第097話 謝罪
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ローラさんの後に続いて、オラゾーラ侯爵の待つ部屋に向かう。
出迎えてくれたオラゾーラ侯爵は恰幅の良いおじさんだった。
髭もたくわえており、貴族様という感じだが、眼光が鋭い。
油断禁物といった感じだ。こんな貫禄どうやったらつくんだろう。
「貴公がタッキナルディ侯爵か。若いのに大した手腕だと聞く。良しなに頼むよ。」
と握ってくる手もごつく、握手も力強い。爵位にただ胡坐をかいている人とは思えなかった。
「こちらこそよろしくお願いします。」
と言葉少なに挨拶を交わす。
もう少し気の利いた言葉を言えたらと思うが、ローラさんも口を出せないでいる。
僕たちが緊張しているのは、オラゾーラ侯爵の足元で床に頭をつけたまま微動だにしない男性のせいだ。
「オラゾーラ侯爵、こちらの方は?」
おずおずと尋ねる。
「私のことはトマラと呼んでくれ。ああ、この男か。私の寄子なのだが、貴公に詫びたいことがあるそうだ。良ければ口上を聞いてやってくれるか。」
「ええ、わかりました、トマラ殿。あの・・・何事ですか。」
と前半はオラゾーラ侯爵に、後半は足元で土下座真っ只中の男性に声をかける。
土下座をしていた男は顔をあげ、
「タック・タッキナルディ侯爵。わ、私はギズ・ラングと申します。皇帝陛下より伯爵位をお預かりしておる者です。」
この人がドレッドの父か。
「この度は私の息子が大変失礼なことを!」
とドレッドの父は再び土下座をする。
「謝罪は受け入れますので、顔をお上げください。」
悪いのはドレッドであってこの人ではないのだ。だが、
「息子を許してくださいますか?」
の言葉に一瞬思考が固まり、
「いえ、息子さんは許さないですよ。私が受け入れたのはあなたの謝罪のみです。」
と思わず条件反射的に答えてしまう。なんでユニコーンだけでなくトリィたちも寄こせと言ったアホを許さないといかんのだ。
「タック殿の、お許しがもらえなければ息子は海軍の一兵卒として前線に行くことになってしまいます!」
「ラング伯爵、親としての子供を危ないところに送りたくないという気持ちはわからなくもないですが、ユニコーンだけでなく私の妻になる人間もよこせと言った人間を許せるほど、私は人ができてないのです。」
「む、息子はあなたにユニコーンをねだっただけだと・・・」
あの野郎、絶対に許さん。
「息子さんの話だけでなく、侯爵家治安部隊の方の証言も聞かれましたか?息子さんのお兄様もそうではないことをご存じのはずですよ。」
自分でも声が低くなっていることがわかる。
「ギズよ、あきらめろ。若いから情に訴えればよもやと言ったが、これは無理だ。」
とオラゾーラ侯爵がいうとラング伯爵は泣き出してしまった。
戸惑う僕たちを横に家人に支えられるように退室していくラング伯爵。
「うちの寄子がすまんな。」
と言ってオラゾーラ侯爵が説明を入れてくれる。
どうやら僕にちょっかいを出したことでドレッドの立場は相当悪くなったらしい。
(王国もあるかもしれないが)帝国では貴族の子弟が何かしらしでかした時の懲罰の一つに前線配置というものがある。
この近辺では隣領のグリフィス辺境伯でのテムステイ山の周辺哨戒任務がそれにあたる。
ここまではドレッドのお兄さんも言ってたことなのでわかる。
オラゾーラ侯爵の捕捉によるとが懲罰とはいえ、貴族子弟、それも伯爵家の息子となれば、グリフィス辺境伯領でもそれなりに忖度がされ、近場を散歩するような形式的なもので許されるものらしい。
ところがテムステイ山を僕が制圧したことで、そこの哨戒任務がなくなった。
ほかの前線と呼ばれるものが海沿いの魔獣警備しかなくなり、忖度的なものが期待できなくなった。
ましてや喧嘩を売った相手が、侯爵ということもあり下手に手加減すると巻き沿いを食らいかねない。
ということで忖度なく本来の懲罰通りの前線警備となるらしい。
それを知ったラング伯爵は僕に土下座してでも我が子の罪を許してもらおうとしたが、今のやり取りで許されないことが確定してしまった。
「貴公は若いがそこらへん甘くないようだな。やはり規律は守られてこそだ。」
とオラゾーラ侯爵は僕をほめる。
いや、規律や法だの以前にトリィ寄こせっていうやつを許すわけないってだけなんだが。
言わぬが吉の気がするので黙っておく。
玄関の騒ぎのこともあっさり許してくれた。
どうやら僕が叙爵したことを聞きつけたオラゾーラ侯爵が僕がここに戻ったら即時に詫びろ。といったことをラング伯爵が馬鹿正直に実行したらしい。
事前通知(前触れ)のことすら忘れていたので、相当余裕がなかったのだろう。
そもそも子息と言いながらお兄さんもいる次男坊でなぜそこまで救いたいのかというと、どうやらあれでも正妻の子でお兄さんは側室の子らしい。
正妻も今は亡く、面影が残っている我が子を溺愛しているそうだ。
うーん、欲にかられた顔しか見てないが・・・ 正妻の顔が少しだけ気になる。少しだけ。
そのあとはローラさんとオラゾーラ侯爵を代表とした第一王子の結婚調整の場に同席する。
特に何事もなく終わった。
打ち合わせ中、侯爵の横にいた女性がずっと僕をちらちらと見ていたが特にしない。
新たに侯爵に任命された人間だから、帝国の人としては気になるのだろう。
気にしたら負けだ。見世物になるぐらいは甘んじて受けよう。
と思っていたら、帰りにローラさんからよく無視しましたね。と褒められた。
侯爵になった人間がどんなものか興味あっただけでは?見世物だと割り切って我慢しましたよ。と言ったら、大笑いされた。
あれは「何か?」と聞かれたくてわざとチラチラ見ていたのだそうな。
誘われてたんですよ。
いろいろとあるでしょうが、みんなあんな遠回しだったらタックさんは気づかないので楽なんですけどねぇ。というのがローラさんの感想だった。
遠回しに鈍いと言われているのだが、もし違ったら後で大層怒られそうなのであれでよい。
チキン上等である。
そう思いながら部屋に戻ると、テーブルにいたアギレラがおもむろに
「ヴァレンティナ様から王国との交渉について連絡が来ております。」
と頭の上から伝えてきた。
おお、ようやくか。
馬車で移動していたから時間かかったみたいだけど、王都について交渉できたようだ。
「うん、それでなんだって。」
「交渉決裂しそう。とのことです。」
なして?!
自国の男爵が制圧したって言ってるのに?
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