41.国内選抜戦へ
「おはようございます。皆さん」
食事を終えたララ・ファインズの拠点にシルファール姫が世界選抜会議についての説明の為に訪れた。シルファール姫は部屋に通されカインを見て開口一番言う。
「ああ、カイン様あぁ」
いきなり腰砕けになるシルファール。カインが慌てて挨拶する。
「ひひひひ、姫様あぁ、おおお、おはようございます」
フラフラと立ち上がったシルファールがカインの耳元でささやく。
「シルと呼んで……」
「うわわぁ!」
朝から顔を真っ赤にするカイン。それを見たマリエルが言う。
「何かあったの? あの二人」
苦笑する一同。
マリエルはソファーに座ったシルファールに新作の羊羹とホットマッジャーを出す。それを見たシルファールが目を輝かせて言う。
「まあ、これが噂の異世界お菓子ですの? 城でもこちらのお店の噂は凄いですよ。早速頂けるなんて嬉しいですわ」
マリエルが言う。
「そうですか! それは有り難いことです。ちなみにこれは新作のヨーガンとホットマッジャーです。お召し上がり下さい」
「ヨーガン? ホットマッジャー? まあ、何て素敵な響き。きっと美味しいに違いないわ!」
苦笑する一同。
しかしシルファールは出されたヨーガンを食べようとしない。シルファールはカインの隣に移動すると上目遣いでカインを見つめる。
「あ、あのお、な、何か……?」
カインが顔を赤らめて尋ねる。シルファールが言う。
「シルに食べさせてください、カイン様……」
更に顔が赤くなるカイン。そして言う。
「いいいいい、いえ、そ、そんな恐れ多い……」
更にカインにすり寄るシルファール。そして耳元で言う。
「シルのお・ね・が・い」
頭がフラフラになって来たカインは観念して一口ヨーガンをシルファールに食べさせる。シルファールは顔に両手の手を当てて言う。
「ああ、カイン様の、カイン様のおおぉ」
と言ってシルファールは頭を前後に揺らしながらバタンと音を立てて倒れる。
「ひ、姫様ぁ!?」
カインが慌てて姫を抱き起す。それを見ていたクララがマリエルにつぶやく。
「ねえ、姫様ってうちに何しに来たんだっけ?」
「さあ?」
マリエルは笑って答えた。
「ええっと、では簡単説明させて貰いますね」
シルファールは目覚めてからクララ達に説明を始めた。
「残った厄災である暗黒竜に対抗する為に、不定期で開かれる世界的会議が『世界選抜会議』です。各国から選ばれたファインズが参加し、主催国であるランダルト王国へ行きます」
(暗黒竜……)
カインはその言葉を聞きじっちゃんとよく遊んだ洞窟での惨状を思い出した。シルファールが続ける。
「そしてランダルト王国に集まったファインズの中から更に選ばれた冒険者だけが暗黒竜討伐隊に加わって遠征を行います。これに選ばれるだけでも大変名誉なことです」
「詳しく知らなかったけどまた選抜があるんだ」
マリエルが難しそうな顔をして言った。
「そうです。少数精鋭、これが暗黒竜討伐隊の基本です。そしてその隊を率いるのがあの絶対的英雄ヴィンセントの子孫である勇者クロムウェルです」
「英雄ヴィンセントの子孫……」
山奥で暮らしていたカインですらその偉大なる英雄の名前は知っている。救世の英雄、学校でも教えられるこの世の偉大なる人物である。シルファールが言う。
「で、その世界選抜会議に出場するファインズを決める国内大会が、間もなく開かれます。これをどうぞ」
そう言ってシルファールはクララに国内選抜戦の参加証を手渡した。人数も少なく弱小ファインズであったララには、これに参加するだけでも誉れ高きことである。
「開催は一週間後です。ちなみに毎回世界選抜会議に参加しているのはご存じの通り私のロイヤル・ファインズです」
「そりゃそうですよね。何せガーデン王国最強のファインズですから」
マリエルが言う。それに対してシルファールが答える。
「ただ今回の世界選抜会議には、竜のギフトを持つカイン様にご参加頂くのが良いかと思っています。本当はシルもカイン様と一緒に戦いたいのですが……、ただ万が一私のファイズと当たることがあるようなら平和の為、私も自分のファインズで力一杯戦おうと思います。でももし本当にカイン様と当たるようなことがあれば……」
そう言ってシルファールはカインの両手を握って言う。
「その時はシルをぶって、カイン様……」
そう言って顔を赤らめる。カインも赤い顔をして言う。
「なななな、何を言って、いや、そんな、うううっ、そんなこと……、できな……、あうっ、いや、やっぱりでないですうぅ……」
ハクが顔を手に当てて身をくねくねよじらせているシルファールを見て言う。
「何を言っているんだ、あの女は?」
「パパはシルちゃんぶつの?」
マリが冗談っぽくカインに言う。カインが慌てて否定する。
「ぶぶぶぶっ、ぶたないです! 絶対に、ぶ、ぶたないですうううぅ!!」
必死になるカイン。そして一度息を吐いてからちょっと真面目な顔で尋ねる。
「あ、あのお、国内選抜戦って、やっぱり戦うんですか?」
「分からないわ。毎回変わるんだよ、その内容が」
クララが答える。シルファールが続く。
「戦うこともありますが非常に少ないです。競技だったりすることもあるんですが、これは執行部が決めるので私も知りません」
「そうですか、ありがとうございます」
カインがシルファールにお礼を言う。
「では皆さん、選抜戦で会いましょう」
そう言ってカインに投げキッスをして拠点を出て行くシルファール。クララが言う。
「よし、みんな頑張ろう!」
みんなもそれにガッツポーズをして応えた。
「はっ、はっ!!」
国内選抜戦までの一週間、カインは時間のある時は外に出てひたすら剣を振った。
――世界選抜会議に出たい
カインを動かしていたのはじっちゃんを殺したと言う暗黒竜に少しでも近づきたい気持であった。
ただ以前はそんな憎き暗黒竜を倒したいという気持で一杯だったが、今は倒すと言うよりその前に一度会って話がしたいと言う気持ちに変わってきている。
じっちゃんの家族のような他の竜達に会って、もし本当に自我を失って暴走して殺してしまったのならば暗黒竜も可哀そうな被害者なのかもしれない。
(怖いけど会ってみたい。会わなきゃ何も分からない)
そんな気持ちでひたすらカインは剣を振った。
「カインーーー!!」
そして練習中によくクララに呼ばれる。クララが青い顔をして言う。
「ヨーガンが焦げちゃったよおおお!!」
カインは練習をやめキッチンに向かう。
(どうやったら焦げるんだろう? そんな工程ないのに……?)
ただいつもは毅然としている団長が、お菓子作りのことになると泣きそうな顔をしてあたふたする。
「大丈夫ですよ、団長。ここはですね……」
カインはそんなクララにお菓子作りを教えるのがとても好きだった。
国内選抜戦当日。
街の郊外に作られた特別会場でその戦いは行われる。国王の招集を受けたファインズが集まり、これから行われる特別な戦いの準備をする。国民も厄災を討つ国の未来の英雄を見ようとたくさんの人が集まってきている。
そして最後に登場したそのファインズにひときわ大きな歓声が起こった。
「ロイヤル・ファインズの登場です!!」
「うおおおお!!! シルファール姫えええ!!!!」
団長のシルファールを先頭にレオンハルトなどの貴族、王族のエリート達が続く。先日の事件で副団長ヴェルナが不参加になってはいるが、それでもその実力は国内随一。先に登場していたカインは、その歓声、人の多さに委縮している。
「マッジャークッキー、ジョコレッド、ホットマッジャーは如何ですかーー?」
ハクとマリはメイド服を着て異世界お菓子を売り歩く。マリは元気に、ハクは恥ずかしさから顔を赤くしている。しかし内心では、
(イ、イケメンに声を掛けられたらどうしよう? そ、そこから恋に発展とか?)
ハクの真っ白な肌がどんどんと赤く染まって行った。
そして司会より第一回戦の試合内容が発表される。
「発表します! 第一回戦の試合は、『玉押し』です!!!!」
「はっ? 玉押し?」
それを聞いたクララが言う。司会が続ける。
「ルールは簡単。線上に置かれた大きな重い球をお互いが押し合う。終了時間の時点で多く押せていた方が勝ちになります!!」
「単純だね」
マリエルが言う。クララが返す。
「うん、でも単純なだけに妨害や戦略などの手腕が問われる」
そしてララ・ファインズの一回戦の相手が発表された。
「ララ・ファインズ一回戦は、イメルダ・ファインズ!!!」
イメルダ・ファインズ。
それは以前カインを賭けて戦った争奪戦の相手。前回辛勝した相手に再び大舞台で矛を交える。




