22.無実の投獄
氷の神殿で『氷結の剣』を発見した一行。しかしカインがその剣に触れるとまるで砂のようにボロボロと崩れ去った。
「え、ええっ!? な、なんで、どど、どうして……」
崩れ去った剣を前に狼狽えるカイン。それを見たローザンヌ・ファインズ団長のローザンヌが大声で言う。
「き、貴様、何を、何をしたんだ!!!!」
大声が神殿内に響く。カインが震えて言う。
「ぼ、僕は何も、た、ただ触っただけで、勝手に崩れて……」
ローザンヌは崩れ去った氷結の剣の元へと走り寄り、その無残な姿になった砂を手にして言った。
「だから、だからこんな低レベルな奴らと一緒に仕事をしたくなかったんだ!! もういい!!! 帰って報告だ!!!」
そう大声で言うと、ローザンヌ・ファインズ一行は挨拶をすることなくその場から撤退して行った。クララがカインの元に来て言う。
「ちょっと嫌な予感はしていたんだよな、ここに来てから」
「ご、ごめんなさい。団長……」
クララはカインの背中を叩いて言う。
「気にするな。笑って。心に笑顔をね」
「はい……」
カインが元気なく答える。
「さあ、私達も帰ろか」
そう言ってクララは笑顔でカイン達に言った。
ファインズのホームに戻った一行。しかし休む間もなくギルドから呼び出しが掛かった。あまりいい気はしなかったが、報告も兼ねてカインとクララの二人でギルドへ向かう。
ギルドに到着すると先に引き上げて言ったローザンヌ・ファインズ団長ローザンヌと、意外なことにロイヤル・ファインズのシルファール姫、そして副団長のヴェルナが待っていた。
(か、カイン様……)
カインの姿を見たシルファールが心の中で名前を呼ぶ。しかしそんなシルファールとは別に、副団長のヴェルナがカインに向かって言った。
「貴様、事もあろうに『氷結の剣』を破壊するとは何たる愚行!!」
ヴェルナは皆の前でカインを大声で叱りつけた。
「ご、ごめんなさい。でもわざとじゃあ……」
「ローザンヌ殿!!」
「はっ」
ヴェルナに呼ばれたローザンヌが前に出る。
「ローザンヌ殿、このカインとかいう下賤な奴が神殿でやったことを教えて欲しい」
ローザンヌはヴェルナに一礼をすると皆に向かって話し始めた。
「驚きました。神殿に眠る秘宝『氷結の剣』。苦難の末それをようやく見つけ出しましたが、魔物と戦っていた我々はその回収をカイン殿にお願いしました」
「うむ」
ヴェルナが頷いて聞く。
「そうしたら事もあろうに、カイン殿は氷結の剣を持ち上げて思い切り床に叩きつけたのです」
「えっ!? ぼ、僕そんなことは!!!」
びっくりして言うカインを見ることもなくローザンヌが続ける。
「何か魔法を使ったのかは知りませんが、あの秘剣が柄を残して一瞬でぼろぼろと崩れ去りました。私はそれが国の未来を破壊する光景にも見えました」
「それは酷い!!」
黙って聞いていたヴェルナが悲しい顔をして言う。
「ぼ、僕はそんなことはして……」
「黙れ!!! この場に及んでも自分が犯した罪を認めぬと言うのか!!!」
「ご、ごめんなさい……」
その大声に驚いて下を向いてカインが謝罪する。それを見たクララが前に出て言う。
「団員の責任は団長の責任。叱るなら私を叱りなさい!!」
突然割って出て来たクララをヴェルナは一瞥してから言う。
「お前には関係ない」
そしてカインに言う。
「間もなく炎神龍が襲来すると言うのに『氷結の剣』なしでどう戦えばよいのか!? 貴様の犯した罪は重い!!!」
堪り兼ねたシルファールが言う。
「ヴェルナ、カイン様もああ言って仰るので、その辺にして……」
(さ、様だとおおお!?)
ヴェルナはそう言ったシルファールの言葉を聞き大声で反論する。
「甘い!! 姫よ、そのような甘さで民が守れますか!?」
「そ、それは……」
実際有効な対策を講じられないシルファールが口ごもる。
「警備兵!!!」
ヴェルナが横を向き叫ぶ。
「この重罪人を牢に繋げ!!!」
「え、えええっ!!!!」
その言葉に驚くカイン。顔は青くなり体が震え始める。クララが大声で言う。
「ちょっと待ってよ! それはあまりにも酷過ぎるんじゃないか!!」
ヴェルナを睨みつけるクララ。シルファールも続く。
「例え壊したとしても故意ではないはずなのに、それはやり過ぎだわ!!」
しかしヴェルナは二人に言い返す。
「それではお二人は炎神竜に対して有効な対策をお持ちでしょうか? 氷結の剣なしでも戦える有効な作戦がございますか?」
黙る二人。
「それ程重要な事なのです。お分かり頂けましたか? では連れて行け!!!」
「はっ!!」
警備兵はカインの両腕を絡み取るとそのままギルドの奥へと連れて行かれる。
「だ、団長おおおぉぉ……!!」
クララはその光景を体を震わせて見つめた。
暗い地下。怖がるカインの体をむっとした澱んだ空気が包み込んだ。
「ここに入ってろ」
カインはひとり暗い地下牢に閉じ込められる。明かりもほとんどない暗闇。カインは改めて自分が置かれた立場を思い涙が出てきた。
(……あれ? 誰かいる?)
少し目が慣れてきたころ、自分の牢の前の牢にも誰かがいることに気付いた。カインが恐る恐る声を掛ける。
「あ、あの……」
「……誰?」
女性の声だった。そしてよく見ると壁に鉄の鎖で繋がれている。カインが答える。
「ぼ、僕はカインと言います……」
女が答える。
「私はミルカ……、あなたは何をしたの?」
カインがすぐに言う。
「ぼ、僕は何もしてません」
ミルカは少しの沈黙の後言った。
「そう、じゃあ私と同じだね」
「えっ!?」
「ここに来る人ね、みんな無実の罪で連れて来られるの」
カインは顔に脂汗を流して言う。
「そ、そんなことが……」
「そしてね、必要がなくなったら処分されるの……」
「処分……」
カインは生暖かいこの地下牢で、全身が震えるような悪寒を感じた。
一方、ガーデン王城では二度目の炎神竜対策会議が行われた。
今回も自分勝手な主張が飛び交う中、シルファールは国としての方針を皆に伝えた。
「まずは交渉。可能な限り話し合いで進めます。それが無理で相手に攻撃の意思があるときに限り応戦します。交渉は私がします。それまでは各団勝手な行動をとらぬようお願いします」
一部の団長からは不満の目が向けられていることを感じつつ、シルファールは各団に準備を怠らぬよう指示をした。
会議後、シルファールの部屋を訪れるヴェルナ。シルファールが言う。
「何の用? 私にはあなたに用はない」
相変わらずヴェルナには冷たい態度のシルファール。ヴェルナが言う。
「姫、実はわが父より連絡がございまして、我がヴィラージュ家に伝わる家宝『吹雪の剣』をこの度の炎神竜討伐に使えとこれを渡されました」
そう言ってヴェルナは持っていた布に包まれた一振りの剣を前に出す。
「吹雪の剣?」
全く聞いたことのない名前に少し驚くシルファール。ヴェルナは剣を布から取り出す。真っ青な美しい剣。それを見ながらシルファールに言う。
「この剣があれば炎神竜など恐るるに足りませぬ。どうぞこのヴェルナにお任せを」
ヴェルナはそう言って真っ青な剣身をぺろりと舐めた。




