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38.急転

「やめろ、ハク!!! すぐに降りて来い!!!!」


きょうジイの心を宿したカインに一喝された白神竜が、涙を流しながらゆっくりと降りて来る。そして人の姿に戻りながらひとりつぶやく。


「ああ、あの子、本当に強ジイのよう。久しぶりに叱られたわ……」


白神竜は流れ落ちる涙を拭きながら一喝したカインを見つめる。カインが言う。


「てめえが何を考えているかは知らんが、無差別に大勢の人を巻き込むのは許さん」



(あれ? 雷牙なの?)


遅れてやって来たクララ達がカインを見て思う。白神竜が答える。


「分かったわ。あなたに言われちゃ逆らえない……」



ハクネエ!!」


下を向いてうな垂れる白神竜にマリが走って抱き着く。白神竜は優しくマリの頭を撫でた。カイン(ライガ)は座り込んで動けないシルファールの元へ行き声を掛ける。


「大丈夫か、嬢ちゃん」


「あ、ああぁ……」


シルファールの頬が赤く染まる。カインが言う。


「遅れちまったみたいで悪かったな。怖かったろ?」


シルファールが力なく言う。


「シルと、シルと呼んでください……」



「シル? まあいい、それより立てるか?」


カインはそう言ってシルファールに手を貸す。手を取りよろよろと立ち上がるシルファール。


「きゃあ!」


体に力の入らないシルファールがよろめく。それを片手で支えるカイン。シルファールがカインを見つめて言う。


「シルは、シルは幸せにございます……」



シルファールがカインに寄り添いうっとりと見つめていると、ひとりの男が階下から走って来て叫んだ。


「兄さん、もうやめて!! 兄さん!!!」


「フ、フリオニール!? な、何故ここへ?」


腰を抜かして床に座っていたディレンが走ってやって来た弟のフリオニールを見て言った。フリオニールが言う。


「兄さんのやったこともうすべて分かってるんだよ!! 魔導士隊のこと、姫様達を監禁したこと、そして竜様を怒らせてこの国の危機をもたらしたこと。すべてを!!」


それを聞いて顔が青くなるディレン。わなわなと震え出す体。

しかしすぐに肩を揺らしながら薄気味悪く笑い始める。その顔はまるで何かを決意した様な顔。剣を持って立ち上がりディレンが言う。


「もうどうでもいい、すべてどうでもいい!!! 死ねえええ!!」


ディレンはそう言ってカインに斬りかかった。それを咄嗟に感じたカインはシルファールを白神竜に渡し、剣を抜きそれを弾く。ディレンが狂った様な顔をして叫ぶ。



「貴様など、貴様など、私の指輪の前ではただの家畜以下だああ!!!!」


そう言って剣を振り上げてカインに斬りかかる。


「カインさん!!」


フリオニールが叫びながらカインに走り寄ろうとする。それを手で制しカインが言う。


「大丈夫だ」


そう言ってディレンの剣を弾いてから、懐に入り左手で思いきり殴りつける。


ドン!


「ぎゃああ!!」


壁まで吹き飛ばされるディレン。血が流れる口や鼻を押さえ震える上半身を起こし、カインに言う。


「ごほっ、うぐっ……、な、何で、何でそんなに動けるんだよおおぉ……、カインの精神は確かに抑え込んだはず……、い、痛い、痛いよおおおぉぉ」


カインが答える。


「カインの精神を抑え込んだ? ああ、それじゃあ駄目だ。()()()だ」


「はっ?」


その意味が分からず口を開けるディレン。しかしすぐに潮紅して言い返す。


「ば、馬鹿にしやがって、下民があああ!!!」


そう言って無理やり立ち上がると右手を差し出して魔法を放つ。



ドンドン、ドーーーン!!!


カインの傍で起こる爆炎。

だがカインもすぐに爆炎で応戦。お互いの爆発によって攻撃全てが相殺され消える。赤かったディレンの顔が青くなってつぶやく。


「く、くそ、ど、どうなって……」



「諦めろ」


カインはそう言ってディレンの前まで走り寄ると、今度はその腹に重い右手の拳を打ち込む。


ドン!


「ぐほっ、ぐぎゅわああああ!!!!」


ゆっくりと前に崩れ行くディレンが小さく言う。


「ち、違うんだ。違うんだ、俺は悪くない。あの女だ。あの竜の女が俺を騙して……」


ドン!!


「ぎゃぐううわあぁ!!」


今度はその顔に拳が撃ち込まれる。


「ぎゅふひゃ!! 痛い、痛い痛い痛い痛い!! も、もうやめてくれ、お願い。お願いだああぁぁ」


あまりの痛さに倒れて転がりながら叫ぶディレン。顔は涙や鼻水で溢れ、もはや恥も外聞もない状態でもがいている。それを見た白神竜が言う。



「何と情けない姿。私はこのような男に惹かれておったのか……」


下を向き首を振る白神竜。

泣きわめくディレン。しかし転がりながら心の中ではその怒りは頂点に達していた。


(許さんぞ、許さんぞ、絶対に許さんぞおおおお!!!!!!)


そして懐に隠し持っていた真っ黒な玉を口に入れる。それに気付いたフリオニールが叫ぶ。



「あ、あれは召喚卵!? 飲み込んだ? あ、兄上えええ!!!」


「ぐわあああああ!!!!!」


突如苦しみ始めるディレン。

首を押さえ、目を剝きだし、そして頭を前後に激しく揺さぶる。



「あ、兄上……?」


やがて体の色が黒く染まり始め、筋肉が盛り上がり、背には悍ましい黒い翼が伸びる。それはとてもヒト族とは呼べない姿であった。フリオニールが言う。


「ま、魔族……」


召喚卵を飲み込むと言う奇行を行ったディレン。その姿はヒト族が恐れ忌む邪悪な魔族へと変化した。魔族化したディレンが叫ぶ。



「ぐはははははっ!!! もういい、すべてがもうどうでもいい!!!!」


カインは眩暈に襲われ一瞬目を閉じる。そして目を開けた光景に驚いて声を上げた。



「ぎょわああええああ!! ええっ、えええっ!!! 何あれ!? ま、まままま、魔族ううう!?」


雷牙が抜けたカインが青い顔をして叫ぶ。

ディレンはすっと姿を消すと一番近くにいてまだ力が入らない()()()を攫って飛び立つ。


「えっ!?」


恐怖に襲われていたカインがそれに気付く。空に舞いながらディレンが言う。


「がははははっ、追って来い!! 追って来てみろ!!!」



「だ、団長おおおおおお!!!!」


連れ去れて行くクララを見てカインが叫んだ。

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