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31.召喚士リアナ

「ええっと、これだったかな……、あれ、違うかなぁ……、ああぁ、すみません。すぐに払います……」


竜襲来の報を受けレミット王国にやって来たカイン達。

しかしディレン王子に会うもそれほど切羽詰まった感はなく、むしろ余裕の態度。カイン達もしばらく街で待機となり、仕方なしに時間を見つけて買い物に出かけたりしていた。



「あれ? これかな? ……通貨が変わってよく分からないなあ……」


ひとり食料品店の買い出しに来たカインだったが、初めて見る外国の通過に戸惑い支払いがうまくできない。


「ねえ、あれ。他国の人かな? なんかおどおどしているね」


それを店内で見ていたふたりの女性が話をする。


「そうね、私、ちょっと手伝って来るわ」


「あ、リアナ!」



リアナと呼ばれた少女は支払いであたふたするカインの横に行き、声を掛ける。


「えっと……、これと、これを出してください」


「えっ! あ、ありがとうございます……」


カインは指示された硬貨を店主に渡す。細かなお釣りを返されたカインが、そのまま少し離れた場所に戻ったリアナの所へ行く。



「あ、ありがとうございます。助かりました」


「いえ、大丈夫ですよ。外国から来られたんですか?」


カインはその少女の笑顔に少しどきっとしながら答える。



「あ、は、はい。ガーデン王国から……」


リアナは笑顔で答える。


「そうでしたか。観光、楽しんでくださいね。……ん? は、は、はっくしゅん!!!」


「うわわわぁ」


リアナは突然カインの前で大きなくしゃみをした。


「あ、あ、ごめんなさい!」


顔を赤くして謝るリアナ。カインがハンカチを差し出して言う。



「あ、あのおぉ、これ、使ってください……」


差し出されたハンカチを見てリアナが言う。


「い、いえ、大丈夫ですよ。大丈夫ですから」



「いや、あの、……ハナ、出てますので」


「げっ!?」


リアナは慌てて服の袖で鼻水をすする。



「あ、あ、あぁ、ありがとうございました。それじゃあ」



リアナはそう言うと一緒に来ていた女の子と慌てて店を出て行った。店を出た女の子がリアナに言う。


「大丈夫だったの?」


「う、うん、でもちょっと恥ずかしいかも……」


リアナが頬を赤くして言う。


「まあ、いいんじゃない。もう会うことないし。それより、なんかぱっとしない男だったねえ。びくびくしていると言うか……」


女の子の言葉にリアナが答える。


「うーん、中々可愛い顔した人だったわよ。まあでも、やっぱり男の人は頼りがいがある方がいいかな」


女の子ふたりはその後も取り留めのない会話をしながら歩いて行った。





後日、レミット王城謁見の間に呼び出されたカイン達。ディレン王子が皆を前に言った。


「実は皆さんに特別にお願いしたいことがありまして。王城郊外にある森に強い魔物が出現するようになり近隣住民に不安が広がっています。そこで是非皆さんで退治をお願いしたいと思っています」


不快な表情を浮かべるシルファールが答える。


「私達は竜襲来の救援に来たのに、近郊の魔物退治とはどういう事でしょうか?」


その言葉にクララ達も頷く。ディレンが言う。


「仰る通りで。ただ現在我が国では竜討伐の為に軍を編成しておりまして、国内治安維持に人員が割けない状況です。大きな意味ではこれも竜討伐に関わることだと考えております」


少し考えてからシルファールが言う。


「……わかりました。では受けましょう。民に被害が出る前に終わらせます」


渋々引き受ける一行にディレンが言う。



「それは有り難い。とても助かります。あ、あと、こちらの指輪をつけておいてください。他国の者でもこれがあれば国公認と言う身分証になります」


そう言うとディレンは従者に木のプレートに乗った指輪を皆に配らせた。指示に従い指輪をつけるカイン達。それを確認した後ディレンが言う。


「では、みなさん。ご武運を」





王城を出た後、すぐに指示された森に向かうカイン達。

しかしその後をふたりの影がこっそりと追う。影のひとりが言う。


「バックレ様、あの者達で間違いありませんね」


バックレがカイン(ライガ)に殴られて痛む顎を触りながら答える。



「ああ、そうだ。()()()。他国の者だが重罪人である。特にあの男、あいつを始末する」


「し、始末、ですか……」


リアナは暗い顔をして離れた木影からその指差された男を眺める。


(なんかどこかで見たような……、気のせいかな?)


リアナはバックレに置いて行かれないようしっかりと後についた。



「よし、リアナ。ここらでやれ」


森の奥深くに入ったカイン達。その後ろを付けていたバックレは召喚士であるリアナに命じた。


「は、はい」


リアナは小声で言うと袋の中から召喚卵を取り出して投げようと前に出る。しかし足元にあった木の根に引っかかり体勢を崩す。


「きゃあ!」


そのまま倒れそうになるリアナ。持っていた召喚卵が手から地面に落ち、目の前でドオオンと言う音を立てる。


「し、しまった! こんなところでええ!!」


焦るリアナにバックレが言う。


「な、何をしているんだ、この馬鹿が!!」


そう言って煙を上げて召喚されようとしている召喚獣を前にバックレはひとり逃げ出す。



「あ、ちょ、ちょっと待って下さい!!! きゃっ!!」


リアナも逃げ出そうとしたが足に木の枝が引っ掛かり転んで動けなくなる。そして目の前に現れた召喚獣を見て更に動けなくなった。


「う、うそ、サ、サンドウォームって……、私じゃ、無理だよ……」



バックレから渡された特別な召喚卵。自分よりレベルの高い召喚獣だとは思っていたが、ここまで高レベルで力差があるとリアナの命令は聞かない。


「グオゴオオオガワアア!!!!」


見上げるような巨大で太いミミズ。その先端には鋭い牙がついており、何でも丸のみにしてしまうような形状をしている。くねくね動きだすサンドウォームを見てリアナの顔色が変わる。




「聞こえた?」


「は、はい、聞こえましたあぁ……」


森の奥から聞こえた女性の悲鳴、そして魔物か何かの咆哮。それに気付いたクララがカインに言った。


「行きましょう!」


シルファールもすぐにその声の方へと向かう。カインも深い森の中へガタガタと震える足で進む。



「あ、あれは、サンドウォーム!!」


一番先に到着したシルファールがその魔物を見て言う。すぐ横に先ほど叫んだと思われる少女の姿も見える。シルファールが言う。


「あのレベルの魔物なら大丈夫」


そう言うとシルファールは直ぐに魔法の詠唱を始める。そして少女に叫んだ。



「すぐに離れて!! ファイヤーシュート!!!」


ボフっ!!


「えっ!?」


シルファールが大声で魔法を叫ぶも、何故か不完全燃焼したガスの様な小さな炎が現れただけで直ぐに消えた。焦るシルファール。


「え、え、ええ? 何よこれ? 魔法が出ない!?」



「いや、いや、いやああ!!!」


サンドウォームを前に座りながら後ずさりするリアナ。クララが木箱を開けてお菓子を食べる。


「もぐもぐ……、ん? これは……、ファ、ファイヤーダンスぅぅ……、へ?」


クララはそう叫びながら周囲に現れた火球と共に()()()()。傍にいたカインが言う。



「だ、団長、何やってるんですか!! うわ、あちっ!!」


「わ、分からないよ。何だこれ? カインはスミレに指示を!!」


「あ、はい! 分かりました!!」


そう言うとカインは近くで眠そうにふらついているスミレに元に走り声を掛ける。



「スミレちゃん、お願い! あいつやっつけて!!」


スミレは目を覚ますとカインが指差すサンドウォームに向かって突進していく。


「カイン様、了解しましたあああああ!!!!」



それを見ながらクララは、踊りながら周囲にある火球を蹴飛ばして言う。


「これでも食らえ!!!!」


クララに蹴飛ばされた火球がサンドウォームに飛ぶ。同時に剣を抜いたスミレが斬りかかる。



ドオオン!!!


舞い上がる砂埃。クララの火球とスミレの剣撃の音が響く。

しかし黒煙が消えてなくなるとそこにはほとんどダメージを受けていないサンドウォームの姿が現れた。スミレは既に近くの地面で横になって眠っている。



「ファイヤーボール!!!」


シルファールがようやく放った攻撃魔法。それは手から放たれた小型の弱い火球。ドンドンと音を立てて当たるが、サンドウォームにはその程度の魔法では焼け石に水であった。



(おかしい……、何故魔法がちゃんと出ないの? 何が原因?)


辛うじて弱小魔法を放ったシルファールが汗を流しながら自問する。その様子を離れた場所で隠れて見ていたバックレが言う。


「封力の指輪、素晴らしい効き目ですね。あのシルファール姫が、けけけっ」




不気味な音を立てて迫るサンドウォームが、逃げようとしているリアナをゆっくりと追い詰める。


「いや、いや来ないで。動いて、私の命令聞いてよ……」


召喚士であるリアナは必死にサンドウォームに命令を出すが、レベル差があり過ぎて全くいう事を聞こうとしない。



「グオゴオオオガワアア!!!!」


サンドウォームの口にある鋭利な牙が狙いを定めたリアナに襲い掛かる。


「いやあああああ!!! 助けて!!!!」



シュン!!!


「えっ!?」


リアナが気付くと目の前のサンドウォームが綺麗に真っ二つに斬られている。


「グゴオオオ……」


小さな叫び声を上げ煙の様に消えるサンドウォーム。状況の理解ができなく震えるリアナの前に、ひとりの男が手を差し出して言った。



「立てるか、嬢ちゃん」


リアナはその男を今、はっきり思い出した。



(あ、街で会った人だ……)


それと同時に思い出す鼻水の件。

ただそれよりもあの時とは全く別人のような風格のその人に、手を差し出しながら見惚れてしまう。



(強かったんだ。こんなに強かったんだこの人。それに何、この強引さ。凄いギャップ……、ああぁ、なんかとろけちゃいそう……)


リアナはカインの手を握りながら、数分前までその相手を殺そうとしていたことなどすっかりと忘れてしまっていた。

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