26.許し
「ぼぼぼ、僕を、み、認める? えっ、えっ、どういう事っ?」
突如、炎神竜に言われたカインが驚く。戦闘が終わりヒト型に戻った炎神竜が言う。
「そういう事だ。どこかゆっくり話ができることあるか?」
マリエルに治療されながらクララが言う。
「じゃ、じゃあ、うちの拠点へおいでよ」
「拠点? まあいい、連れて行け」
その時、後方から地下牢に捕まっていたミルカの声が響く。
「ね、姉さん? イメルダ姉さん!!!」
倒れていたイメルダを妹のミルカが見つけ大声で叫ぶ。イメルダが体を起こして言う。
「ミ、ミルカ、ミルカなのか!?」
「姉さん!!!」
倒れている姉のイメルダにミルカが駆け寄り姉妹が抱き合う。
「い、今までどこにいたんだよお、心配、本当に心配したんだぞ……」
イメルダが大粒の涙を流しながら言う。ミルカはカインが地面に開けた穴を指差して言った。
「あそこ、だと思うよ。姉さん」
それはヴェルナの私邸がある場所。そこへシルファールが来て言う。
「ちょっと待って。それってヴェルナの私邸に捕まっていたと言う意味なの?」
「ひ、姫様!!」
イメルダとミルカが頭を下げる。そしてミルカは「はい」と返事をする。そしてイメルダは少し離れた場所で倒れているヴェルナを見つけて叫ぶ。
「ヴェルナ、貴様!! ミルカをあんなところに監禁しやがって!!!!」
痛みで体が動かないイメルダがヴェルナへ怒鳴る。シルファールが倒れているヴェルナの元へ行き尋ねる。
「ヴェルナ、これはどういう意味でしょうか?」
半身を起こしてヴェルナが答える。
「い、いえ、何も。私は何も……」
イメルダが叫ぶ。
「嘘をつけ!! ミルカを人質にして、私に争奪戦でカインを奪い殺せと命じたのはお前だろ!!!!」
それを聞いたシルファールの顔が真っ青になる。
「な、な、何ですって!? カイン様を、カイン様をこ、殺ろせ、ですって!!!」
真っ青になったシルファールの顔が今度は怒りで真っ赤になる。ヴェルナが汗を流しながら言う。
「い、いえ、私はそんなこと何も……」
そこへやって来た妹のミルカが言う。
「この声、間違いない。私とカインを攫って地下牢に入れた男だ!!」
「わ、私は……」
ヴェルナは体を震わせて下を向き小さく言った。シルファールがさらに続ける。
「ヴェルナ、もうひとつ聞いておきたい。その剣、それは『氷結の剣』でしょ?」
シルファールは刀身が消え去り、柄の部分だけになった剣を指差して言った。ヴェルナはその柄を後ろに隠して言う。
「こ、これは我が家に伝わる吹雪の……」
「嘘を言いなさい!!」
「ひいぃ!!」
シルファールが大声で怒鳴る。
「どう見てもこれは氷結の剣ではないですか!! 実際あなたも先程の戦いの中でそう呼んでいました」
「う、嘘だ……」
ヴェルナは顔をわなわなと震わせて言う。シルファールが言う。
「まさか、これもカイン様を嵌める為に……」
そこまで言った時、ヴェルナがぐっと顔を上げて大声でシルファールに言った。
「そ、そのようなことは決して……。あ、あいつが悪いんです!! あいつが、全部悪いんです!!!」
ヴェルナは泣きそうな顔をしてシルファールに言う。シルファールは冷静に言った。
「氷結の剣の偽装、カイン様抹殺指示、そちらの両名の事実に基づかない拘束。あなたの行っていることがどれだけ国を貶めているのか分かっているつもりなのか!?」
「ひ、ひぃいい、ひ、姫、私は、私はあなたを想って……」
ヴェルナはシルファールに泣きながら土下座をし、彼女の足に縋りつこうとする。シルファールがヴェルナを蹴飛ばして怒鳴る。
「触れるな、痴れ者!!!」
「ひいぃ!!」
蹴飛ばされたヴェルナにシルファール言う。
「お前に告ぐ。今日を持ってロイヤル・ファインズを除名とする!!」
一瞬固まるヴェルナ。しかしその意味をすぐに理解し、再び地面に頭を何度もこすりつけて大声で言う。
「シ、シ、シルファール姫様ああ、そ、そ、それだけはご勘弁をおおぉ。ファインズを追い出されたら私は、い、一族の笑い者に……」
「知らぬ!!!」
涙で顔をぐちゃぐちゃにしたヴェルナにシルファールが大声で言う。それでもヴェルナは土下座を続けて懇願する。
「ロイヤル・ファインズ団長、ローザンヌ!!!」
シルファールは泣きわめくヴェルナを無視し、遠くで治療を受けているローザンヌを呼びつけた。
「は、はい!!」
ローザンヌはよろよろとシルファールの元へやって来て返事をする。シルファールが厳しい顔で言う。
「あなたも氷結の剣の共犯者でしょう。これから調べを進めますが証拠が挙がり次第、ファインズを降格処分とします」
ローザンヌは震えながらガタっと両膝を地面に突き弱々しい声で言う。
「そ、そんなあ。わ、私はヴェルナ様に命じられただけなんで……」
ローザンヌはがっくりと肩を落としてうな垂れた。
「カイン、そしてクララ。本当にすまなかった!!」
イメルダがララ・ファインズの元へやって来て頭を下げて言った。
「脅されていたとはいえ、ひとつ間違えばお前達のファインズを壊してしまうようなことをした。本当に申し訳ない」
妹のミルカも隣にやって来て頭を下げる。
「私が捕まったせいで迷惑をかけた上、そのあんたに助けられるとは。私もお礼と謝罪をしなければならい」
頭を下げる姉妹にカインが言う。
「い、いえ、そんなことは……」
クララも言う。
「いいよ、気にしなくて。済んだこと」
「カイン様あああ!!!!」
そんな姉妹を気にすることなくシルファールがカインの元へ走り寄る。そして頬を赤らめて上目づかいで言う。
「カ、カイン様、これでよろしかったでしょうか」
「い、いやあ、あのおぉ……」
顔を近づけて言うシルファールにカインも頬を赤くする。シルファールが言う。
「分かっております。ヴェルナの、部下の責任は私の責任。カ、カイン様にしてしまったことを思うと、よ、夜も眠れません。よって……」
そう言ってシルファールは懐から短剣を取り出す。
「私の死を持って償わせて頂きます!!!」
「えええええ!!!!!!」
唐突の宣言に驚くカイン。すぐにシルファールから短剣を奪うカイン。
「ま、待った。ちょっと待った!!!」
「あ、ああん……、カ、カイン様ああぁ……」
シルファールは目を潤わせてカインを見つめる。カインが言う。
「あ、あああああのぉ、姫様。僕はもう気にしていませんから」
「でもお……」
カインがシルファールを見て言う。
「確かに辛く思ったこともあるけど、それを含めて、い、今の僕があるんです」
「カイン、様……?」
「頼もしい団長や仲間、そして姫様とも知り合えました。ぼ、僕は、それをとても幸せに思います」
シルファールは下を向いて流れる涙を拭う。カインが続ける。
「だから死ぬなんて考えないでください。姫様にはまだやることがあるはずです」
「はい……」
(カイン様に尽くし、カイン様を慰め、そしてカイン様と夜を……)
「あ、ああぁぁ……」
急に真っ赤な顔になり両手で頬を押さえるシルファール。それに気付かずにカインが話し続ける。
「それからヴェルナさんですが……」
カインは地に這いつくばるヴェルナを見て言う。
「彼が抜けたらファインズの戦力は落ちませんか?」
シルファールが答える。
「そ、それはそうですが。一応副団長でしたし……」
「だったらこのままにして貰えませんでしょうか。ロイヤル・ファインズは国を守る要。彼も十分反省しているようですし」
シルファールが言う。
「な、なんてお心の広い……、ううっ」
シルファールの目に涙が溜まる。そしてその涙を拭いて言った。
「分かりました。では」
シルファールはヴェルナを見て言う。
「ヴェルナ、貴様の除名をカイン様のお情けにより取り消します!!」
「ああ、ひ、姫様……」
ヴェルナが泣きべそをかきながら姫を見つめる。
「だが、副団長を降格! 平団員として一から精進せよ!!!」
「は、はひぃ!」
ヴェルナは頭を地面に何度もこすりつけてお礼を言う。シルファールはカインの方を振り向いて尋ねる。
「カ、カイン様……、こ、こんなのでいかがでしょうか……?」
「あ、ああ、いいんじゃないでしょうか」
カインは近くに寄り体を押し付けてくるシルファールに困惑しながら答えた。
「おい、もう茶番は終わりか?」
横に寝そべって欠伸をしていた炎神竜が言う。カインが答える。
「あ、はい。じゃあ、拠点へ行きましょう」
カインは炎神竜を見てからクララに笑顔で言った。




