9.少女と体育祭前日
短めですが、すごく久しぶりの更新です。
今回は、ミサたちの体育祭前日の様子。ユキさんはお休みです。入れようとも思ったんですが......入れられませんでしたね......。
三人で懇々と報・連・相の大切さを説かれた日から時は過ぎて。
あたしの通う、県立中丘高校では着実に体育祭に向けての準備が進んでいた。
体育の授業も完全に体育祭に向けての内容に切り替わり、放課後のダンス練習も全員参加に切り替わった。
そして今日、体育祭前日である。
今日は通常授業はなく、終日、予行と最終練習、そしていくつかの種目の予選が行われる。
......うちの学校、もともとが土曜授業がある学校だからね......。
しっかり振替休日がもらえるのは、嬉しいかな。
「んん、いよいよだね~」
「うん、そうだねぇ」
「お~」
今、かえでとあたし、そしてナツで固まって、グラウンドにいる。
本来なら一時間目の時間帯ではあるが、これからは、入場行進の練習なのだ。
周りでは、「そこ、遅い!」「水分補給はしっかりしとけよ~!」と叫び声が飛び交っている。
熱気と僅かな気怠さが漂っているのを肌で感じ、あたしもだんだんと興奮してくる。
そんな中、ぴいぃーというホイッスルの音とともに、アナウンスが響いた。
「これより、体育祭の予行を行います」
いよいよだ。
まずは、何回かやり直しをしつつ、入場行進の練習。
あちこちで、「だるい......」というコメントが聞こえる。
わかる、でもこれ、採点されるらしいからねぇ。
そして、続いて始まったのは開会式の予行。
開会宣言に選手宣誓、校長先生のお話、準備体操代わりのラジオ体操第一、などなど。
......校長、本番は明日だから、そんな長々とお話しなくていいよ。
「ふあぁ......」
「おい、寝るな、ここで寝たら死ぬぞ、社会的に」
すぐ隣でそういう会話が聞こえてきて、あたしは思わず、同じく聞こえていたであろう周りとともに吹き出した。
「おい、そこ! 真面目にやれ!」
すかさず、先生の叱責が飛んでくる。
......校長が悪いと思いまーす。
内心そうぺろりと舌を出し、私は首をすくめたのだった。
そうこうしているうちに開会式の予行が終わり、ひとまず休憩をはさんで、一部の種目の予選が行われる。
例えば、綱引きとかがそう。
「かえで、頑張って」
「もちろん!」
「まあ、下敷きになるなよ」
熱意をみなぎらせるかえでに、不安になることをすぐ隣で吹き込んだのは、ナツである。
「わたしをなんだと思ってるの、なっちゃん......」
「去年、それで怪我しかけた先輩がいただろ?」
「「あー」」
そう言えば、そういうこともあったっけ。
あたしは別のブロック、別の競技だったから直接その現場は見ていない。だが、ちょっとした騒ぎになったので知ってはいるのだ。
「ひい、ミサ、変わってぇ~!」
「無理、がんば」
「ひええ」
がくり、とかえでは肩を落とした。
というか、縄跳びで出場者が決まった後で別の人に変わるのは、ルール的にアウトだからね。欠席者やけが人なら別なんだけど。
「かえでー行こー」
「呼ばれてるぞ、ほら」
「はーい......」
あたしたちは、なんとか綱引きに出場するクラスメイトにかえでを引き渡して、ブロックごとに用意されている休憩スペース兼応援スペース――通称ブロック席――に向かい、前方を陣取った。
予選がないあたしたちは、応援タイムなのだ。
テントというか、屋根が張られてブルーシートが敷かれているので、何もないよりは過ごしやすい。
前方では、練習なのか、缶ドラムをリズミカルに叩いている実行委員がいる。
あ、「うるさいっ!」ってバチ取り上げられちゃった。
一方グラウンドでは、さくっと入場したかえでたちが、綱を引き始めたところだった。
両チームの端には、腰に端を巻き付け、お互い背を向けて走るような形で引っ張る生徒がいる。
「毎年思うけど、あれってズルじゃねぇの?」
「......まぁ、皆やってるからいいんじゃあない?」
結果を述べると、あたしたちのブロックは無事、事故も起こることなく予選を突破した。
* * *
そして昼休みを挟んで午後。
応援合戦の通し練習が始まった。
本番とほぼ同じ環境、同じ順番で行うので、あたしたちは自分たちの順番が来るまで他ブロックの様子を見つつ待機だ。
あたしたちは3番目。トリじゃあなくて助かったと思うべきなのか、はやく済んだ方が良かったと思うのか、微妙なところ。
トップバッターのブロックが、ブロックカラーに合わせたポンポンを持って準備しているのを見つつ、あたしたちはだらりとだべる。
「そういえば、二人は明日、親は来るのか?」
そう話題を出したのはナツだ。
「わたしのところはね、親と、おじいちゃんとおばあちゃんが来るよ!」
「あたしは......、来ないと思う」
もともとはあたしのことを放置気味な二人だ。そもそも、体育祭のことさえ覚えていないだろう。覚えてたとしても、来るかどうか。
......去年は来てなかったし、今年に至ってはあたしから教えたかも怪しい。
「ふぅん、そうなのか......」
「なっちゃんは? どうなの?」
「オレ? 来ないよ」
だって仕事入ったって言ってたし、とあっけらかんと言ってのけたナツに、あたしは若干のシンパシーを覚えた。
そんなあたしたちの前では、いつの間にかダンスがスタートし、それに合わせて軽快な音楽が流れ出す。
「あっ、この曲聞いたことある!
流行ってたよね、えっと、タイトルは......、なんだっけ?」
「覚えてないんかい」
あたしたちがそうやりあっていると、ナツがさらっとタイトルを告げた。
それはかえでの記憶にうっすらと残っていいたものと合致していたようで、かえでの目が大きく見開かれる。
「すごい、すごいよなっちゃん!
もしかして音楽詳しいの?!」
「まぁ、流行った曲はだいたい聞いてはいるかな」
「すごいってそれ!」
かえでは今日一番のテンションの上がりようを見せている。
あたしとしては、そろそろ先輩や同級生の視線が気になるところだ。
「有川、一旦落ち着け、ステイだ」
「わん」
察したナツが、かえでの両肩を掴んでブレーキをかける。
「この話は、帰り道にしような?」
「わんっ」
あたしは、この友人の頭と尻に、垂れ耳とぶんぶんと振られるしっぽの幻覚を見た。
それからは、あたしたちのブロックの予行も筒がなく終了し、最終的な確認と打ち合わせ、そして、体育祭の設営準備を終わらせたら解散だ。
保護者席のパイプ椅子並べるのって、正直言うとめんどくさいよね。
みんなでやったらすぐ終わることではあるんだけど。
なんとか並べ終えて体操服から制服に着替え、ホームルームが終われば下校の時間である。
こうしてあたしたちは、質問攻めにする人とされる人と共に帰路に着いた。
もうすぐ道が分かれるぞ、というタイミングで、気が済むまでナツに質問を重ね続けたかえでが、ぽつりと呟いた。
「明日はとうとう当日だね」
「うん」
そして、目の前には分かれ道。
あたしたちの足は自然と、他の人の邪魔にならないような場所で止まる。
「明日って晴れるかな?」
「晴れるはずだぞ」
「そっか!」
ナツの返答を聞いたかえでは、弾むように走って数歩前へ出る。
「明日、がんばろうね!」
「「おお~!」」
そして、それぞれ何事もなく家にたどり着き、休息を取り、夜が来て、更けて。
やってきた朝は晴天。
体育祭が、始まる。
再び、一年ほど更新が空いてしまいました......。
お久しぶりです、遅くなって本当にごめんなさい。皆さんは、この一年間どんな日々をお過ごしになっていたでしょうか。筆者は、友人に趣味で運営しているSNSのアカウントがバレたり、勉強に始めたゲームで初めてマルチ......誰かと一緒に遊んだり、久しぶりに風邪をひいて拗らせたりしていました。えぇ、本当はもうちょっとはやく投稿するつもりだったんです......。
ちなみに、筆者はここのことはリアルでもSNSでも一切話していません。なので、その関係の方々にはバレてないはずなんですが、もしバレていればメッセージが来ることでしょう。筆者は、それが本当に怖い。友人からの感想メッセージよ、どうか来ないでください、本当に。
それでは、紺海碧でした。今度こそ、体育祭当日! もっと早く更新できるよう頑張ります......。