第086話 ヒビキの強化
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向かいの席を進めるとヒビキは素直に座った。
丸テーブルの僕の左隣に座っているトリィをちらりと見るが僕の方は向いてくれない。
追加で注文しようかと聞いたが、先ほどエヴァに持って行ってもらったものでお腹いっぱいだそうだ。
「話があるって聞いたんだけど。」
早く言ってほしい。そう言いたげだった。本題から入るか。
「ヒビキはどんな魔道具があったら護衛がやりやすいかと思ってね。」
と言うと、ちらりとトリィを見てようやく僕を見る。
「護衛は辞めないから大丈夫よ。強化もいらないわ。」
「辞めないと断言してもらえるのは助かる。それはそれとして強化を検討したい。」
「エヴァちゃんとガブリエラちゃんがいるのに? それに新しく2人雇ったでしょ。」
「人手は必要だから金銭の及ぶ範囲の中では増やしたい。でもそれとは別に今いるメンバーにも強くなっててほしいんだ。」
「何故?」
「テムステイ山では大事に至らなかった。いや、厳密には大事に至ったんだけど、人命にかかわるようなことにはならなかったよね?」
「そうね。」
とヒビキは首肯する。
「だけど、さっき帝国貴族の子弟にちょっかい出された時は実は危なかったと僕は思っている。」
「そうなの?」
「エヴァとガブリエラが僕を気づかって攻撃をふせいでくれたのだけど、一歩間違えると相手に口実を与えることにもなりかねない。あれがもし貴族の子弟でなくて貴族本人だったら、帝国も引っ込みがつかなくなるはずだ。」
「・・・」
「エヴァとガブリエラがすぐにそこまで察して動けるようになるとは思えない。ブルックリンとステラにしても純粋に戦力としては数えられるけど、貴族のお作法とかには詳しくないから会合等の護衛は不向きだ。」
「ちょっと待って。帝都はあなたのご家族に会いに行くだけでしょう?なんで貴族に面会する流れになってるの?」
「うん、さっきのドレッドのお兄さんの様子を見ると、グリフィス辺境伯は自分で確認し終わるまでテムステイ山が制圧されたことを、帝都に伝えないみたいだから、もう直接言いに行こうかと。」
「待ってていいんじゃないの?」
「それは僕も考えたんだけど、制圧した人間がおひざ元まで来たのに何も言わずに出ていくって帝国の人からどうしたらどう見えるだろうかと。」
「タックに良い印象を持ってくれるとは思えないわね。」
とトリィが言う。
そう、わざわざ知らせてやるような義理もない。と帝国を軽視したとも取られかねない。
グリフィス辺境伯には伝えたんですよ。と言ったところで聞いてはくれないだろう。
最悪、僕が失礼な人間だと思われるのはしょうがないとしてもタッキナルディ商会の邪魔をして、両親に迷惑はかけたくなかった。
「ということで帝都についたら、会ってくれそうな貴族に顔だけ出そうと思う。その際に護衛として同席できそうなのはヒビキだけなので、ヒビキの強化は必須です。」
「ちょ、ちょっと待って。トリィがいるじゃない。」
と導き出された結論に反論しようとするヒビキだが、
「トリィは僕の奥さんと言うことで紹介するので、帯剣できません。指輪、腕輪で守備力は向上できるけど。」
「それに私はドレスを着ることになるだろうから、万一の時も大立ち回りなんか無理そうね。」
「あなたたち、こういう時は息ピッタリよね。」
とヒビキはため息をついた。
「納得してもらえたようでうれしいよ。」
「あきらめたのよ!」
うん、まあそこはどっちでもいいんだ。
「ヒビキが護衛にふさわしいように地力をつけていくって言ってくれたのはうれしいのだけど、対象を守ることに関しては手段を選ばないで欲しいのよ。」
とトリィがヒビキに言う。
そんな事いつ言ったの?と聞いたところ、トリィがヒビキを説得して、ヒビキがそれを了承した時にそういうことを言ったらしい。
「そもそも使う道具を一流品でそろえて備えておくのは、騎士としても魔導士としても正道じゃないの?」
とヒビキに聞くと、
「それは否定しないけど、アニストン家は一度公式大会に国宝持ち出してるでしょ。相手より道具が少しでも良いと、すぐに揶揄されちゃうから。」
とあまり武具・道具の手入れはきちんとするものの、良い物に買い替える、良い物を足すという発想になかなか切り替えられないということだった。
「トッドもそうなのかな?」
と聞くと
「あの子の方がその傾向は強いわね。何せ国宝使った当事者だから私以上にいろいろ言われてるはずよ。」
とヒビキが答える。
なるほど、物に頼らず、自分の能力をあげることで期待に応えたいと思ってたことは理解した。
でも僕の護衛が装備をけちった結果、本来あるべき戦力が落ちているのはよろしくない。
「こだわる理由はわかったけど、忘れてもらおう。僕ができる範囲でヒビキとトッドの戦力増強に務めるよ。」
「そう言ってくれるのはうれしいけど・・・、普通で良いのよ。」
「大丈夫。試作ひ、いや魔道具は一杯あるから。」
「試作?今試作品って言おうとしなかった?!」
「いやだなぁ、言ってないよ。大船に乗ったつもりで待っててくれ。」
ヒビキは不安そうな顔をするので、安心させるようににっこり微笑んで見せたがより不安そうな顔をされた。解せぬ。
トリィも仕方ないからあきらめて。といわんばかりにヒビキの肩を叩かないで欲しい。
そんな2人を見て、絶対にこの道具がないと困ると言わせてやるんだからな。
と誓う僕だった。
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