44.姫様無双
『世界選抜会議』への国内戦を優勝で勝ち抜いたララ・ファインズ。
その夜だけは拠点でささやかなパーティを開き、翌日からはいつも通りの生活が始また。マリエルも異世界お菓子を元気に売り始める。ファインズの優勝で知名度も上がり繁盛するマリエルのお菓子屋。それを楽しそうに手伝うハクとマリ。
クララ達は今後のスケジュールについて今日説明に訪れるシルファールを待つ準備をしていたのだが、その時お店の方で大きな声が響いた。
「ふざけんじゃねえ!!」
それを聞き駆け付けるカインとクララ。見るとガラの悪い男二人組がマリエルに因縁をつけていた。男が言う。
「おいおい、ここの箱の隅、傷ついているんじゃねえか? 不良品だよな、これ。この店は不良品を売りつけるのかよ、客に?」
男達の持つお菓子の箱にはとても目に見えないほどの小さな傷がついていた。周りにいた普通のお客が少しずつ離れて行く。対応していたマリエルが怒りを抑えて言う。
「それでは交換致します」
そう言って新しいお菓子を差し出そうとすると男はそれを手で勢いよく払った。地面に落ちるお菓子。男が大きな声で叫ぶ。
「ふざけんじゃねえよ! 誰が菓子なんてよこせと言った? 俺は精神的に傷ついたんだよ、誠意を示せよ、誠意っ!!」
男はマリエルに大声で怒鳴る。カインが駆け付けて言った。
「あ、あのお、それほど大した傷じゃないですし、あ、新しいのと交換すれば……」
ドン!
「ぐふっ」
男がカインの腹に拳を入れる。
「カイン!!」
それを見ていたクララが叫ぶ。カインが答える。
「だ、大丈夫です。このくらい」
男が更に大きな声で言う。
「ああ、なんだてめえ、ふざけんなよ。ぶっ殺されてえのか、ああ?」
そんな男達の後ろから声が掛かった。
「ふざけているのはどちらでしょうか?」
「なにっ?」
男がいきり立って振り返るとそこには従者を連れたシルファール姫が立っていた。
「姫様!」
カインが叫ぶ。男達は顔を青くして言う。
「ひひ、姫だとお? な、何でこんなところに姫がいるんだ?」
シルファール姫が答える。
「あら、私がお菓子を買いに来ちゃいけなかったかしら?」
「い、いえ、そんなことは……」
突然の姫の登場に狼狽える男達。姫の後ろで従者の目が光る。姫が言う。
「それよりお店の営業妨害、並びにカイン様への暴行。それを見て私が受けた精神的苦痛。あなた達、死罪ね」
姫の目が冷酷に男達を睨む。男達が震えながら口を開く。
「ししし、死罪って、ええ、何でこれだけで……」
その言葉を聞いたシルファールの顔が一瞬で怒りの表情となる。
「これだけ? このような大罪を犯しておいてこれだけとはどういうつもり? カイン様達はこれから世界選抜会議に出席される国の代表。その方に怪我をさせたら、死罪よね?」
男達は改めて自分達の犯した罪と、それを一番見つかってはいけない人物に見つかったことに気付いた。シルファールが言う。
「それにあなた達、ここにいるカイン様が本気を出したら、消されるわよ。一瞬で」
「ひひ、ひええぇ……、ど、どうかお許しを……」
男達は涙を流しながら姫に許しを請う。
「許し? ふざけないで。死罪ですわ、死罪。ひっ捕らえなさい! すぐに!!」
「はっ!!」
姫の後ろで目を光らせていた従者が男達を捕まえ始める。
「おおお、お助けを……」
縄で縛られながら男達が泣いて助けを請う。シルファールが言う。
「自らが犯した重罪、あの世で悔いよ!!!」
さすがにそれを見たカインがシルファールに言う。
「ひひ、姫様……、それはちょっとやり過ぎでは……、死罪はさすがに……」
姫がカインの方を振り向いて言う。
「はい、分かりました。カイン様がそう仰るのならやめますわ!」
「えっ?」
それを見ていたマリエルがびっくりして声を上げる。男達は突然死罪を免れたことに喜びカインに言う。
「あ、ありがとうございます。カイン様。い、命拾いしやした……」
姫が再び冷たい表情になって男達に言う。
「カイン様の恩赦により死罪は回避された。だがお前達の犯した罪は変わらない。しっかり城の保安部で話を聞かせて貰う。さ、連れて行け!!」
「は、はい……」
男達は力なく答えると、姫は直ぐに従者達に男達を城へと連行させた。シルファールが言う。
「カイン様あぁ、これでよろしかったでしょうか?」
カインの傍に行き上目遣いでシルファールが言う。カインが答える。
「あ、あ、ありがとうございます。シルファール姫様、本当に助かりました」
シルファールがカインの耳元で囁く。
「シル、ですわ。シ・ルゥ」
真っ赤になるカイン。クララとマリエルはいつも通りそれを見て苦笑した。
男達が連行された後、シルファールが改めてララ・ファインズのメンバーに言う。
「さて、改めまして皆様優勝おめでとうございます」
「ありがとうございます」
クララが笑顔で答える。
「カイン様の活躍を想うと、ああ、ああぁ……」
頬を赤くしてカインを見つめるシルファール。ハクが言う。
「あいつ、いつも顔を赤くするのだけど、病気なのか?」
それを聞いて笑うマリ。
「さ、中へどうぞ」
クララがシルファールを拠点へ招き入れる。
「あら、美味しいわね。この新しいお菓子」
シルファールは新作の異世界お菓子である羊羹をひと口食べて言った。そして一度軽く咳をしてからクララ達に世界選抜会議の説明を始める。
「世界選抜会議が行われるランダルト王国への出発は五日後です。国の船で向かいます。会議では各国の冒険者の代表が集まって来ますので、まずそこで暗黒竜討伐の為の会議を行います」
「ランダルト王国……」
カインがその国の名前を口にする。クララが言う。
「ランダルト王国って言えば、もしかして英雄ヴィンセントの末裔がいるって言う……」
シルファールが答える。
「そうです。よくご存じで。今回の討伐も英雄ヴィンセントの末裔である勇者クロムウェルが中心となって指揮を執ります」
「勇者クロムウェル……」
カインが言う。クララ達も聞いた事がある名前を口にした。クララがシルファールに尋ねる。
「今回長丁場になりそうなのでファインズのメンバー全員で向こうに行き、拠点を探したいのですが……」
シルファールが答える。
「構いませんわ。その方がいいと思います。向こうで更なる試練がありますので」
「更なる試練?」
クララ達が聞き返す。
「ええ、各国代表の中からさらに精鋭を選ぶ為に毎回試練が行われます」
「そ、そうですか……」
カインが少し真面目な顔をして言う。シルファールが少し恥ずかしそうな顔をして続ける。
「毎回私達が参加しておりましたが、お恥ずかしながらその選抜で落ちてしまっております……」
「え! ロイヤル・ファインズでも落ちるってどんだけレベルが高いの!?」
店を閉めて来たマリエルが驚いて口に手を当てて言う。マリエルが続ける。
「でも今回は任せてください。カイン君達が頑張りますから!!」
シルファールが答える。
「ええ、一緒に頑張りましょう!!」
それを聞いたクララがシルファールに尋ねる。
「一緒? 姫様は国に残るんじゃ……」
クララの問いかけにシルファールが答える。
「いいえ、国代表の引率として同行致します。そして皆さんの拠点で一緒に滞在する予定です。宜しくね」
シルファールがカインを見つめて笑顔で言った。




