第088話 馬車の中で
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リマ・ストラカン・ミゼラ皇帝陛下は御年45歳。
わずか12歳で即位した後、在位33年で帝国の競争力を倍増させたと言われている女傑だそうだ。
荷物を下ろすやいなや、商会の馬車に放り込まれ、城に向かう途中、簡単に皇帝陛下の説明を受ける。
同乗しているのはタッキナルディ家の3人(父母と僕)だ。
さすがにトリィも付いていくとは言わなかったので、同行してくれた侯爵領守備隊の人たちへのお礼をまかせ、その後商会で待っててもらう。
アギレラとミクラも商会に置いて来た。ウィンだけが腕輪になりすまして僕と同行していて、状況を念話ができるアギレラたちに伝えてもらって、そこから一緒にいるエヴァ達に共有してもらう格好だ。
帝都の市井の状況を知りたかったので、ミアとリッキーには買い物と称して帝都で売っているものを確認してもらっている。
あと帝都に知人がいるという帝国組にも夜までの自由行動を許していた。
「それで、結局お前は皇帝陛下に何を頼もうとしているんだ?」
と馬車を出すとおもむろに父さんが聞いてくる。
「テムステイ山て知ってるよね?」
「ああ、あの邪魔な山な。魔獣のせいで遠回りしなきゃならんし護衛費だとかの経費がかかって、国をまたいだ商売がやりづらくてしょうがない。」
そうか、商売人からするとそんな山か。
「そのテムステイ山をね。僕が制圧したんだよ。魔獣を僕の支配下に置いたんだ。」
「「はぁ?」」
父さん、母さんの声がかぶる。この反応もだんだん慣れてきた。
「それでね。皇帝陛下には帝国の哨戒部隊を派遣するのを止めてもらおうと思って。まあ派遣しても良いんだけど山中で魔獣を狩るのを止めてほしくて。」
「待て待て、よくわからん。制圧したってどういうことだ?」
「方法は詳しく話せないんだけど、テムステイ山に生息している魔獣を手懐けたんだ。あとそこにはアド姉が匿ってた人もいて、その人たちも僕の庇護下に置くことにしたんだ。一緒に商会に来た何人かはそのメンバーだよ。」
「何?あの中にいたのか?会わせてくれ。って、くそっ、戻れんか・・・」
と悔しそうに後ろを振り返る父さん。
「商会に残しといても安全なの?」
と母さんが聞いてくる。
「別に暴れたりしないから大丈夫だよ。そういえば僕を引いてた馬車の馬がユニコーンだったんだけど気づかなかったの?」
「窓からお前が手を振ってたらそっち見るだろ。これから連れていけそうかどうか疲労具合も確認したかったし。」と父。
「私はタックしか見てなかったから。」と母
僕の両親は普段はしっかりしているが僕に甘い。
子供に甘いというわけではない。兄には厳しかったと思う。
兄がしっかりしててあまり手が掛からなかい子供だったことに対して、僕は何故か魔法が使えないという謎のハンデを負っていたから余計に気をかけたのだろう。
この世界ではある一定以上の職に就くための基準として学校を卒業していることというものがある。
学校を卒業すること自体が、素養・知識・性格に問題がないことの証明になるのだ。
ただ、帝国の学校は魔法が使えないと卒業できないので、通常であれば僕は商会に入ることができなかった。
両親はタッキナルディ商会に僕専用の事務職をつくり、僕をその枠で雇用しようとしていた。
そんな僕の両親に対して、王国の学校は魔法が使えなくても卒業できるぞと選択肢を提示してくれたのがトリィのお父さんだった。
家の中で甘やかすのはまだしも、商会でも特別扱いするのは僕にとっても良くないから何かしら理由をつけて少し親元から離そうとしたんだと、学校を卒業するときにトリィのお父さんから聞いた。
僕も困っていたので大変助かった。
前世の記憶から、これは商会の他のメンバーとの軋轢を生む扱いだとわかっていたからだ。
レイスリン王国に旅立つ時、母さんは僕を離さないぐらいの勢いで反対していたが、帰省するたびに大きくなる僕を見てだんだん心配事を口にしなくなっていった。
「まあ、テムステイ山の人には帰ったら会わせてくれ。明日の朝でもかまわんから。」
とテムステイ山の興味を先延ばしにした父さんに黙って首を縦に振る。
「アドリアーナの名前が出たけど、まだタックと結婚するって言ってるの?」
と話題に出たアド姉に関して質問してくる母さん。
「そうだね。まだ言ってる。」
と僕は苦笑いしながら答えた。
「アドリアーナは結局あなたと一緒に来なかったの?」
「途中まで一緒だったんだけど、テムステイ山を僕が制圧したことを司教領にも説明してくるって言って別れたんだ。」
「アドリアーナは司教領に行った。ということは王国にも誰か連絡に行ってるのか?」
「僕の部下がテムステイ山の人と一緒に行ってるよ。」
「部下?ああ、そうか。タックは王国の男爵を叙爵したんだっけ?」
「父さんだって帝国から子爵を叙爵したんでしょ。」
「父さんはなりたくてなったんじゃないからな。お前とロッコが他国と縁を結んだことをやっかむやつらがうるさいから仕方なくだ。」
「僕だってなりたくてなったわけじゃない。」
とお互い叙爵した経緯を説明しているうちに移動時間は終わってしまった。
「そろそろ城に着くわよ。レッドもタックも降りる準備しなさい。」
母さんが話に夢中になっている僕たちにあきれたように声をかける。
そういえば帝国のお作法とか全然知らないや。どうしよう。
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