40.新作お菓子
「あ、あのさあ、マリエル……」
レミット王国での依頼を無事解決して、久しぶりに帰って来たガーデン王国。ララ・ファインズの拠点に戻ったクララ達はひとり留守番していたマリエルに会うと開口一番尋ねた。
「こ、これはどういうことなのかな……?」
クララはすっかり『お菓子屋さん』に変わってしまった拠点を見て言った。ホームの入り口部が改装されており、その上には『異世界お菓子屋さん』と大きな看板が掲げられている。マリエルが忙しそうにクララに答える。
「私の夢だったんだ、お菓子屋さん」
カイン達が店を覗くと売られているのは抹茶のクッキーにチョコレート。最初はその名から赤い箱に入れて売っていたが、今では黄色い箱のジョコイエロー、青い箱のジョコブルーなどのバリエーションも増えている。
そして食べたことのない異世界お菓子を求め既に多くの人で賑わっている。マリエルが舌を出して言う。
「私は冒険者の才能はあまりなかったんで、これからはパティシエとして生きるね」
よく見るとお菓子の説明に『人気パティシエ・マリエル監修』と書いた札が付けられている。驚き戸惑いながらもクララ達はマリエルをホームの部屋へと連れて行く。クララが言う。
「ちょっと勝手なことし過ぎじゃない? お菓子屋さんなんて……」
マリエルが謝りながら言う。
「ごめんね、クララ。勝手なことしちゃって。でもファインズの経営にも必ず役に立つんで悪くないでしょ? そもそも最近ちゃんとした依頼受けていないんで経営苦しくない? そんな団長さんを手助けしてあげようと思ってね」
確かに変なトラブルばかり続いてまともに収入らしきものがないのは事実だった。それを思い何も言い返せなくなるクララ。仕方なしに言う。
「分かったわ。でも冒険者引退はだめ。マリエルの手も借りなきゃいけない時はちゃんと手伝って。それ以外の時は副業として認めます」
それを聞いたマリエルが笑顔で言う。
「ありがと、クララ。あ、それからカイン君、新しい異世界お菓子、また雷牙君に聞いておいて。さすがに二種類じゃ少ないからね」
カインが答える。
「あ、そ、それなら雷牙が気を利かせて日記に新しいレシピが書いてあったんで、明日早速作ってみます」
「わあ、それは素晴らしい。よろしく頼むね、開発部長さん」
「はあ……」
カインは苦笑いをして応えた。クララが言う。
「そうそう、マリエル。今日からうちのホームに新しく住むことになったハクとマリちゃんだ。よろしくね」
そう言ってクララは二人を紹介した。ハクが言う。
「よろしくお願いします。もぐもぐ……、おいしいなあ、このお菓子」
「よろしく、マリエルお姉ちゃん。もぐもぐ……、おいしいねえ、このお菓子」
二人はテーブルにあった異世界お菓子を先程から食べ続けている。マリエルが言う。
「こちらこそ。二人は冒険者じゃないんだね? だったら明日からでもいいんでお店を手伝ってもらえる? 結構忙しくって……」
カインが慌てて言う。
「あ、ああ、あのお、二人は、その竜族でして……」
「竜族? ああ、カイン君のお友達なんだね。何だっていいわ。できそうかな?」
ハクが答える。
「ああ、問題ない。力を無くしてほとんど戦えないので、それぐらいの手伝いはしよう。お菓子も美味いし」
「マリもやるよー。お菓子おいしいし!」
「マリちゃん、食べるだけじゃダメだよ。ちゃんと作ったり売ったりしなきゃね」
マリエルが優しく言うとマリは笑顔で頷いた。
「従業員が増えて良かったわ。また明日から忙しくなるぞ!」
そう笑顔で言うマリエルは冒険者と言うより既にお店の経営者の顔をしていた。
翌日、早朝から新たなお菓子を作るカイン。カイン自身、これまでお菓子など全く作ったことはなかったが、いざこうやって作り始めると意外と楽しいことに気付いた。
「おはよ~、カイン。朝から頑張ってるね」
眠そうな顔をしてクララとマリエルが起きてきた。
「おはようございます……、皆さん……、ぐーぐー」
スミレも一応朝は起きてくるのだが、起きてきてすぐにまたソファーでうとうとし始める。マリエルが尋ねる。
「わお、早速新しいお菓子作ってくれてるんだね。で、何ていうお菓子を作ってるの?」
マリエルが新作のお菓子に興味津々でカインに尋ねる。カインが答える。
「ええっとですね、羊羹って言うらしいです」
「よ、溶岩? な、何だか強そうだし、熱そう名前だね……」
クララが苦笑いして言う。カインが二人に説明する。
「ヨーガンはですね、海藻を煮込んで加工した粉に、豆を煮詰めて作ったあんこや砂糖を一緒に入れて固めた物なんです」
ぽかんと口を開けて説明を聞く二人。マリエルが言う。
「カイン君……、全然美味しそうに聞こえないんだけど、大丈夫なのかな……」
マリエルは近日新作のお菓子を売り出すと店で宣伝していたので、その理解できないお菓子の説明を聞いて不安になった。カインが笑って言う。
「いや大丈夫ですよ。それよりもこの海藻を手に入れるのが大変で、ほら魚屋さんに行っても売ってないし。仕方ないので漁の時に偶然一緒に網に入っちゃう海藻を特別に貰って来ました」
カインはマイペースで話し続ける。クララが言う。
「海藻って、そんなもの食べるのか? 雷牙の世界では。そもそも食べられるのかい、海藻って……」
海藻を食べる習慣のないクララ達にとってはお菓子はもとより、それを食べること自体不思議でならなかった。カインが答える。
「そうですよね。僕も最初は半信半疑でしたが作って食べてみると美味しかったので驚きました」
そう言ってカインは黒くて長方形に切られたヨーガンを二人の前に差し出した。それを見たクララが言う。
「な、何だいこれ。見た目も全然おいしそうじゃないねえ。そもそも海藻って、そんなもんが、もぐもぐ……、うまああああああい!!!!!」
ヨーガンを一切れ食べたクララが叫ぶ。
「みっちりしていて滑らかな舌触り。しつこくない甘さ。それでいて後から来るその余韻、ああ、なんてことだあああ、ヨーガンばんざーい!!」
同じく隣で食べていたマリエルも言う。
「カイン君が作ってくれた、この抹茶をお湯で溶いたホットマッジャーにもとても良く合うよ!」
「ホントだ、甘いヨーガンと苦いけどコクがあるホットマッジャー! 最高だよ!!」
「早速これから新しいメニューに取り入れるね。カイン君、凄いよ!! 作り方教えてね!」
「あ、は、はい!」
カインは喜ぶ二人の顔を見て自分も幸せになって来た。
今日の朝食は新たな異世界お菓子の羊羹が加わった変わったメニューとなった。起きてきたハクやマリも美味しそうにヨーガンを食べる。食事をするカインにマリエルが言う。
「カイン君もそんなにお菓子作りが上手なら、うちで専属で働かない?」
既に店長になったマリエルがカインに言う。クララが苦笑して言う。
「だめだよ、カインはうちの主力。取られたら困る」
「はーい」
マリエルが笑って答える。ハクが言う。
「同じファインズで何を言っているんだ?」
「そうだよね、あ、マリエル。話して置かなきゃならないことがあるんだけど……」
そう言ってクララは船上でシルファール姫から聞いた世界選抜会議についての説明を行った。詳しいことは後でやって来るシルファール姫が説明してくれるらしい。マリエルが言う。
「なるほどねえ、世界選抜会議かあ。分かったわ。さて、じゃあ仕事、仕事。はいこれ」
マリエルは食事を終えるとハクとマリに服を渡した。受け取ったハクが尋ねる。
「何だこれ?」
そう言って広げるとそれは可愛いフリルの付いたメイド服であった。マリエルが笑顔で言う。
「これはお菓子屋さんの制服ね。着て見て」
それを見たマリが声を上げる。
「可愛い! 昨日マリエルさんが着てたやつだ!!」
ハクが顔を赤くして言う。
「こ、こんな破廉恥な服を着るのか。わ、私は……」
マリが言う。
「あれ? 昨日マリエルさんの制服見て『可愛い。私も着て見たい』とか言ってたでしょ? 白ネエ」
「う、うわああ、言うな!!」
にこにこ笑うマリにハクが言う。マリエルも笑いながら言った。
「そうよねえ、私も最初カイン君から『お屋敷とかで着ているメイド服がいい』と聞いた時はびっくりしたけど、確かに可愛いし男の子って潜在的にこういうの求めてるんだよね」
カインがそれに答えて言う。
「い、いや、あ、あれは実は雷牙からの提案で、彼の世界ではああいう服を着て接客をする店があって……」
「ええっ、雷牙君ってああいうのが好きなの?」
「へ?」
カインは驚いて声を出す。
「意外ねえ、そう言うのには興味がない硬派かと思っていたけど……」
「いいいい、いや、雷牙が興味があるかどうかは分からなくて、か、彼も何かお手伝いをしようとですね……」
しかしマリエルをはじめとした女子の間ではすでに「雷牙≠硬派」と言う話題できゃっきゃ盛り上がっていた。一方、可愛いメイドの制服を受け取ったハクはすぐに別のことを想像し始めた。
(こ、これでいい男に出会えるかな? イケメンに声を掛けられたらどうしよう?)
店で起こる様々なシチュエーションを妄想しひとりにやにや笑った。
コンコン
食事も一通り終わった頃誰かがドアをノックする音が聞こえた。
「シルファール姫が来られたわ」
皆の間に少しだけ緊張した空気が流れる。クララが言う。
「さあ、私達のこれからを決める大切なお話。楽しんで聞こうね」
その言葉にカインを始め皆が頷いて応えた。




