5.少女と黄金週間の中休み
「うえー、なんでゴールデンウィークって、あいだに平日あるんだろう......」
そうぼやきつつ、かえでは、だらりと机に溶けた。
ここはちなみに、例の学校の食堂で、今日はゴールデンウィークの中にある、学校にいかなければならない平日である。
「来年は確か、十連休だけどな」
「その時わたしたち受験生。
恩恵ないよう」
「あ~、たしかに」
あたしたちも来年は、締め切りに追われる作家のように、カンヅメ状態になるのだろうか。
カンヅメ......、ちょっと高級なホテルや旅館に泊まって、てイメージだけど、実際どうなんだろうね?
「おおーい。ここでそんなこと言うな。
死人が出るだろ」
「? どゆこと?」
ああ。そういうことか。
うん、大変失礼したようだ。
「わかればいい」
「ちょ、どゆことー!」
かえではわかっていないようだけれど。
いや、わかんなくていいんだよ。
そのままのかえででいてね、うん。
「そういや、さっきから花丘は何見てるんだ?
しかめっ面になっているけど」
そう言いつつ、ナツはあたしの手元のスマホを見た。
「あ、紅茶のこと調べてて、ウィキペディアにたどり着いたんだけど......」
あたしはそっとナツとかえでにスマホの画面を見せる。
「......ティッピー・ゴールデン・フラワリー・オレンジ・ペコ?
おいお前、コーヒー店のウサギじゃあなかったのか」
「それな」
あたしとナツは顔を合わせて頷き合った。
連続で置いてけぼりにされたかえでがしばらくむくれた後、
「そーいやさ、なんで、紅茶のこと、調べてるの?」
と、ぽつりと言った。
そして、あたしをちらっと見る。
「ひょっとして、好きなひとが......」
ねえ、そんなにまーっとした顔であたしを見ないで。
たぶん、かえでの期待と、違うと思うよ。
「ちっちが、そうじゃなくて、そう恋バナに結び付けないで!
あの、お世話になってるひとが、紅茶とか、ハーブティーとか好きなひとで、それで......」
「あ~、それで、共通の話題を見つけたいと」
「かえで~」
あたしはかえでを力なく睨み付けた。
かえでは、そういや修学旅行なんかで恋バナで夜を語り明かすタイプだった。
あたしはちなみにさっさと寝るタイプ。
「あっはは、ねえ、そのひとってどんなひと~?
イケメン?」
「そんなんじゃあないってば!
ここジャンル『恋愛』じゃあないのに!」
それに、ユキさんは女の人だ。
あれ? でも、確かめたことないな。
「えっ、でも、同性同士でも、おかしくないじゃん」
「ん~、恋愛っていうベクトルじゃあなくて......」
あたしは先程までのかえでのようにだらりと机に溶けて、
「なんか気になる、もっと知りたいって思うんだよね......」
ぽつんと言った。
* * *
美味しい紅茶を淹れるのは、かなり神経を使う。
きちんとした手順や、守るべきルール的なものがある。
それはかつて読んだ本や、最近目を通したサイトに載っていたことだけれど、実際やってみると難しい。
「......確かにやってみたいって言いましたけど、やっぱ無理ですって!」
ユキさんの塔にて。
あたしは涙目でユキさんを見上げた。
あたしの手には、いかにも高級そうな紅茶の茶葉と淹れるための茶器。
無駄にしたり、壊しちゃったらどうしようと考えると怖くなるのは当然だと思う。
「大丈夫です。何事も挑戦ですよ?」
「プレッシャーかけるなあ!」
まじで弁償とか言われたらそこで試合終了してしまう。
ここのお金なんて持ってないし、ユキさんにはさっきまた借りが出来てしまった。
あたしの首には、ユキさんにさっき贈られたペンダントが下がっている。
アンティークゴールドの色の枠に収められたレモン色をした水晶のペンダント。
石の下の台座の部分には、透かして見るとわかる、複雑な文様が刻まれている。
魔法陣、かな?
詳しくは訊かないでおこうっと。
効果、というか、どうして持たされたのかといえば、原因はあたしの言動にある。
こないだ、いろいろやらかしたからね。
これはちょっとした攻撃を防ぐお守りでもあり、ここであればあたしの居場所をユキさんに伝えるGPSのような役割をもつ、らしい。
一瞬、セ○ムとか『こどもみまもりケータイ』とか、そういうワードがあたしの頭に浮かんだのだが、仕方ないと思う。
あたしって、一応高二だからね?
ここでやらかしてきたこと思い返せば納得せざるを得ないけど!
「さあ、観念してください。
それではいきますよ」
「いえすまむ」
「私は母ではないですよ」
という感じでユキさんによる紅茶の淹れ方講習が開始された。
まずは沸騰させたお湯を用意。
ティーポットとカップはお湯で温めて、ポットには茶葉を適量入れる。
このとき、鉄分が含まれたものはNGで、今回は陶器製のものを使う。そして、二人分なので、茶葉はティースプーン二杯分。
次に(この茶葉の場合だと)お湯を勢いよく注いですぐに蓋をし、三分間程蒸らす。
最後にポットの中を軽く混ぜて、濃さが均一になるように茶こしで茶殻を濾しつつ、最後の一滴までまわし注ぐ。
ちなみにこの最後の一滴には、『ベスト・ドロップ』という名前がある。
それだけ重要ってことなのかな。
「はあっ、できたあ!」
「はい、よく頑張りました」
ほんと、うまくいってよかったあ。
そう、油断したのが、よくなかったのか。
移動しようとしたそのとき。
棚に片付けてあった三分間きっちり計れる砂時計が......落ちてきた。
あたしは、すぐ受けとめられる位置にいたのに、受けとめそこなった。
――ガチャンッ。
それが壊れる音が、やけに耳に残った。
「――あ」
砂時計は、粉々になっていた。
目の前がくらっとした。
どうしよう......。
こういうのって、すごくお金かかるよね。
あたし、迷惑を......。
「......っ、大丈夫ですか?! ケガはっ、ないですか?!」
ユキさんが、血相を変えて、あたしに走り寄ってきた。
そして、あたしに付いた砂を払ってくれた。
その手は優しくて。
あたしを心配してくれているのがはっきりわかって。
「......ご、ごめんなさいっ......。
あたしの、せいで......」
そうでないと、あそこから砂時計が落ちてくる説明がつかない。
あたしは、気付けば、泣いていた。
申し訳なさでいっぱいだった。
取り返しのつかないことに、なってしまった。
せっかく見つけた心休まる場所。
お願い、謝るから、あたしのこと、嫌わないで......。
ユキさんは一度びっくりしたように息を呑んで、――あたしを抱きしめた。
ハグだ。
「あなたのせいではありません。
それよりも、あなたにけががなくて、本当に良かったです。
だから、そんなに、泣かないでください」
私には、こうすることしか、出来ないんですから。
そういうユキさんの声もどこか泣きそうだったのは、あたしの気のせいだったのだろうか。
今となっては、もうわからないけれど。
その後なんとか気分を落ち着けたあたしは、その日の夜、『レモンクォーツ』という石の石言葉を見て悶えることになるのだが、それはまた別の話。
『レモンクォーツ』――その石言葉は、明るさをもたらす、悪夢や恐怖を鎮める、そして、心身の癒し。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
ここで補足をします。
作中のナツのセリフから察せられる通り、この物語の年代設定は2018年となっています。どうでもいい話ですが、筆者の別作品『またね』も2018年3月のお話です。また、同じ世界観の話なので(隣町同士)、クロスオーバーなど、できたらいいなと思っています。
そして、ミサのセ〇ムのことですが、これ、予定ではもうちょっと後で渡すつもりでした。ただ、この後の流れを考えた際、このタイミングでないとダメそうだったので、ユキさんには頑張ってもらいました。ええ、ちょっとした(?)ハプニングというか事件を起こすつもりなのですよ......。
最後に、作中で出てきた紅茶の淹れ方ですが、『日本紅茶協会』様のサイトを参考にさせて頂きました。ここのサイト、季節の紅茶のメニューなどあって、すごいんですよ。気になった方は是非、ぐぐってみてください。(ミスがあれば、筆者の責任です。ないようにはしていますが、気づいたことがあれば、ご指摘ください。)
次回はたぶん、10月更新になると思います。詳しくは10月初めの定期連絡にて、お知らせします。
それでは、紺海碧でした。