34.王子の陰謀
翌日、王城へ呼び出されたカイン達は再びディレン王子に面会する。
いよいよ竜対策の話かと思いきや、ディレンはどうでもいい世間話や国自慢を始める。
「私の五人目の妃が可愛くてねえ……」
「うちに配備された新たな部隊が凄くてさ……」
余りにもくだらない話が続くので耐えかねたクララがディレン王子に問い掛ける。
「王子、竜対策はどうなりましたか? 私達もここに来てから数日経ちますが、何も伺っていません」
ディレンは笑顔で皆に言った。
「そうそう、私はこれからシルファール姫と国家間の大切なお話があります。皆さんは一旦別室でお待ち頂けますか」
シルファールが驚いて言う。
「えっ、私は何も聞いていないわ。そう言うことは外交ルートを通して……」
「とても大切なお話なんです」
ディレンはそう言うと兵士に命じてカレン達を別室へと連れて行かせた。ディレンはひとり残り不安そうな顔をするシルファールに言う。
「他の者に聞かれてはいけないお話なので、どうぞこちらへ……」
そう言って少し嫌がるシルファールの腕を掴み、別室へと連れ込む。
「な、何ですか? ここは!!」
そこには部屋の中心に大きなベッドが置いてあり、その上に数名の美女が下着姿で寛いでいた。テーブルの上には豪華な食事や飲みかけのワインなどが散らかっている。シルファールは謁見の間のすぐ隣にこの様な部屋があること、そしてこの破廉恥な光景に体が震えた。ディレンが言う。
「何って、姫。貴女も直にここに加わって頂きます」
シルファールがディレンの方を振り返って言う。
「な、なんですって? どういう意味?」
シルファールの顔が既に怒りに満ちている。ディレンが言う。
「今うちはふたつの戦いの準備をしている。ひとつは竜の討伐、そしてもうひとつはガーデン王国との戦い……」
「え、今、何を言って……」
シルファールが驚く。
「軍事力で圧倒的に勝る我が軍が、姫様の国を攻めたら、さあ、どのくらい持つでしょうかね?」
「き、貴様、理由もなしに戦争など……」
ディレンが笑って言う。
「なあに、簡単ですよ。貴女がうちにきて無礼を働いたとか、そうだな、スパイでもしたとか。何でもいいですよ」
「そ、そんなことを!! 一体何が目的なの!!」
シルファールは全身が震えるのを堪えて言った。ディレンが言う。
「簡単ですよ、あなたです。姫、あなたにここの女達に加わって欲しいんですよ」
そう言ってディレンはベッドの上で妖艶な顔をしてこちらを見つめる女達にウィンクを送る。
「な、何たる無礼な!!!」
ディレンがベッドの女達の元へ行き、その髪を触りながら言う。
「無礼ではありませんよ。我が国では一夫多妻制がございますし、それにこう見えても彼女達、由緒正しき貴族令嬢ばかり。まあちょっと薬を与えてはいますが、身分的には小国ガーデンと同等ですよ」
「ぶ、ぶ、無礼者めが!!!!」
怒鳴るシルファールにディレンがベッドに座って言う。
「魔導士隊。お会いしましたよね、森で」
「!!」
驚くシルファール。
「間もなくあれが完成します。あれが部隊を成ししてそちらに攻め入ったら、くくくっ、どうなるでしょう?」
「お、お前、何を言って……」
バン!
「きゃあ!!」
ディレンが立ち上がりシルファールを殴って言う。
「お前、じゃないだろ? ディレン様、だろ?」
「くっ……」
シルファールが殴られた頬を押さえながらディレンを睨む。ディレンがにやにやして言う。
「いいねえ、その顔。怖い顔。その顔が段々私にお願いを乞うようになるのを想像するだけで、ああ、もう私は興奮するよおおおおおぉぉ!!!」
「こ、この変態が……」
ひとり悶絶しそうになるディレンを見てシルファールが言う。ディレンがシルファールの前に立って言う。
「とりあえずお供の者達には怪しまれぬようこれから話に行きましょう。よいか。余計なことは言わないように。言ったらすぐに戦争を開始するから」
「く、ううっ……」
シルファールは力なく下を向き小さな声で唸った。
再び謁見の間でカイン達に会うディレン。その横には下を向いたシルファールが立つ。異様な空気が流れる中ディレンが驚きの言葉を口にした。
「シルファール姫はこの度、この私ディレンと婚約する運びとなった。よってこれから姫はこの王城にて滞在する事となる。君達の仕事は終わりだ。国に帰って頂きたい」
「え、ええええ!!!!」
突然の発表に驚くカイン達。クララがシルファールに尋ねる。
「姫! それは本当なのですか?」
シルファールは下を向いたまま震え何も答えない。クララがディレンに言う。
「私達が帰って、じゃあ竜退治はどうなるの?」
ディレンが笑って答える。
「君達が心配する必要はない。優秀な我が軍の兵士達によってあっという間に討伐されますよ。君達は必要ないんだよ、最初から」
「姫様……」
カインが小さくその名を呼ぶと、シルファールは頬から一筋の涙を流した。
城を出て宿屋へ戻るカインにクララ、そしてスミレ。
重い空気が三人に圧し掛かる中、宿屋ではマリが帰りを迎えてくれた。元気のないカインに気付いたマリが尋ねる。
「どおしたのお、パパぁ。元気ないよ」
「大丈夫だよ、マリちゃん……」
「ねえ、ママは?」
「!!」
カインの表情が一瞬固まる。
「だ、大丈夫、すぐに帰って来るよ。女の子を泣かす奴は悪い奴なんだ」
「うん」
クララが言う。
「今日もエインちゃんと遊んでたの?」
「そうだよ!」
「マリちゃん、家は思い出した?」
「分からない!」
「そう……」
カインが苦笑する。
ディレンの私室。
ベッドの上で美女達に囲まれながらディレンがひとりぽつんと立つシルファールに優しく言う。
「さあ、おいで。愛しき姫よ」
ディレンはいつの間にか下着一枚になり立ち上がると、シルファールに近づきその顔に触れようとする。
パン!!
「ぎゃっ!!」
シルファールはディレンの顔を平手打ちし、履いていたブーツで股間を思い切り蹴り上げた。
「ぎょぐじゅうぎゅぐはぶふぁ……」
ディレンが股間を押さえてのた打ち回る。驚き下着姿のままやって来る美女達。介抱され立ち上がったディレンがシルファールを殴り返す。
バン!!
「きゃあ!!!」
床に倒れるシルファール。ディレンが激怒して言う。
「姫さんよお、勘違いしてねえか? 姫なんて言ってやってるが、小国の姫じゃあこいつらにすら勝てねえんだよ? 分かるか? レミットの貴族にも劣るんだよ、お前は!!」
そう言って倒れたシルファールの髪を掴んで引っ張る。
「き、貴様!! 我が国を侮辱しおって!!!!」
そう言いながら魔力が上がるシルファール。それに気付いたディレンが髪を放して言う。
「おうおう、怖いねえ。ちょっとお仕置きが必要かな」
そう言ってディレンが指をパチンと鳴らす。それと同時に全身の力が抜けていくシルファール。
「な、なに、こっ……、れ……?」
ディレンが倒れたシルファールの傍に行き顔を覗き込んで言う。
「気付かなかったのかな、その指輪。封力の指輪。力を奪うんだよ」
「く、そっ……、取れない……」
ディレンが立ち上がって言う。
「姫様には少し地下牢で反省して貰おうかな。冷たくて寒い地下牢。もちろん食事も抜きでね」
(カイン、さま……、たすけ……、て……)
その言葉を聞きながらシルファールは意識を失った。
翌日。早朝にカレン達が宿泊している宿の一階からエインの声が響いた。
声に気付いたカイン達が下へ降りると、エインが震えて泣いていた。
「お父さん、お母さん!! どうしたの!!!」
エインの両親は白目になり、近づく娘のエインを殴り飛ばして外へ出ようとしている。エインが泣きながら両親の名を叫ぶ。それを無視してふらふらと外へ出る両親。カインが言う。
「ねえ、あ、あれって、まるで森で会った……」
「魔導士隊と同じだ……」
クララもその光景を見てつぶやく。
「何が起きているんだ、一体……」
カインは力が抜けたように小さく言った。




