35.強ジイ
宿屋の娘エインの叫び声で起きたカイン達。急ぎ階段を下り降りると、そこにはまるで森で会った魔導士達の様な目をした彼女の両親がいた。そしてふたりは娘が呼ぶ声に耳を傾けることなく外へと歩いて行く。
「お父さん、お母さんーーー!!」
両親を追いかけ外に出るエイン。カイン達も一緒に外へ出ると、そこには同じく白目になった街の人達がたくさん何かに引き寄せられるように歩いていた。
「これは、一体なんなの……?」
その光景を見たクララが言う。カインは小言をつぶやきながら歩く異様な人達を見て震える。そんなカインにマリがやって来て言う。
「エインちゃんのパパとママを助けて!」
カインはマリに頷き、支度を整えてクララとスミレと共に街の人達の後をつける。
ただクララは後つけながらもう分かっていた。彼らがどこへ行くかを。
「王城……!?」
カインが街の人達が次々と入って行くその美しい王城を見て言った。クララが言う。
「忍び込むわよ」
青い顔をするカインを引きずるようにしてクララが王城に入って行く。
案の定、城の中庭には沢山の白目をむいた街人である魔導士隊が集まっていた。エインの両親もそれに加わって行く。物陰から見ていたクララが言う。
「こういう事ね」
「な、なな、何ですか……、これ!?」
カインは小言をつぶやきながらたくさんの人が集まっている異様な光景を見て言う。クララが答える。
「すべて城の者による洗脳か何かだね、きっと。で、それに関わっているのがあいつ」
そう言って集団の前にある壇上に立つバックレを指差した。その隣には青い顔をしたリアナもいる。
「ななな、何をしようとしているんですか……?」
クララの陰に隠れて様子を見るカインが尋ねる。クララが言う。
「竜討伐かな、たぶん」
「え、ぼ、僕らには何も……」
「最初からそのつもり。私達を呼んだ目当ては、たぶん姫様とか、そんなところでしょうね」
それを聞いたカインが驚く。
「えっ、じゃあこれって、ディレン王子の……」
カインはを小さくして言う。
「間違いない、あの変態王子の仕業だわ」
「姫様……」
カインはまだ帰ってこないシルファールを心配した。
「動き出した! 後をつけるわよ!!」
クララは隊を成して一斉に移動を始めた魔導士達の後をこっそりとつけた。
一方、精霊が住む森にある巨木の上では怪我をした白神竜が体を休めていた。白神竜は指にはめられた指輪をバキっと音を立て破壊する。そして安堵の表情浮かべて言った。
「ようやく外せた……、お前達感謝する」
白神竜は周りを飛ぶ怪我の治療をしてくれた森の精霊達に感謝を込めて言った。白神竜は壊れた指輪を投げ捨てレミット王城のある方角を見て言う。
「許さぬぞ、あの男。竜族の逆鱗に触れた罪、思い知らせてやる!!!」
白神竜は竜の姿に変わり飛び立とうとする。
そこへ森の精霊が慌ててやって来て何かを告げる。それを聞いた白神竜から怒りのオーラが放出される。
「こんなところに国軍が? そうか、本気で私を殺しにやって来たか、愚か者共め。よかろう、見せてやる。解放した竜族の力を!!!」
「あ、あれが竜? ほ、本当にいた。青白くて美しい……」
白神竜の前に現れたバックレ達。リアナがその美しい竜の姿を見て言う。バックレがつぶやく。
「くくくっ、いくら竜族とは言え力を押さえられている状態。この可愛い魔導士達の前にはあっという間に屈するだろうよ」
そう言いながら後ろに控えるたくさんの魔導士隊を見つめる。対峙する白神竜が叫ぶ。
「駆逐してやる、ヒト族ども!!!」
そう言いながら大きな翼を広げて飛び上がる。それと同時にバックレが魔導士隊に向けて命令を出す。
「撃て、撃て!! 殺して魔心でも頂くぞおお!!!」
魔導士隊から魔法の詠唱が始まる。そしてすぐに飛来する白神竜に向けて雨のように魔法が放たれた。
ドンドンドンドーーーン!!!
炎、氷、風、土、光に闇。
特殊な呪いで魔力強化された魔導士隊から様々な魔法が撃ち放たれる。白神竜はそれを避けようともせず一直線に飛び、その多くの攻撃を体に受けた。それを見たバックレが笑いながら言う。
「ぎゃはははっ、当たった当たった、全部当たったぞおおお!! ……えっ!?」
魔法の爆炎が舞う中、白神竜がそれを突き抜けて飛んで来る。傷ひとつ負っていないその姿にバックレが驚く。
「な、何でだよ!? あれだけの攻撃を受けて!!」
白神竜が飛びながら叫ぶ。
「滅せよ、氷結塊!!!!」
白神竜が叫ぶと魔導士隊の頭上の空気から無数の巨大な氷が作られ、それが次々と頭に落とされる。
「う、わあああ!!!」
「きゃあああ!!」
バックレとリアナのふたりだけの悲鳴が響く。魔導士隊の多くは攻撃を受けて倒れるも無表情で立ち上がり、何事も無かったのように黙々と白神竜に向けて攻撃を繰り返す。唸るだけの無言の魔導士。怪我をしても魔法を放ち続ける。
ドンドンドン、ドーーーン!!
(な、なんなのこいつら!? 操られている?)
白神竜は攻撃を行いながら異常な行動をとるヒト族を見つめる。そしてその背後にいるふたりの指揮官らしき人物に気付き攻撃する。
「氷結塊!!!!」
ドオオン!!
「ぐわあああっ!!!」
白神竜がバックレとリアナに向けて集中的に攻撃を行った。氷塊攻撃を受けた二人がばらばらに吹き飛ばされる。白神竜は大きく咆哮すると、吹き飛ばされたリアナに更に追撃を始める。リアナの頭上に現れる現れる巨大な氷塊。
「う、うそぉ……」
頭上の巨大な氷塊を見て震えて動けなくなるリアナ。バックレも逃げるようにいなくなり、そして周りの魔導士隊も狂ったように無意味な攻撃をひたすら繰り返す。
――私、死ぬの?
リアナは頭上にできた巨大な氷の塊を見て思った。
ドオオオオン!!!
「えっ?」
その巨大な塊が、突然爆炎を上げて砕け散った。
氷の欠片さえ残らぬほどの火力。シュシュウと音を立てて蒸発する氷片。そして声を掛けられた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「カインさん……?」
リアナは目を疑った。理解できなかった。
目の前で必死に助けようとする少年。それを見てリアナは思う。
――どうしてこの人は自分を殺そうとした私を助けるのだろう……
こんな場所で魔導士隊を率いていれば何をしているかなど分かるはず。
敵、そう。敵なのよ私は。
「どうして……?」
リアナが弱々しくカインに尋ねる。
「えっ、いや、その、危なかったんで、それに……」
リアナがカインを見つめる。カインが言う。
「『泣いている女の子は黙って助けろ』って何度も言われてて……」
「えっ? 泣い、て……?」
リアナは自分が涙を流していることに初めて気付いた。
「はい、これ」
カインはリアナにハンカチを手渡す。そして言う。
「今度は使ってくださいね」
リアナはハンカチを受け取りながら、以前カインから渡されたハンカチを断ったことを思い出した。流れる涙を感じながら言う。
「はい、カインさん……」
リアナは受け取ったハンカチで溢れ出す涙を拭いた。カインが言う。
「一旦退いてください、ここは、ぼ、僕らで……」
そう言い掛けたカインに白神竜が激怒して言う。
「邪魔をするな!!!」
ドオオン!!!
カインは再び現れた氷塊を爆炎で吹き飛ばす。そして叫んだ。
「僕らは戦いに来たんじゃない! あなたに会いに来たんだよ!!」
「黙れ、男の言うことなど聞くか!!!!」
そう言って再びカインを攻撃しようとした白神竜が、その目の前で行われた理不尽な光景に目を疑った。
「ぐわっ!!!」
「カ、カイン!!!」
白神竜と対峙していたカインの背中を、突然現れたバックレが持っていた剣で斬りつけた。バックレが笑いながら叫ぶ。
「ぎゃはははっ、お前も死ね、カイン!! 一石二鳥だあああああ!!」
倒れたカインの名前を叫ぶクララ達。リアナはすぐにカインに回復魔法を掛け始める。白神竜はその光景を見て怒りが頂点に達した。
「愚か者の上に卑劣とは!! 消え去れえええ!!!!!」
そう言いながら巨大な氷塊をバックレに向けて勢いよく放つ。
ドオオオオオン!!
「ぎゃあああああ!!!!」
攻撃を受けて後方まで吹き飛び、バックレはそのまま倒れて動かなくなった。そしてバックレが気絶するのと同時に、魔導士隊も眠るように倒れて行く。
回復魔法を受けて少し傷も癒えたカインが、リアナの肩を借りて白神竜に再び叫ぶ。
「やめてくれ! 僕は強神竜のじっちゃんに頼まれたんだ! お願いだから、これ以上暴れるのはやめてくれ!!」
怒りで興奮する白神竜が感情のまま叫ぶ。
「黙れ、男など、ヒト族など滅んでしまえ!!!!」
白神竜が再び氷塊攻撃を始める。それを見たクララが言う。
「仕方ない、迎撃するよ。カイン、スミレに燃料投下頼む!!」
「えっ、あ、はい!!」
クララは木箱を開け口にお菓子を入れる。カインはスミレの元に行き「スミレちゃん、頑張って!」と声を掛ける。
「行くよ! 降雪賛歌!! ……あれ?」
クララが叫ぶと白神竜の周りに雪が降り始める。クララが頭を抱えて言う。
「し、しまった。これは雪まつり用の魔法じゃん!!」
「私に雪だとおお!!! ふざけるなああ!!!」
「カイン様あああ!! はっ!!!」
そんな雪が舞う中、スミレが空に浮かぶ白神竜に向けて跳躍する。しかしそれを見ていたカイン達が驚く。
「えっ、あ、ス、スミレちゃん……!?」
スミレは白神竜に向けて跳躍したものの、まったく届かず途中でドンと音を立てて地面に落ちた。いつものスミレでは有り得ない動き。地面に落ちたスミレが再び眠り始める。リアナが思う。
(指輪のせいで力が出ないんだわ……)
白神竜が羽ばたきながら近くで眠るスミレを攻撃しようとしながら叫ぶ。
「私の邪魔をするな、ヒト族!!!!!」
その瞬間、リアナの目の前からカインが消えた。
「はあああ!!!」
「なっ!?」
剣を抜いたカインは力強く白神竜に向かって跳躍し、剣を振り上げ斬りかかった。
ドオオオオオン!!!
攻撃を受けた白神竜がそのまま地面に落ちる。カインも一緒に地面に降り立つと、間入れず走り出し剣撃を繰り出す。白神竜が思う。
(な、なに? さっきとは別人……?)
「……雷牙、かな?」
それを見ていたクララがひとり言う。
「はああああああ!!!」
その間にもカインは爆撃を織り交ぜながら剣と拳で白神竜を追い詰める。堅い皮膚の為、致命傷には至らないが、竜族を一方的に追い詰める姿は圧巻であった。
「凄い、カインさん……」
その姿にリアナが見惚れる。攻撃をしながらカインが言う。
「おめえ、竜族だろ? 何、暴れてんだ?」
(別人? こいつ別人になったようだ!?)
白神竜が防戦しながら思う。そして大きな口を開けて言う。
「私は、私は……!!!!」
その時、カインの動きが止まる。そして驚いて言う。
「ん? えっ、えええええっ!!! な、なななななんで、目の前に竜が!? ええっ? 近あああいいいいいぃ!!!!!」
バン!!
「いてっ!!」
鉄工所の中に、女社長が雷牙の頭を叩く音が響く。
「こら、雷牙! 仕事中に居眠りしてんじゃねえぞ!!」
「あ、社長、すいやせん、……って、あああっ!!!」
雷牙は溶接トーチを持ったまま固まった。
(も、戻っちまった。カ、カイン、大丈夫か!?)
ドオオオオン!!!
「ぐわあああ!!!!」
「カインーーーーー!!」
カインは目の前の白神竜に驚き、そして直ぐに氷塊攻撃を立て続けに受けた。激しい攻撃を受け、後方に吹き飛ばされてぐったりとするカイン。立ち上がる気配もない。
「誰も私に勝てぬわ!! グゴオオオオオ!!!」
勝ち誇り、咆哮を上げる白神竜。
そして興奮状態のままカインに向けてとどめの巨大な氷塊を放つ。カインを助けようと走り始めていたクララが目の前に迫った氷塊に気付き立ち止まる。
「うそっ!?」
顔色が変わるクララ。目の前で轟音を立てる氷塊の恐怖に思わず目を閉じる。
ドオオオオオン!!!
突如舞い上がる爆炎。パラパラと辺りに落ちる氷片。クララの前にはゼイゼイと息をするカインの姿があった。
「カ、カイン!?」
フラフラなカインを見てクララが名前を呼ぶ。白神竜が叫ぶ。
「何故だ? どうしてだ? お前はもう立てないはず!?」
カインが言う。
「なぜだって……?」
カインは剣を構えて大声で叫ぶ。
「大切な人を守るのに理由など要らない!!!!」
「!!」
その言葉に白神竜は心臓を殴られたような衝撃を受ける。その瞬間、白神竜の脳裏に強神竜が浮かび、そしてその姿がカインと重なった。小さくつぶやく。
「きょ、強ジイなのか……」
白神竜の目から涙が流れる。
姿かたちは違えど、目の前にいるのは間違いなく大好きだった強神竜であった。




