第091話 貴族と商人は目の付け所が違う
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「どうして税の免除期間を交渉しなかったんだ?」
皇帝陛下との心休まらない食事を終え、帰途に就く馬車での父さんの第一声はこれだった。
「そこまで考えは及ばないよ。争いごとに発展しないように防衛線張るだけで精一杯だって。」
「父さんとキーランの近くにいて仕事見てたのにどうしてそれを考え付かないんだ。」
どうやらお金に関する交渉を一切しなかった息子にお冠らしい。知らんよ。そんなこと言われても。
「税って言っても儲けなんて出ないよ。」
魔獣はいるけど、ただの山だし。あと資産とか持たずに逃げてきた人しかいないし。
食べないと生きていけないから魔獣を定期的に狩ってるけど、狩りつくすと困るし、残った骨、牙、皮、羽類も微々たるものだ。ユニコーンを高く買うとか言ってる人もいるが、命の売り買いはしたくない。
そう答えた僕に父さんはため息をつきながらそうじゃないという。
・テムステイ山周辺の魔獣のリスクがなくなる
→王国、帝国、司教領間の移動リスクも減る
→これまでリスクテイクのために発生していた各種コスト(遠回りすることによる人件費、魔獣・盗賊対策のための護衛費など)が減るため流通が活発化する
→流通経路沿いに宿なり、飲食店を置けば、放っておいてもお金がたまる。
3つ目から4つ目への理論どうりに行くかは微妙だが、細かく言わないだけで父さんのなかではその算段は立っているようだ。
「タッキナルディ商会としても金を出すから、3国間の道路を整備して、店を構えろ。領民にはそこの店を任せればいい。」
と言い、次いで
「多分、キーランも同じことを言う。アドリアーナは・・・わからんがお前がやると言えば手伝ってくれるだろう。3商会が協力すればそれなりのものはできる。」
と言うと目を閉じた。考え事に没頭するときはいつもそうだ。
「父さんはいつも言いたいことだけ言って考え事に没頭するなぁ。」
と思わず独り言を言うと、母さんは笑いながら、
「何言ってるの、タックも魔道具作ってるときは人の話聞かないでしょ。トリィちゃんぼやいてたわよ。」
と言うが続けて、真顔になって、
「でもお父さんのいうとおり、お金のことに無頓着なのは感心しないわね。ローデス商会に婿入りするんだからそこらへんもちゃんとしていきなさい。」
会長職と貴族って兼務できるのかしらと思いながら、
「うん、そこらへんはおいおいね。でもトリィも騎士やってるし、僕たちお互いお金に無頓着だから、お金回りはしっかりした人にお願いしようかと・・・」
「もともとトリィちゃんが強くなろうとしているのはタックが行商することになっても、安全にできるようにでしょ!」
僕の言葉をさえぎるように母さんが叫ぶ。
「自分の足りないところを補おうとするのは大事よ。でも自分に足りないことの免罪符に他人を使うのはやめなさい。ましてやあなたのためにいろいろしてくれてる娘を理由にしちゃだめ!」
「母さん、うるさい。」
と片目を開けて父さんが口を開く。
「今さら、叫んだところでどうなるものでもない。それにタックは足りないところから自分を補ってここまで来たんだ。これからは経営だけじゃなく政治の話も学んで行けばいい。それに・・・」
と言って母さんを見ると
「トリィちゃんが内緒にして。と言ってたことを母さんが言うのはいかんだろう。」
とたしなめるように言うと、母さんはうつむいてしまった。
「母さんがばらしてしまったが本当のことだ。聞かなかったことにしてくれ。」
父さんが今度は僕の方を向いて言う。
「いつ聞いたのさ?そんな話。」
「お前が学校の長期休暇の時にトリィの父に連れられて一緒に帝国に来たことがあっただろ。その時だよ。」
まだ魔道具を作れることに気付いてなかった時。
卒業はできそうだけど商人としてやっていける自信が全くなかった時。
仮にトリィと結婚できたとして、横に並んでパートナーですと言える自信がなかった時。
そんな何もなかった僕にトリィは・・・
黙ってしまった僕を目にすると父さんは再び目を閉じた。
そのあと3人とも何もしゃべることはなかった。
しばらくして御者が到着を告げる。
父さんが先に降り、母さんが続くのを待とうとして母さんと目が合う。少し気まずそうだ。
「母さん」
「何?」
「僕はトリィに一生頭が上がらない気がするよ。」
僕がそう言うと、
「当たりまえでしょ、あんないい子を粗雑に扱ったら母さん許さないからね。」
というと先に降りて行った。
父さんにテムステイ山組に会う?と聞くと明日の朝で良いと言われた。
僕が侯爵に任じられたことでいろいろ商会として動くことが出てきたようだ。
1人残った僕は客室に戻る。
自分の部屋は残っているらしいが、皆を置いてそっちに行く気にはなれなかった。
客間に入るとトリィ、ガブリエラ、ヒビキがテーブルに座っていた。
ブルックリンは壁沿いの席に一人で座って武器の手入れをしていた。
いやあれはミクラで遊んでるだけだな。
アギレラは・・・テーブルの上にクッションがあるのでそこだな。
「おかえりなさい。」
と駆け寄ってくるトリィ。
さっきの馬車でのやりとりを思い出し、トリィの顔を直視できない。
トリィは気にした様子もなく、「おつかれさま。」と言って僕のコートをしまいに行った。
ここにいないエヴァ、ミア、ステラ、リッキーは馬車番。
タッキナルディ商会に預けられなかったの?と聞いたら、賊から守り切れる保証がありません。と正直に言われたので引きつづき自分たちで守ることにしたそうだ。
「面会は無事終わった?」
と空いてる席につくと聞いてくるトリィ。
ガブリエラはニコニコと飲み物を入れてくれる。
ヒビキとブルックリンは何も言わないが、聞き耳を立てているのが丸わかりだった。
「帝国の侯爵になることになった。」
「「「はぁ?」」」
ガブリエラ以外の3人が異口同音に驚きの声を発する。
どうしてそんなことに?と問い詰めてくる3人に順を追って話す。
途中でブルックリンは「陛下えぐいわぁ~。」と言って聞くのをやめてしまったが、トリィとヒビキは最後まで聞くと、一応戦闘は避けられそうという結論に安堵したようだった。
ガブリエラは最後までニコニコと聞いていた。
話は分かったのかと聞くと、「わかった。引き続きマスターのお傍にいられるのなら問題ない。」
という。この子の判断基準はいつこんなふうに変わってしまったのか?
従属魔法の結果だとしてもガブリエラだけレベルが違う気がする。
後回しにしてるけど従属魔法の先生のエヴァにここら辺も確認しないと。
「タック様にご報告が。」
とテーブルの上のクッションに座っていた妖精が僕に声をかける。
「アドリアーナ様とアナスタシア様に同行したウィンの叔父から念話がありました。アナスタシア様からの伝言を承っております。」
叔父?生体金属の血縁関係って気になるが後回しにする。
「なに?」
「司教領の上層部の説得に成功。」
おー、やったじゃん。さすがアド姉。
「大司教様よりテムステイ山をタック・タッキナルディの自治領区と認めるという言質を取ったとのことです。」
は?自治領区?いやいや冒険者や軍隊送らないだけでいいのよ。
野生動物の保護区みたいな扱いで良いのだが。
「あと、アドリアーナ様経由ですが、お兄様のロッコ様からの伝言を預かったとのことで。」
兄さんが?
「なに?」
「再開発に司教領を一枚かませろ。無制限無利子でお金借りれるようにしたから。とのことです。」
んー?、これって軍事戦争の戦地にはならなかったけど経済戦争の真っただ中に置かれたって事じゃない?
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