32.襲撃
カインに斬られ煙となって召喚卵に戻るサンドウォーム。リアナはカインに手を取り起こされて、その顔を見つめて言う。
「あ、あのお、ありがとうございます……」
カインはあまり興味なさそうに返事をしようとすると、背後から自分を呼ぶ大きな声が聞こえた。
「カイン様ああああああ~!!!!」
振り返るとまるでサンドウォームのように体をくねくね動かしながらシルファールが近付いて来る。カインが慌てて言う。
「や、やめろ! 近づくな! これは召喚獣だ。まだ何か潜んでいるかも知れない!!」
その言葉にはっとするシルファール。駆け付けたクララも言う。
「あの消え方、どう見ても召喚獣ね。あれを放った誰かがまだ近くにいるかも」
それを聞いたリアナが今更ながら我に返る。
(しまった! 私、彼らを消しに来たんだっけ……)
自分の任務を思い出したリアナ。顔がどんどん青くなる。クララがリアナに言う。
「顔が真っ青よ。怖かったんでしょう。少し休んでて」
「は、はい……」
リアナは何も言えず大人しくその指示に従った。
「くそっ、あの役立たずめ!! まあいい、これからが本番だ」
離れた場所から見ていたバックレがにやにやと笑う。そして後ろに控えていた十名ほどの魔導士達に攻撃を命じた。
「何か来る!!」
サンドウォームを倒し話をしていたカイン達。クララが森の奥から漂う気配を感じ構える。
「ななな、なんでしょう、まだいるんですか……」
雷牙から戻ったカインが少しずつ後ろに下がりながら震える。そして姿を現す魔導士達。
「あれは……、魔導士? ヒト族っぽい!? 伏せて!!!」
ドオオン!!!
クララがそう叫ぶと同時に魔導士達は魔法を放った。防御を取りながら耐えるカイン達の周りに魔法による砂埃が巻き起こる。
「な、なによ? 一体!?」
シルファールが叫びながら現れた魔導士達を見つめる。皆、無表情の白目。無言でカイン達に向かって歩いて来る。それを見たカインが叫ぶ。
「あわわわわっ、な、なにこの人達?? え、顔、お、おかしいよおお、怖い、怖い、普通じゃないよおおおぉぉ」
「えっ?」
その急なカインの変貌ぶりに驚くリアナ。
クララはその魔導士達を驚きと共に違和感を持って見つめる。
(ヒト族? 正気じゃない? 操られているかもしれない、だとしたら……)
「あなた達、ヒト族!? 私達は国から派遣されて来ただけなの! 聞こえる?」
クララは近付く魔導士達に必死に語り掛ける。
「うぐっ……、ぐぐぐっ……」
しかし彼らの目は依然白いままで問いかけにも反応がない。その間にも魔導士達は魔法を唱え始める。クララが言う。
「姫、仕方ありません!」
「ええ、そうね」
「攻撃を!! 防衛に必要な攻撃を!!」
シルファールもそれに頷き魔法を唱え始める。クララは木箱から再びお菓子を取り出して口に入れる。
「もぐもぐ……、うん、ファイヤーウォール!!!」
クララは歩み寄る魔導士達の前に炎の壁を造り出す。しかし薄い。それを見て言う。
「いや、なんか薄っいなあ……」
「ゴブリット・サンダー!!!」
シルファールも魔法レベルを下げて雷魔法を放つ。
バリバリバリバリッ
魔導士達周辺に微弱な電流が流れる。一瞬感電し動きが止まるも、まったく気にせず進む魔導士達。クララの火の壁も躊躇うことなく突っ込んでくる。
さすがにこれはおかしいと気付いたクララが言う。
「操られているわね、恐らく」
「そうみたいね。一旦退きましょう」
シルファールも同意して言う。クララが頷いて言う。
「ですね。一応目的の魔獣は倒せたようだし、これ以上良く分からない戦いは避けるべきね」
それを聞いたカインが言う。
「じゃ、じゃあ、ぼぼぼ僕が気を引くんで、早く逃げましょうぅ……」
カインは覚えたばかりの爆炎を放つ。
ドンドンドンドーーーン!!
しかしその威力もホームで偶然出したものよりずっと弱いものであった。それでも炎と煙、そしてその数の多さで魔導士達を足止めし森を駆け抜けて退却した。
「はあ、はあ、何とか逃げられたわね」
森を出たところでクララが立ち止まり皆に言う。シルファールが答える。
「ええ、ただ魔力が抑えられていたわ。力が出ないと言うか……」
「そうですね、魔力が低下させられている。スミレの剣もあんなもんじゃない」
無理やり走らされてふらふらになっているスミレを見てクララが言う。
「それにあのサンドウォーム、召喚獣の可能性が高いわ」
シルファールが言う。カインが答える。
「ええ、だ、だとすると、誰かが近くにいて……」
背中に悪寒が走りぶるっと震えるカイン。クララが言う。
「あれ? さっき助けた女の子は?」
「あっ」
一瞬の静寂が皆を包む。
「まさか……、あの子が??」
そう言ったクララにシルファールが反論する。
「その可能性は低いわよ。何せあの子も召喚獣に襲われそうになっていたし。自分より高レベルの召喚獣を出すはずがないわ」
「も、もしかして、だだだ、誰かに騙されて渡された、その、召喚卵だってことはないでしょうか?」
カインが自信なさ気に言う。シルファールがカインの両手を持って言う。
「そうです、そうですわ!! カイン様。さすがカイン様!!!!」
喜ぶシルファールを横にクララが思う。
(その線もアリかな。そうだとすると私達は誰かに狙われていることになる……)
一方、カイン達が退却した森の奥ではバックレの怒声が響いていた。
「この役立たずが!! 私の足ばかり引っ張りおる!!!!」
「す、すみません。バックレ様ぁ……」
地面に座り込みひたすら謝るリアナ。バックレはカイン達が撤退して行った方を見つめて言う。
「しかし、あのカインとかいう奴。意外と強い。指輪をしていてあの力とは。一旦戻って報告だ」
リアナは暗い顔をしてその独り言を聞いた。
「で、お前は何も成果なしでおめおめ私の前にやって来た訳か?」
城に戻りディレンに報告するバックレ。ディレンは自室のベッドの上で美女の柔肌を触りながらバックレに言う。
「も、申し訳ございません……」
ディレンが言う。
「俺が用意した召喚卵も、実験に成功した魔導士隊も全て預けてやったのに、男の始末どころか女ひとり連れて来れないとは。バックレ、やる気はあるのか?」
バックレが体中に汗を流しながら言う。
「ももも、申し訳ございませぬ。今度は、今度は必ず王子に良き報告を……」
「弟のフリオニールも何やら裏でこそこそしているようだし、あの女も竜になって逃げ出すし、ああ、面白くねえええ!!」
そう言ってディレンはベッドの傍にあった花瓶をバックレの近くの床に投げつけた。
バリン!!
「ひ、ひぃい!!」
恐れるバックレ。ディレンは隣の美女の美しい髪をいじりながら言う。
「バックレ、次失敗したら大臣降格だ。一卒兵になってやり直せ、いいな?」
「はははは、はいぃ……」
バックレは床に頭をこすりつけてディレンに返事をした。
(許さない、絶対に許さない。必ず殺してやる!! カイン!!!!)
バックレは今なお痛む顎の傷を感じながらカイン暗殺を心に誓った。
魔獣討伐の翌日、報告の為に王城へ向かったカレン達。そんな一行をディレンは笑顔で迎えた。
「これはこれはガーデン王国の皆様。無事魔獣を倒せたとのこと、有り難いことです」
そう言いながらまったく目は笑わないディレン。ふうと一度溜息をついたクララがディレンに尋ねる。
「王子、竜退治はいつ行きますか?」
ディレンは笑顔を崩さずに答える。
「それはまだ準備中なので。あ、そうそう。今夜、月に一度の晩餐会が開かれます。バックレ、説明を」
そう言って王子の椅子に戻るディレン。呼ばれたバックレが無表情のままカイン達の前に現れると、晩餐会の説明を始めた。
「今宵、街にある国立式典場にて晩餐会が開かれます。日々国務に励む者達を労うディレン様主催の食事会です。是非皆さんもご参加を」
バックレは軽く頭を下げて言った。シルファールが尋ねる。
「大臣、竜の危機が迫っているこの時期にも行うんですか?」
バックレは頭に血が上るのを押さえて冷静に答える。
「この時期だからこそです。我々は怯えるだけではなく、何物にも屈さない強い姿勢を内外に示さなければなりません。服装はそのままで結構です。堅苦しいものではございませぬので」
そう言うとバックレは奥に下がった。
「楽しみにしてますよ、では会場で」
ディレンもそう言うと皆に挨拶をして退場する。カインが言う。
「ばばば、晩餐会って、はあ、また、肩が凝るやつなんでしょ……」
「美味しいもんだけ食べて帰りましょ」
クララは笑って言った。




