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3.少女と黄金週間の始まり

 食事中の方にとって不快な描写があります。

 特に、シュークリームを食べている方は気をつけてください......。

 「明日から、やっとゴールデンウィークだーー!」


 放課後、生徒向けに解放された学校の食堂にて。

 明日からの連休に心弾ませる生徒たちの声を代表するかのような少女の叫び声が響いた。

 声の主はあたしの例の友人、いや親友の、有川(ありかわ) かえで、である。


 「おお、ここでそんなに叫ぶなよ」


 「むうう......それを言うなら、ナツだって......」


 「オレがそんなことするわけねえだろ」


 かえでと話す、あたしより口の悪い女の子は、神崎(かんざき) ナツ。例ののど飴をくれた当人である。

 あれから、いろいろあって行動を共にするようになった。

 本当にいろいろあったのだ。

 それはまた別の機会に説明するとして。

 もともと、かえでとは小学校のころ塾が一緒だったということで、交流があったらしい。

 つくづく、顔が広い我が友である。


 「なっちゃんの裏切り者ー」


 「紛れもなく冤罪だ」


 「ねえ、ミサはどう思う?」


 「こいつどうにかしてくれ、花丘。

  ちゃんと手綱を握っててくれ」


 ちなみにあたしのフルネームは、花丘(はなおか) 心咲(みさ)、だ。

 だから、かえでからはミサ、ナツからは花丘、と呼ばれている。


 「わたしって、犬かなにかなの?!」


 「『猛犬注意』ってシール貼りたいよ」


 「わたしの扱いひっど!」


 ごめん、かえで、あたしは酔っ払いより扱いが難しいって思ったことがあるよ。

 よし、面倒だから、全力で話逸らそう。


 「あれ、そう言えば、裏切り者って、英語でなんていうんだっけ?」


 「え? ちょ、ちょっとタイム!」


 一瞬きょとんとした後、待ってと言うかのようにあたしに向かって両の掌を向けた。

 けれど、からかいたがりのナツが、黙っているはずがない。


 「betrayer、または、traitor、だ。

  テストに出たら、どうするんだ?」


 「うう、でも、さすがだね、なっちゃん」


 ナツは実は学年でも一番英語の成績が良い。

 発音も右に出るものはいないだろう。


 「なんなら教えようか?」


 「なっちゃんのスパルタ授業についてく自信ないからやめとく......」


 「なんだよー、花丘は?」


 あれ、なんかいやな予感がする......。


 「右に同じく......」


 「お二人さーん?」


 おおう、笑顔の圧が......。


 「そ、そうだ!

  二人に、訊いてみたいことがあって」


 「ごまかしたな?」


 「あはは......」


 でも、質問したいことがあるのは、本当だ。


 「あのねあのね、こないだちょっとお世話になった人にお礼のお土産的なの渡したいんだけどさ、なにかおすすめのお菓子ってないかな?」


 もちろん、ユキさんへの手土産である。

 二人は、んんーと首を傾げた。


 「今の旬って......」


 「かしわ餅とか?」


 「いや、オレが言ったのは、果物の旬」


 ま、もうすぐこどもの日なので、かえでが言ったのは、間違いではない。


 「果物......、はっ、そういやこないだケーキ屋さんで買ったイチゴクリームが入ったシュークリーム、あれおいしかったなあ」


 「靴磨き?」


 「ちがう!」


 日本語で「シュークリーム」といえば、サクッとした皮に甘いクリームが詰め込まれたスイーツだが、英語でそのまま言ってしまえば、それは靴磨きという意味になってしまうのだ。

 ちなみに英語でシュークリームは、『cream puff』である、念のため。

 これを教えてくれたのは英語担当の先生だが、教えてくれたタイミングが少々まずかった。

 この授業が終われば昼食休憩、そんな四限の終わり頃。

 授業終了後、かえでが撃沈していたのを、あたしははっきりと覚えている。

 あたしはといえば、しばらくシュークリームを見ると爆笑してしまう呪いにかかってしまった。

 あれは広義の飯テロだと、あたしは思う。

 そしてこれは余談だが、その先生は割と人気のあるひとなのだが、この事件後、しばらく生徒たちの間で大幅に好感度が下がったそうな。

 それにしても......。


 「イチゴ味の靴磨き......。

  歯磨きでイチゴ味ってあったよね」


 「メロンとか」


 「あと......、ぶどう?」


 なんだか、すごく話が逸れてしまった。


 「でも、わたしは、イチゴ味のチョコはちょっと苦手かな。

  だけど、あれはおいしく食べられ......、ってだめだ。

  あれ、期間限定で、もう終わっちゃったんだっけ......」


 あっちゃあ。

 ちょっと残念だけど、こればかりはしかたないかな。


 「あたしは逆に本物のイチゴがあんまり......。

  きらいって訳じゃあないけど」


 「オレはどっちもいけるかな」


 でも、ナツ、かえでの方見てにやにやしているけれど、大丈夫かな......。

 ちょっといやな予感がしないでもなかったのだった。


   *   *   *


 その夜。

 あたしは、どうしても必要なものがあり、ひとり近くにあるコンビニへと向かった。

 無事にゲットした後、コンビニから出たあたしの耳に、ギターの音色と音量は絞られた、だけどよく通る声が飛び込んできた。

 道路の向かいには、例の公園よりは広いそれ。

 あたしは、その公園に、足を踏み入れた。

 ゆっくりと近づいていく。

 歌が終わる。

 歌っていたのは、ナツだった。

 しばらく、あたしとナツは無言で見つめ合った。

 先に口を開いたのは、ナツだった。


 「なんか、恋が始まりそうなシチュエーションだな」


 「あはは......。

  でも、すごく、うまいね」


 「ギターが? それとも歌?」


 「両方」


 そう答えると、ナツは自分が座っているベンチに座るよう、あたしを促した。

 あたしは勧められるまま、隣に腰掛けた。

 ナツはしばらく無言でつま弾いていたが、やがてぼそっとひとりごとを言うかのように話し出した。


 「なあ、オレがこんな風に歌ってるっておかしいか?」


 付き合いはすごく短いけれど、あんまりにもナツらしくない姿に、あたしはどことなく胸騒ぎがした。


 「なんで? ぜんぜん、おかしくないと思うよ?」


 「プロを、目指してるって言っても?」


 あたしは、心からの思いを持って、ナツに向き合った。


 「ねえ、あたしは、もっと聴きたいよ。

  それに、ナツの歌、すごく響くんだよ。

  それって、すごいと思う」


 それに、夢が、目標があるってこと自体が、羨ましい。

 なんにもない、あたしより断然いいと思うし、すごいな、って感じる。


 「オレは、夢がないってことは、これから見つけられるってことで、いいと思うぞ?」


 「え?」


 あたしがきょとんとしてナツの方を見ると、ナツは少し照れたようにうつむき、ギターを構えた。


 「なあ、ゴールデンウィーク、後半で二人でどっかいかねえ?

  オレの好きなアーティスト、紹介するよ。

  そんで今は、一曲聴いてってくれ」


 「うん」


 あたしはそっと頷いた。

 その後、思いがけず話が盛り上がってしまい、帰宅して、心配した母にみっちりと叱られたのは、言うまでもない......。

 ここまでお読みくださり、ありがとうございます。

 作中でナツが歌っている楽曲は、筆者の中では実際に存在する楽曲をイメージしていますが、ここでは明言しません。

 読者の皆さんで、どの曲か想像してください。ここで明言してしまうと、筆者が叱られてしまいそうなので......。

 「ナツはこんな曲歌ってそう!」「この歌おすすめです!」などあれば、こそっと教えてください。筆者が泣いて喜びます。

 次回は、8月末、なければ、9月に2話分投稿します。

 活動報告でいろいろ書いているので、良ければそちらで最新の更新予定を確認してください。

 それでは、紺海碧でした。

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