4.少女と黄金週間前半戦
思いがけないナツと話をした、あの夜から一夜明け。
とうとう今日からゴールデンウィークだ。
結局あたしは何にも手土産を持たないまま、例の公園へと向かった。
塔が一番落ち着くんだよね、不思議なことに。
木の周りをぐるっと回り、塔へ着いた。
しかし、着いた先に待っていたのは、いくつもの花がふわふわと浮いている、ファンタジーともホラーともいえない光景だった。
「......」
帰ろうかな?
ほら、ここ初心者だし、危ないものかもしれないし。
ここはどっちかといえば日常系の世界のはずだ、アドベンチャーはいらないのだ、うん。
そっと踵を返す。
そんなあたしの目に飛び込んできたのは、可愛らしいテディベアがおいでおいでしている光景だった。
うん、君、塔の中にいたよね、知ってる。
でもさ、なんで宙に浮いておいでおいでしているの?!
怖い、怖すぎるよ!
「くぁwせdrftgyふじこlp!」
あー、まさかあたしがこんなセリフ言うとは思わなかった。
「まてー」
「うう、きこえないきこえないー!」
半泣きでパニックで、さらに耳をふさいで必死に塔の裏側へ向かって必死に走る。
ほら、塔の中に、さらにいたら、たまったものじゃあないし。
あたしホラー映画とか苦手なのに!
そうして塔の裏側に回り込んだあたしは、真っ正面からなにかやわらかいものにぶつかった。
「ぎゃふん」
「何をしているんですか......、って、ああ、なるほど」
聞き覚えのある声が頭上から降って来て、そっとあたしは見上げた。
案の定、あたしがぶつかったのは、ユキさんだった。
「わあああー! ごっごっ、ごめんなさいっ!」
慌てて、あたしはユキさんかから飛びづさった。
ユキさんはすこし肩を揺らして、
「いえ、こちらこそうちの精霊たちが迷惑をおかけしたようで、大変申し訳ございません」
と言ってくれた。
それにしても......。
「せいれい?」
「ええ。この世界は魔法が存在するのは、覚えていますよね」
「はい」
そして、魔法には六つの属性があり、その名称は光、闇、火、水、風、土、だったけ。
あの本にちらっと書いてた。
「はい、正解です。
それらの力を司り、好みの魔力の持ち主の前に現れ、力を貸してくれる存在が、精霊です」
なんか猫っぽいな。
「......本当はそうではない者には、全くと言っていいほど興味を持たないはずなのですが......」
「?」
声が小さくて、上手く聞き取れなかった。
「いえ、気にしなくていいですよ、ひとりごとなので。
カギは開いていますので、ミサさんは先に塔へ入って下さい。
私は、事情聴取をしますので」
「はあい......」
あたしはユキさんの有無を言わせぬ笑顔の圧に耐え兼ね、さっさとその場を抜け出したのだった。
* * *
ミサが去った後。その場にはユキと空中に浮かんだ何人もの精霊が向かい合っていた。
精霊たちの表情はにこにことしていて、付き合いの長いユキは、彼らがいたずらのような意味合いでミサの前に姿を現したのではないと悟った。
「......貴方たちがミサさんを困らせようとしたのではないとは分かります。
ただ、彼女はこちらの人間ではありません。
もう少し配慮してあげてください」
「はあい」
口々に返事をするなか、テディベアを持ち、黄緑の髪をした精霊がぽつりと言った。
「でもね、あの娘、ルーと会ってからだいぶ持ち直したけど、ずっと死にそうだったし、第一、ここに来れたっていうことは、ボクたちのこと、見えるって思ったんだよ」
だから、励ましたかったんだ。
その言葉に、ユキは柔らかい表情になった。
「ウィリー。なるほど、それでですか」
ユキが納得したように頷く頭上で、ウィリーと呼ばれた精霊は、『爆弾』を投げつけた。
「それに、あの娘、ルーの『ソウルメイト』なんじゃあないの?」
「はい?! それはだれが......」
「ボクが勝手にそう思っただけだけど」
すると、ユキは、その場に蹲ってしまった。
かすかなうめき声がユキから漏れた。
「私が、彼女にどう思われているか、知っているでしょう?
それに、私の事情に巻き込みたくありませんし」
「悩むよりか、さっさと誤解といちゃうのが、先だと思うんだけどね?」
何にも気づいていないミサがかわいそうだよ。
ウィリーのとどめのひとことに、ユキは、撃沈した。
* * *
次の日。
あたしは、ナツに勧められた手土産を持って、塔に来ていた。
他人ん家(塔)を自習室&カウンセリングルーム代わりにするんだし、それに......。
「あっ、ミサ―!」
「ウィリー」
塔の前で立っていた小学校低学年くらいの年齢に見える男の子が、あたしに向かって駆けてきた。
彼は、昨日テディベアを持ってあたしを追いかけてくれやがった張本人である。
それだけでなく、彼は風の力を持つ中位の精霊で、あたしにも見える姿をとったときは、この姿になるのだという。
そうだね、忘れがちだけどここ異世界だったね。
ユキさんも魔術師なんだし。
なんかぴったりだと思ったのは、本人には内緒である。
まあ、そんな風に昨日、あれからきちんとユキさんに紹介されて、意気投合したのだ。
そして、あたしはちょっとした目的をもって、この精霊君を餌付けしようとしていた。
「ねえねえ、それ、なあに?」
「これは、苺大福。
もっちりとした甘い皮に甘く煮込んだ豆のペーストとイチゴを包んだもの、かな。
友達に勧められたんだ、きっとおいしいと思う」
買ってきた苺大福は三つ。
あたしとウィリー、そしてユキさんのぶんである。
ユキさんがいないことをいいことに、あたしたちは階段に並んで腰掛け、手に持った苺大福を頬張った。
「ん、おいしー!」
「それはよかった」
もっちりとした皮に、上品な甘さの白あんと甘酸っぱいイチゴの味が口いっぱいに広がった。
うん、流石は老舗和菓子屋。スーパーのそれとは大違いである。
二人でおいしいねと食べていたら、目的を忘れてしまいそうだ。
あー、甘いもの食べるのって幸せ。
すると、ウィリーがあたしに話しかけてきた。
「ねえ、ボクになにか訊きたいこと、あるんじゃあないの?」
「ふえっ」
あたしは目を丸くした。
あたしって、そんなにわかりやすい?
「ていうか、そんくらい敏感でないと、ルーを護れないの。
あんまりひとの秘密とか事情に首突っ込むのは良くないよ?
ミサだって、イヤでしょ?
それに、ルーを傷つけるものは、誰であろうと赦せない」
その真剣すぎる表情に、あたしはどきっとした。
この子、本気だ......。
「ご、ごめん......。あたしが、悪かった。
ただね、あたし、ユキさんの本名が、知りたかっただけで......」
あたしはしょぼんとうなだれた。
ルーって呼びかけられてるのを聞いてると、知りたくなってしまったのだ。
ユキさんには、迷惑なのかもしれないけれど。
そんなあたしの様子を見たウィリーは目を丸くした後、
「あはは、なんだ、そんなことなの」
といった。
「?」
「じゃあ、それくらいなら教えてあげる。
ルーには内緒だよ?
それに、このままじゃあ、ミサにとって不公平だし」
「どゆこと?」
「こっちの話ー。
あのね、ルーの本名はね、ルー......」
「何をしているんですか、二人とも?」
「うお」
「ひっ」
あたしのものでも、ウィリーのものでもない、絶対零度に冷えた声が、あたしたちの間に飛び込んできた。
二人で顔を見合わせ、声がした方向をそっと伺った。
そこには、目が全く笑っていない笑顔を作ったユキさんが立っていた。
その後あたしたちがどんな目にあったかは、ご想像にお任せしよう。
あ、あと、苺大福、ユキさんにも好評だったよ。
ありがとうナツ。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
この第4話はちょっと(?)説明回っぽくなってしまいましたが、筆者としては、ミサに『くぁwせdrftgyふじこlp』と言わせたいがために生まれたお話となります。早口言葉もろくに言えない筆者には、これは絶対言えませんが......。
また、初めて三人称視点が出てきました。今後は、番外編的な位置付けのお話として、ユキさん視点のお話も投稿します。ユキさんがミサや読者様に隠している『秘密』が少し、明らかになる、はず......!
次回、第5話は、9月中に投稿する予定です。ちょっとした事件が起こる予定ですが、他と比べて少し短めかもです。
それでは、紺海碧でした。