神竜の力を見事に使いこなしている。それを見てマリが逃げて来る。カインが言う。
「解凍してやるよ」
ドン!!
「ぎゃあああ!!!」
そう言うと、今度は凍った男の腕で小爆発を起こす。氷が砕けて負傷して倒れる男。雷牙が歩み寄って言う。
「誰の指図かは知らねえが、俺達にちょっかい出すつもりなら、潰すぞ」
「ひ、ひええええ~!!!」
男達は雷牙の凄みに圧倒され、そのまま走るように逃げて行った。
「さっきの貴族の差し金かな」
マリエルが言う。
「恐らく」
クララが答える。
カインが歩いて来てクララに言う。
「物騒な世の中だな、まったく」
「雷牙だね、ありがとう」
クララが礼を言う。
「いいんだ、うっ……」
カインが眩暈を覚える。直ぐにクララに言う。
「なあ、クララの団長。カインを頼むな。あいつはお前のことを……」
「えっ?」
そうクララに言って消え行く雷牙。目をパチパチさせたカインが言う。
「あ、あれ? また雷牙が来てたんですか。団長、へ、変なこと言ってませんでした?」
カインがいつもの自分に戻ってクララに言う。
「変なこと? 全然、嬉しいことだよ」
「ん? そ、そうですか……、それなら良かった」
カインが笑う。
(カインの顔して『カインを頼む』って言われてもなあ)
クララがひとり微笑む。そしてみんなに言う。
「さあ、帰ろっか。もうすぐ世界選抜会議だよ!!」
「はい!!」
皆がクララの声に元気に答えた。




