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42.玉押し

『世界選抜会議』へ参加する為のガーデン王国の国内選抜戦。

その初戦には以前カインの争奪戦コンフリートで戦ったイメルダ・ファインズと争う事となった。


両ファインズが闘技場へと姿を現す。それに合わせて観戦していた観客から大きな歓声が起こる。闘技場の真ん中には白い線が引かれ、その中央には丸い大きな玉が置かれている。これを制限時間内に多く押し込んだ方が勝ち。ルールは至ってシンプルだ。


向き合う両ファインズの面々。先にイメルダ・ファインズの団長イメルダが声を掛けた。


「今回は、何の躊躇ためらいもなく思い切り戦える。改めて宜しくな」


クララが答える。


「こちらこそ。絶対に負けないわよ」


イメルダの妹で以前ヴェルナに地下に監禁されていたミルカがカインに言う。



「カインさん、先は助けてくれてありがとうございました。今日は楽しみましょうね」


「あ、ははは、はい、こちらこそ、よろしく、お、お願いします……」


カインは周りの観客の声や雰囲気に飲み込まれそうになっている。山育ちのカインにとってはこのような大勢の人に注目を浴びる舞台は未だ苦手な場所である。

審判が競技場に現れる。静まり返る観客。クララが団員達に言う。


「作戦通り。頑張ろう!」


「はい!」


カイン達はクララに返事をする。その後審判の声が辺りに響いた。



「始め!!」


その声と同時に沸き上がる大きな歓声。

ララ、イメルダ両ファインズ共に素早く大玉の近くへ集まる。カインが叫ぶ。


「押します!!」


ララ・ファインズ唯一の男であり、強神竜の力を得たカインが玉の後ろに行き力一杯押し始める。


「ぐおおおおおっ!!!」


一方反対側からはイメルダ・ファインズ力自慢のドワーフであるバンゲルが必死に押し返し始める。

事前説明では魔法攻撃でも玉を押すことができるとのことだったので、イメルダ・ファインズで魔法が得意なザイールやミルカも魔法を次々と放ち始める。


ドンドン、ドーーン!!


「うぐぐっ……、す、凄い力……」


イメルダ・ファインズの開始と同時に始まる総攻撃にカインが押され始める。



(や、やっぱり、まだ強神竜じっちゃんの力を上手く使えてない……)


カインは予想以上の圧力で押すイメルダ・ファインズに戸惑う。クララが言う。


「マリエル! 応援お願い!!」


「了解っ!! ウィンドショット!!!」


今日は流石に店を閉めて参戦したマリエルがカインの後ろから大玉に向けて風魔法を放つ。更にクララが叫ぶ。


「スミレ、カインと一緒に押して!!」


「ふあ~いぃ……」


ふらふらと眠そうにしていたスミレがカインのお尻を押し始める。驚くカインが叫ぶ。


「ス、スミレちゃん!! そ、そこ違うっ!! く、くすぐったい!!!」


「えっ? ふぎゅわあああ!!! カ、カイン様のおしりぃ~!!」


寝惚けてカインのお尻を押していたスミレがその事実に気付き叫び声を上げる。観客席からは笑いが起こる。



「うぐぐっ……!!」


その隙を突きイメルダ・ファインズが一気に大玉を押し込む。クララが押され気味の戦況を見て持っていた木箱を開ける。


「私も魔法で応援するよ!! それ、もぐもぐ……、ん? ええっ、ま、魔法封印マジックシール!!」



「げっ!?」


その言葉を聞いた()ファインズの団員が驚いた顔をする。


ドワアアアアン


会場一体に響く耳鳴り音。

それは間違いなくその場にいる皆の魔法を封じる『封印魔法』であった。クララが青い顔をして言う。



「あわわわわわっ、ま、魔法を封じちゃったよおおぉ、どど、どうしよう!?」


イメルダ・ファインズのザイール、ミルカ、そしてララ・ファインズのマリエルから魔法が消える。


「な、何やってるのよ、クララ!!!」


マリエルがクララに怒鳴る。クララが顔を青くして答える。


「ご、ごめんよ。攻撃魔法が出ると思ったんだよ……、おかしいなあ……」


クララは木箱に入った新しい異世界お菓子を見つめる。何が起こっているか分からない観客に対して司会が状況説明をする。その説明を聞いた観客席からくすくすと笑う声が漏れる。

魔法を唱えていたイメルダ・ファインズのミルカが顔を出して怒る。



「ちょ、ちょっと何してくれるのよお!!!」


同じく魔法を封じられたザイールが溜息をついて言う。


「前回は飛んで逃げられちゃったし、はあ、私、あの子やっぱり苦手だわ……」



「ぼ、僕がぁ、頑張りますっ!!!!」


そんな状況でも皆を鼓舞するようにカインは大きな声で言った。しかしカインが真っ赤な顔をして大玉を押すと、反対の力自慢のドワーフであるバンゲルもそれ以上に真っ赤な顔で押し返してきた。イメルダが叫ぶ。



「おいで、イフリートおお!!!」


イメルダは手にした召喚卵を投げつけそこに現れた魔法陣からイフリートを召喚。召還は問題なく行えるようだ。そしてすぐに反対側にいるカインへの攻撃を命じた。



ゴオオオオ!!


周り込んできたイフリートから発せられる灼熱の炎。炎神竜のギフトを貰ったカイン。その力がしっかり発揮できていれば多少の炎ぐらい平気なのだが、現状ではイフリートの炎でも十分にダメージとなってしまう。


「あぢぢぢぢっ!!!!」


玉を押しながら業火を受けるカイン。すぐにクララが玉を押しに行き、そしてもたれ掛かってうとうとしているスミレに命じる。


「ス、スミレ、あの火の奴、やっつけて!!!」


「ふぁ?」


しかしクララの声ではしっかり届かない。



「うぐぐっ……」


その間にもカインは火にさらされ、徐々に大玉が押され始める。クララがイフリートを指差して叫ぶ。


「カイン、スミレにあいつをやっつけるように言って!!」


「あ、は、はい。ス、スミちゃん、あ、あの火の奴を、やっつけて!! お願い!!」


カインは火の熱さで更に顔を赤くしてスミレに言う。寝惚けたままのスミレが「ふあ~い」と返事をして剣を抜いて斬りかかって来る。


「う、うわああっ、あ、あぶなああい!!!」


カ~ン!


ふらふらしたスミレが()()を力なく斬りつける。危うく斬られそうになったカインが慌てて避ける。それを見たクララがカインに叫ぶ。


「カイン、もっとスミレをドキドキさせる事を言わなきゃ! パワーが足らない!!」


「ドドド、ドキドキって、な、何ですかああああ!!??」


カインが泣きそうな顔をしてクララに尋ねる。


「自分で考えろおお!!」


イフリートの相手をするクララがカインに言い放つ。カインが顔を赤くして言う。



「ス、スミレちゃん!! 今、何がしたい?」


スミレが眠気眼ねむけまなこで答える。


「眠い……」


カインが叫ぶ。


「じゃ、じゃあ、あ、あの火の奴とドワーフをやっつけたら、い、一緒に、そそそそそ、添い寝、してあげるううう!!!」



それを聞いたスミレの目がくわッと開き、後方へ飛ぶ。



「カカカカ、カイン様の、添い寝ええええええええ!!」


そう言いながら強烈な覇気を放ち、中腰になって剣に手をかける。それに気付いたイメルダがイフリートに言う。


「あ、危ないわ! 二人とも気を付けて!!」


カインに攻撃をしていたイフリートがそれを聞いてすぐに上空に逃げ始める。それと同時にスミレの声が響く。


「風神一刀流・風牙一刀ふうがいっとう!!!!」


スミレが剣を勢いよく振り上げると彼女の身体から竜巻が起こり、上空に避難したイフリートを巻き込み始める。


「う、うそ……」


強烈な竜巻となってイフリートを巻き込んだ風は、その炎を消し去りイフリート自体を消滅させてしまった。更にスミレから強い覇気が放たれる。そして真っすぐ大玉を見つめて剣を振り叫んだ。



「雷神一刀流・雷鳴閃光らいめいせんこう!!!!」


ドーーーーーーン!!!


「ひえっ!?」


スミレが振り抜いた剣から一筋の雷光が真横に放たれる。空気を揺るがすような轟音と空間を切り裂くような雷光が一直線にカインが押している大玉にぶつかる。


「ス、スミレちゃーーーん!! あ、危ないよおお!!!」


間一髪避けたカインが思わずカインが叫ぶ。しかし同時に大玉の反対側からも大きな叫び声が上がった。



「ぐわあああああ!!!!!」


「バ、バンゲル!!!!」


スミレの放った雷撃は大玉を貫通し、反対側にいたバンゲルを直撃。その衝撃を受けたバンゲルが後方へ吹き飛ばされる。それを見たクララが叫ぶ。


「す、凄い。凄いよ、スミレちゃん!!」


「ふあ~い……」


カインの応援パワーが切れたスミレが再び眠そうな顔をして座り込む。大玉の後ろが見えないカインが言う。


「え、なに? も、もしかして、やっつけちゃったの??」



「ぷっ!! くくくっ……」


すぐ近くを通ったスミレの電撃で、髪の毛が全て逆立ったカインを見てマリエルが笑う。



パキッ


「えっ!?」


しかしカインはすぐ目の前にある大玉から何かが割れる音が聞こえて視線を上に上げる。クララが叫ぶ。


「カ、カイン、離れて!! 割れるよ!!!」


「ひ、ひええええ!!!!」


大玉を見上げたカインはその中心から縦に大きなヒビが入り始めているのに気付いた。慌ててその場から離れる。



バリ、バリリッ、ドオオオオン!!!!


大玉はそのまま半分に割け、白線上に転がる様に倒れた。


「う、うそ……」


それを見ていたクララとイメルダが信じられない様な顔をしてつぶやく。そして審判の声が響いた。


「制限時間終了ーーーっ!!!」



「げっ、終わっちゃったよ!!」


クララが審判を見て言う。すぐに審判団が割れた大玉の辺りに集まり試合の判定を始める。静まり返る観客席。両ファインズの団員もその様子を黙って見守る。



やがて審判が前にできて背筋を伸ばして立つ。そして言った。


「勝者、ララ・ファインズ!!!」


割れた大玉が少しだけイメルダ・ファインズの方へ多く転がっていた。


「や、やったあああ!!!」


手を叩いて喜ぶカイン達。会場からも大きな歓声が沸き起こる。



「にゃむにゃむ……、カイン様と添い寝……」


そんな中、地面に寝転んだスミレはひとりカインと添い寝する夢を見ていた。

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