20.蔓延る悪意
炎神龍、襲来。
その知らせはガーデン王城を混乱に陥れるのに十分なほどの力を持っていた。国王はすぐに全土に非常事態宣言を発出。そして炎新竜対策の緊急会議が開かれた。
強豪ファインズ団長が勢揃いする中、シルファール姫が言う。
「炎新竜が現れた目的は分かりませんが、このガーデン王城に真っ直ぐ向かっているとのこと。ここは迎え撃つか話し合いをするのか、急ぎ方向性を決めたいと思います」
改めて突きつけられる現実。集まった団長達もざわざわと騒ぎ出す。ひとりの団長が手を挙げて言う。
「話し合いをすべきかと。目的が分からぬ以上、無暗に攻撃するのは得策ではないでしょう」
「何言ってやがる!! 極上の竜族だぜ? そんな生きた化石、俺達が集まれば負けることはない!!」
「そうだ、そうだ!! あわよくば魔心なんて手に入るかもな!!」
「な、何と浅はかな!!」
様々な意見が飛び交う会議。話し合いを希望する穏健派もいれば、倒して魔心を奪おうと言う者までいる。なかなか話がまとまらない状況にシルファールが言う。
「わかりました。今日の皆さんの意見を聞いて国としてどう対応するか決めたいと思います。各団、最悪の状況に対応できるよう準備をお願いします」
シルファールの真剣な顔を見て各団の団長は黙って頷いた。
対策会議後、シルファールは「大事な報告がある」と言ってやって来たヴェルナを私室に招き入れた。部屋に入るヴェルナ。シルファールに近づき真剣な顔で言う。
「姫よ! 私の気持ちはご存じのはず。私に、どうかあなたの傍に生涯立つことを認めて頂きたい!!」
それを聞いたシルファールが無表情で言う。
「大事な報告とはまさかそれのことなのか?」
「はい、姫よ! 何卒私と……」
シルファールが溜息をついて言う。
「今は公務の時。公と私の区別もできぬとは何たる恥ずべき所業。しかもこの大変な状況下で」
シルファールは終わったばかりの炎新竜対策会議を思い出して言った。ヴェルナが言う。
「しかし私は姫を想い、この身をかけて全力でお守りを……」
「お前には民を守る気概もないのか?」
シルファールはヴェルナを厳しい目で見て言う。
「い、いえ、そのようなことは……」
シルファールはヴェルナを睨んで大声で言った。
「下がれ、ヴェルナ!! そして二度とその話を私にするな!!!!」
「ひ、ひいぃ!!」
ヴェルナは恐縮し姫に一礼して慌ててドアに向かう。その時、姫の机の上に置かれた彼女が見ていた『カインの資料』が目に入った。
部屋を退出させられたヴェルナはすぐにファインズの自分の個室に戻り、大急ぎでローザンヌ・ファインズ団長ローザンヌを呼ぶよう団員に命じる。しばらくして現れるローザンヌ。ヴェルナが怒りに満ちた顔で言う。
「例の件、これよりすぐに実行しろ。すぐにだ、徹底的にやれ!!!」
「はっ!!」
ローザンヌはそう言って頭を下げ部屋を退出した。ひとりになったヴェルナは血走った目で机を何度も叩き言った。
「許さぬ、許さぬぞ、カイン。下賤な平民が!! 私の逆鱗に触れたことを後悔させてやる!!!」
ヴェルナは立ち上がると怒りと共に壁を思いきり殴った。
「ごめんなさい!! 本当にごめん!!!」
争奪戦に無事勝利したララ・ファインズ。その翌日、自ら飛んで消えて行った団長クララと、ふらふらと歩いて戻ってきたスミレを交えて話が行われていた。
「本当に、本当に情けないよ……、私……」
戦いの役に立たなかったクララが自分を責めるように言った。カインが言葉を掛ける。
「だ、大丈夫ですって。団長……」
カインの優しい声にクララが目を潤わせて言う。
「キミは本当に優しい子だね、本当に……」
カインが顔を赤くして答える。
「い、いえ、そんなことは。スミレちゃんも頑張ってくれたし……」
その言葉を聞いたスミレが急に起き上がって叫ぶ。
「う、うおおおお!!! カイン様の応援!? が、頑張るぞおおおお!!!」
「うわわわわああ!! ス、スミレちゃん、頑張らなくていい!! そのまま寝ていて!!」
それに気付いたカインが慌てて言う。
「うおおお!!! 寝るぞ!!! 頑張って寝るううう!!!!」
そう言ってスミレは勢いよくソファーに倒れる。そして寝ながら叫ぶ。
「寝るぞ、寝るぞ、寝るぞ、頑張って寝るぞおぉ!!!!!」
そしてそのまま数分間叫び続けた後、応援エネルギー切れでまた静かになってぐーぐーと眠り始めた。
「でも、今回はカイン君も本当に頑張ったね」
背中の火傷もすっかり完治したマリエルが言う。カインが答える。
「い、いえ、そ、そんなことは……、結局最後は雷牙に助けて貰ったし……」
自分の魔法で飛んで行き、まったくカインの試合を見ていなかったクララが言う。
「そ、そんなことないよ。カインも、が、頑張ったよ……」
「やっぱり竜のギフトって凄いんだね」
マリエルが笑顔で言う。
「は、はあ……」
カインが下を向いて言う。それから思い出したようにクララに言った。
「あ、団長、そう言えば前に雷牙が約束していた『異世界のお菓子』だけど、レシピ教えて貰ったんで今朝僕が作って見ました」
そう言って棚にある箱を取り出すカイン。クララが言う。
「そ、そうかい? それは素晴らしいよ!!」
そして箱を開けカインが差し出したのは緑色のクッキー。それを見て驚くクララとマリエル。
「な、何これ? 緑色のクッキーなの?」
黄色や茶色のクッキーが常識のクララ達にはそれがとても異様なものに見えた。正直美味しそうには見えない。カインが説明する。
「はい、僕も最初は戸惑いましたが、これは抹茶と言う木の葉を粉にした物を混ぜて焼いています。意外に美味しいですよ、食べてみてください」
それを聞いたクララ達が笑って言う。
「きゃはははっ、マッジャー? 木の葉っぱ? そんなもの美味しい訳ないじゃん!!」
「カ、カイン君、本当に葉っぱを食べるの? お腹壊すよお~!!」
カインが必死になって言う。
「い、いえ、本当に美味しくて……」
クララが笑って言う。
「木の葉っぱを食べるだなんて、雷牙の世界ってまともな食べ物ないの? くくくっ……」
カインが言う。
「と、とりあえず騙されたと思って食べてみてくださいよ~」
それを聞いたクララが仕方ない顔をして言う。
「はあ、仕方ないね。せっかくカインが作ってくれたんだし。まあ、それでも、そんな葉っぱが美味しい訳があるはず、もぐもぐ……、美味しいいいいい!!!!!!」
マリエルも同じく食べながら言う。
「お、美味しいわ。もぐもぐ……、信じられない」
クララが言う。
「本当に。ほんのりした苦さの中に後から来るクッキーの甘さ。その絶妙な加減がこれまでとは違うクッキーの新たな美味しさを表現している!!」
バリバリ食べる二人。マリエルが眠っているスミレに言う。
「ねえ、スミレちゃんも食べてみてよ。美味しいよ!!」
しかしそれを無視するようにぐーぐー寝るスミレ。マリエルが耳元で囁く。
「頑張って、クッキー食べてみて。スミレちゃん」
まったく反応しないスミレ。そこでようやくスミレの扱いに慣れて来た一行は、カインに同じことを言わせる。命令されカインが渋々スミレの元に行き囁く。
「ス、スミレちゃん、起きて。頑張ってクッキー食べてみて……」
それを聞いたスミレが急に目覚めて叫ぶ。
「うおおおお!!! カイン様のお願い!! クッキーだああ、食べるぞおおおお!!!!」
そう言って机の上にあったクッキーをバリバリ食べ始める。凄い勢いでどんどん減るクッキー。それを見たクララが叫ぶ。
「ぜ、全部食べるな!! このアホおおお!!!」
そう言って右ストレートをスミレに繰り出すクララ。団長の渾身の一撃を受けてダウンし、また眠り始めるスミレ。苦笑いしたカインが言う。
「あ、あのお、そんなにお菓子食べて魔法は出ないんですか?」
クララが答える。
「うん、自分で作ったお菓子でないと魔法は出ないんだよ。人の作った物じゃダメ。それだと本当にただのお菓子なの」
「そうですか、じゃ、僕が作り方を教えますね」
カインが笑顔で言う。
そして数時間が経過。
必死に作り方を教えたカインだったが、どれだけやってもクララが作ると焦げた真っ黒なクッキーにしかならなかった。そのひとつを持ってカインが言う。
「こ、これは、焦げ緑色で、ですよ……」
いつも通りの結果に落ち込むクララ。カインに言う。
「ありがとう、カイン。気を遣ってくれて。でもこれで新しい魔法が発動できるかもしれないわ、これを食べて……」
目も虚なクララが頭を下げてカインにお礼を言った。
コンコン
その時ホームを叩くドアの音がした。マリエルがドアを開け、立っていたギルド職員から手紙を受け取る。そして表紙に書いてあった言葉を見てクララに告げる。
「ギルドから、指名依頼が来たわ……」
クララとカインのふたりは、不思議とその言葉を聞いて嫌な感じに襲われた。




