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29.遠征出発

シルファール姫からレミット王国の竜襲来の救援依頼を受けたララ・ファインズ。

翌朝カインはクララの為に早朝からキッチンに立ち新しいお菓子を試作していた。


「ふわあぁぁ、おはよ。カイン。どうしたの、朝から?」


「あれ、また異世界お菓子作ってるの?」


一緒に起きて来たマリエルがカインに言う。カインが二人に振り向いて言う。



「おはようございます! はい、お菓子を作っています。雷牙からまた教えて貰って」


「うわぁ、それは楽しみ!!」


マリエルが目を輝かせて言う。カインが机の上に置いてあった紙の箱を持って来て二人に渡す。


「その中に入っています。食べてみてください」


クララとマリエルは箱を開け、中にあった黒い板状の物体を見つめる。



「なに、これ……?」


見た目全然美味しそうにない黒い板状の物体を眺めてクララが尋ねる。カインが言う。



「これはチョコレート(ジョコレッド)と言う異世界のお菓子です」


「ジョ、ジョコレッド??」


「なんか強そうな名前だね、カイン君……」


マリエルが苦笑いする。カインが説明する。



「実はこのジョコレッド、カカオの実の種が原料で煎じたりして加工して作っているんですよ」


「カ、カカオの実? 種?」


「きゃははははっ、カイン君。それって薬剤師が使う薬の原料だよ。凄く苦いって聞いた事があるし」


カインが言う。


「ええ、そうなんですが、そこにミルクや砂糖を入れて食べやすくしています。さっきも味見しましたがとても美味しいですよ!」


クララが言う。



「やれやれ、雷牙の世界ってのは葉っぱやら種やら食べて、まともな食べ物はないのかな。ちょっと同情しちゃうわね」


「そうね、葉っぱとか種とか、そのうち木の根っことか言いそうだよね。」


マリエルも同情した顔をする。カインが言う。



「と、とりあえず食べてみてくださいよ!」


そう言うカインに仕方なしにジョコレッドを手にするクララ達。


「何これ。しかも硬いじゃん。カチカチ。堅いしそんな苦い種が美味しい訳など……、もぐもぐ……、んんんんんんまああああい!!!!!」


クララが叫ぶ。


「あら、ホント。美味しいわ、これ。もぐもぐ……」



クララが言う。


「一見硬いようだけどそれもほどほどだし、ほんのりした苦みの中に甘さとコクが口の中に広がる。甘いだけのお菓子とは違う、なんと言うか大人も楽しめるお菓子。もぐもぐ……、んまい!!」


クララが頬に手を当ててジョコレッドに酔う。


「スミレちゃんも食べてみてよ」


マリエルが起きて来たばかりのスミレにジョコレッドを渡す。


「にゃむにゃむ……、眠い……、もぐもぐ……、にゃあに、これ?」


「ジョコレッドだよ」


寝ぼけまなこで尋ねるスミレにマリエルが答える。


「敵みたい、だね。にゃむにゃむ、もぐもぐ……」


「敵よ」


「そう、ぐーぐー、もぐもぐ……」


冗談を言うマリエルを適当に流し、スミレはソファーで半分眠りながらジョコレッドを食べ続けた。



カインがクララに言う。


「じゃあ団長、作り方教えますね」


「ああ、よろしく!!」



数時間後、カインが言う。


「……お、おかしいなあ。ジョコレッドは焦げるはずないんだけど」


首をひねるカインの前に、クララが作った焦げたジョコレッドの山が並べられる。暗い顔をしてクララが言う。


「ああ、いいんだよ。カイン。もう慣れているから……」


そう言いながらクララは悲しげな顔をして木箱にお菓子を詰めていく。


「みんなも遠征の準備してね」


クララは焦げたジョコレッドを齧りながら皆に言った。





後日、レミット王国へ向けて出発する為に港に集まるララ・ファインズのメンバー。クララが唯一遠征に参加しないマリエルに言う。


「ごめんね、マリエル。誰かがこちらに残らないといけないんで」


クララが頭を下げる。


「気にしないで。楽しんできて」


マリエルが答える横でカインが青い顔をして言う。


「楽しんで来てって、また、あ、あの炎神竜みたいのが暴れているんでしょ!? ああぁ、考えただけでも、震えが……」


そう言いながら本当にガタガタと震え始めるカイン。そんなカインの横にいつからかひとりの少女が立っていた。マリエルが言う。



「ね、ねえ。カイン君。その女の子、誰なの?」


カインが気が付くと少女はカインの服の端を掴んでいる。驚くカインが尋ねる。


「え、ええ? だ、誰なの!? いつのまに? ね、ねえ、君、名前は?」


カインがそう言うと女の子は見上げて言った。



「……パパ」


一瞬の静寂。固まるカイン。

その後すぐにその場の全員が叫ぶ。



「パ、パパあああああ!?」


カインが慌てて言う。


「ちょ、ちょっと待って!! ぼぼぼぼ、僕知らないです。本当に知らないです!!!」


そう言うカインン冷たい視線が向けられる。クララが言う。


「カイン、いつ子供なんて作ったんだい? 連れてきちゃダメじゃないか!」


クララがムスっとした顔で言う。カインが慌てて否定する。



「違うんです、団長おおおおお。僕、本当に知らないんですうううぅ……」


泣きそうになって言うカイン。マリエルが少女に尋ねる。


「ねえ、本当にこの人がパパなの?」


「うん」


頷く少女。


「家はどこかな?」


「レミット……」


マリエルが言う。


「えっ? レミット王国なの?」


クララがカインに尋ねる。


「カイン、本当に知らないんだよね?」


「はい……」


「じゃあ、シルファール姫に相談してこの子をレミット王国まで連れて行こう」


それを聞き笑顔になる少女。



乗船後、特別室にいたシルファールを訪ねるカイン達。そこでカインの娘だと言う少女のことを話す。


「カカカカ、カイン様のお子様あああぁ!?」


倒れそうになるシルファール。妄想が始まる。



(わ、私、もしかして想像だけで妊娠して、無意識のうちにこの子を産んでしまったのかしら? だとしたら……)


「私がママよ」


シルファールは腰を下ろして連れて来られた少女に言った。


「ええええええええ!!!!!」


驚く一同。カインがシルファールに言う。



「ひひひひひ、ひめさまああぁ。どどど、どういうことで?」


驚きでふらつくカインにシルファールが頬を赤らめて言う。


「私も気付かないうちにカイン様の子を産んでしまったようなの……」


そう言ってカインにすり寄るシルファール。



「そんな訳ないでしょ。ねえ、君、名前は?」


クララが少女に尋ねると下を向いて小さな声で答えた。


「……マリ」


「よし、マリちゃん。しばらくは船旅だよ。姫様、乗船宜しいですね?」


「も、もちろんですわ」


シルファールも同意する。マリはその様子を嬉しそうに見つめた。




船がガーデン王国を出港して数日、一行は目的のレミット王国の港に到着した。シルファールが言う。


「さあ、到着です! 行きましょう、カイン様!!」


シルファールがカインの手を引っ張って船を降りる。

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