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30.ディレン王子

「ようこそいらっしゃいました、シルファール姫」


レミット王国に到着したカイン達は、早速レミット王城に入りディレン第一王子に面会した。


「ご無沙汰しております、姫」


ディレン王子の弟であるフリオニール第二王子もシルファールの前にやって来て、胸に手を当て挨拶をする。シルファールが答える。



「お久しぶりです。今回は以前貴国より受けた救助のご恩にお応えする為、急ぎ馳せ参じました。で、竜の様子はいかがでしょうか」


ディレンが答える。


「それはご安心を。城から逃げる際に少々建物を破壊されましたが、今は郊外の森で大人しくなっています。まあ、間もなく我が軍によって制圧されるでしょう」


(制圧?)


それを聞いたクララが顔をしかめる。ディレンが言う。




「ああ、それでそちらの方々をお連れしたと言う訳ですね」


シルファールが答える。


「当然です。竜対策の為に来て頂きました」


シルファールがカインを見てにっこり笑う。ディレンが尋ねる。



「で、ファインズランクはいかほどでしょうか? ロイヤル・ファインズではないようですが、それに匹敵するほどの実力をお持ちで?」


シルファールが少しばつが悪そうに言う。


「ええっと、ランクEです。でも間もなくDに上がる予定です」


それを聞いたディレンが顔をしかめる。


「ランクE? シルファール姫よ、これは何かのご冗談でしょうか?」


「いえ、彼らはランクこそ低いのですが、それは頼りになる方々で……」



ディレンがカイン達の前に来て言う。


「君達、もう帰っていいよ」


「えっ!?」


それを聞いて驚くクララ。ディレンが言う。


「必要ないんだよ、君達など」


「ディレン王子、それはあまりにも失礼では!」


シルファールの言葉にディレンが言い返す。



「姫よ、そもそも私はあなたひとりに来て欲しいと伝えたはず。何故このような役に立たない男を連れてくるのでしょうか?」


「ディ、ディレン王子!!」


その言葉にシルファールが怒る。ディレンが続けて言う。


「それからこの場でも構わないから聞かせて欲しい。私の妻になるという返事を」


「えっ、ええっ!?」


驚くララ・ファインズの一行。シルファールが大きな声で言う。


「それは先にしっかりとお断りしたはず。今回は貴国を憂慮しやって参りましたが、必要ないとあらば私も帰国します」


それを聞いたディレンが慌てて言う。


「いえいえ、竜の襲来を受けているのは確かなこと。分かりました。では竜討伐にご参加頂くので、帰るなどと寂しいことは言わないで頂きたい」


「分かりました。その際はここにいるカイン()も同行頂きます」


シルファールはそう言ってカインを熱く見つめる。カインは謁見の間と言う慣れない場所で入った時からガチガチになり、皆が何を話しているかもさっぱり分からない状態であった。ディレンがカインに言う。



「あなたはどちらの家のご出身で?」


話し掛けられたカインが慌てて答える。


「い、いいいいえ、特に名乗るほほほほ、程のものはありません……」


それを聞いたディレンが笑いを堪えて言う。


「平民、という事でしょうか? 平民風情が我が国の救援に? 姫よ、冗談も程ほどにして貰わなければ私も怒りますよ」


シルファールが言う。


「カイン様にはそのような身分は必要ありません。何故なら彼は『竜のギフト』を持つ方なのです!!」



姫の言葉にその場にいた全ての者が驚き、そしてカインを見つめる。ディレンが震えながら言う。


「な、何を言う!! りゅ、竜の力を受け継ぐのはこの私だ!!! その証拠にこの私には『重複』のスキルがある!!!」


「えっ!」


それを聞き驚くカイン。シルファールが言う。


「重複、ですか?」


ディレンが勝ち誇った顔で言う。



「そうです。言い伝えによると『重複』のスキルを持つ者こそ竜の力を得ると言われています。私はその時を待っているんです」


「カ、カイン……」


クララがカインに小声で言う。


「う、うん、信じられないけど、まさか……」



小声で話すカインにディレンが言う。


「カインとやら!! お前が竜の力を受け継いだという証拠はあるのか!!!」


カインがその威圧に震えながら答える。


「いいいい、いえ、証拠はないんですが…、子供の頃に貰ったので……」


「証拠もないのに竜の後継者を名乗るとは!! 我が国では死罪に当たるぞ!!!」


「ひ、ひえええええぇ!!!」


シルファールが言う。


「ならばギフト用魔粘土の準備を……」


そこまで言うとディレン王子の近くに立っていた大臣のバックレがカインに詰め寄って言う。



「貴様、下民の分際で王子を陥れようとは何たる所業。本来ならば打ち首であるぞ!!」


「そ、そのようなことを……」


それを聞き焦るシルファール。

ところがカインは先程から突然黙り込み、大臣の言葉にも動じず平然としている。それを見たクララ達が思う。



(あれ? 雷牙に代わった?)


カインがバックレ大臣に近付いて言う。


「おい、大臣。何か落ちているぞ。お前の物だろ?」


「なに?」


そう言って下を向くバックレ。


「これだ」


そう言いながらカインはしゃがみながら()()()落とした小袋を拾う。それを覗き込むバックレ。カインが言う。


「ああ、すまない。俺の物だった」


そう言って急に立ち上がり、そして自分の後頭部を思い切りバックレの顎にぶつけた。


ガン!!!


「ぎゃああああ!!!」


顎に強烈な一撃を食らったバックレがそのまま勢いよく後ろに倒れる。カインが倒れて顎を押さえるバックレに言う。


「すまんな、オッサン」


失笑するララ・ファインズのメンバー。シルファールが言う。



「王子、疑うのであれば魔粘土を用意して……」


ディレンが引きつった顔をして言う。


「もういい!! 姫、あなたにはまた後で個別に連絡する!!」


そう言って顔を赤くしてその場を去って行った。顎に響く激痛に耐えながらバックレがカインを睨んで思う。


(許さんぞ、この屈辱。忘れぬものか!!!)




王城を出たカイン達。今回はシルファールの希望で王城ではなく、街の宿屋に宿泊することになっている。シルファールなりに今回の遠征には色々と気を遣っているようだ。

夕食をする一行。そこにマリが同じぐらいの女の子と遊ぶ。


「マリちゃん、お友達出来たんだ」


マリが答える。


「うん、エインちゃんって言うんだ。一緒に遊んでるの!」


マリは宿屋の娘であるエインと直ぐに仲良くなって一緒に遊んでいる。クララがシルファールに尋ねる。



「で、姫。竜討伐に関しての話は……」


シルファールが首を横に振って答える。


「何もないわ。待機とか言われてるけど、一体何の為にこんな所まで来たのかしらね」


そう言ってシルファールもマリが遊ぶ姿を見つめた。





一方、カイン達が帰ったレミット王城ではディレン王子が大臣のバックレを呼びつけて指示を出していた。


「……それはそれは。かしこまりました。あの下民共が泣き叫ぶ姿が楽しみです。くくくっ、うぐっ、顎が……」


笑い始めたバックレがカインに後頭部の頭突きを受けた顎を押さえる。


「随分やられたな、バックレ」


「この痛みが走る度に、私の心が燃え上がります。……で、シルファール姫の方はいかがで?」


ディレンが薄気味悪い笑みを浮かべて言う。


「ああ、問題ない。そのうちお姫様の方から私にひざまずいて結婚してくれと懇願するだろう。一緒にいた女共も粒ぞろい。楽しみだ。くくくっ……」





その夜、就寝前に雷牙が殴り書きした日記を読むカイン。



『バックレとか言う大臣を後頭部で殴った。よろしく』


カインは何故かズキズキと痛む後頭部の理由を知り、めまいを覚えながらベッドに倒れ込んだ。

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