第085話 新入りの2人
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お昼に選んだのはピザ屋だった。
ピザと表現したが、前世のように具材の上にチーズが乗っているわけではない。
小麦などを練った生地を薄く伸ばし、その上に具材を乗せ、窯で焼いたものなのでピザと表現しているだけだ。
飽きないように具材を少しずつ変えているそうだが、仕入れ量にも寄るので同じものをもう1枚と頼まれてもできないこともあるそうだ。
馬車番が引き続き必要なので、僕、トリィ、エヴァ、女剣士(ブルックリンという名前だそうだ)の4人でまず入る。
水を持って来てくれた給仕の女性に、あなたがお勧めするものを4つほど持って来てください。と言う。
始めてきた店だし、メニュー表や具材リストと言うものもなかったので、そうした。
給仕の女性もそのような頼み方をする客が少なくないのか、軽く首肯するとキッチンに戻り、奥に何かを伝えていた。何が来るか楽しみにしたいので、特に聞き耳を立てることもない。
奴隷なのに僕と同席して問題ないのかととまどう女剣士に、テーブルの向かいに座るように勧める。
「さてと、エヴァとは親しくなったようだけど、ちゃんと挨拶してなかったね。タック・タッキナルディという。」
黒髪黒目と小麦色の肌の20台半ばぐらいの女性は僕とまっすぐ視線を交わすと堂々と名乗り始めた。
「ブルックリン・チャスクと言う。銀級の冒険者だ。いや、だった。パーティでは前衛を担当している。」
銀級の位置づけがわからずと問い直すと、貨幣と同じように金属名でランキングされており、下から銅級、銀級、金級、白金級となっているそうだ。
厳密には銅級以下の見習い級や白金級以上の伝説レベルの級もあるらしいが本題ではないので詳しくは聞いていない。
銀級とは銅級で5年前後の実績を積み、特に大きな瑕疵もなく務めた者がなれる級らしい。
文盲なのに銀級になれたのかというと、もともと女弓手(ステラと言う名前だそうだ。)も含めた女4人でパーティを組んでいたが、最近文字の読めるメンバーに子供ができたためパーティは休止状態(実質解散状態)となっていたらしい。
装備を新調して物入りだった時に、知り合いからユニコーン奪還のクエストを紹介され、今回の事態になったそうだ。ちなみにエヴァと対峙した次の瞬間に倒されて、何をされたのかは未だにさっぱりわからないらしい。
干し肉を薄くスライスしたものや、ピーマンらしき野菜を輪切りにしたものが乗ったピザもどきを次々と平らげながら、淡々と身の上を語るブルックリン。
特に怪しい経緯もなさそうだ。
最後に「給金は払うから自分を買い上げられる金額になったら奴隷から解放するぞ。」と言うと、驚いた顔で「給金くれるんですか?」と聞き返してくる。どんなブラック企業だと思ってるんだ。
神様を見るような目で見られたが、「リッキー達から文字の読み書きを教えてもらえ。」と指示するとこの世の終わりのような顔をしていた。残念ながら組織の一員となるといちいち口頭連絡ばかりとも限らない。紙で伝えることもあるだろうから読み書きは必須だ。
奴隷から解放した後に役立つだろうからこれもクエストの一部として頑張ってほしい。
肩を落としながらもピザをつまんだまま馬車番に戻るブルックリン。エヴァにピザを馬車番のメンバーに渡してもらうように頼み、代わりにガブリエラと女弓手にテーブルに来てもらうように頼む。
ステラもブルックリン同様、僕と同席することをためらっていたが、向かいに座るように指示すると観念したように座った。
「ステラ・チャスク。銀級の冒険者でした。パーティでは後衛の弓手を担当してました。」
ブルックリンと同年代で金髪碧目で白肌の女性は自己紹介を促すとこう名乗った。
ブルックリンと同性だが血縁ではないそうだ。その村では姓を持っていた人間は少なく、チャスクと言うのは村の名前らしい。
ブルックリン同様何かを新調したので金がなかったのかと聞くと、そうではなくブルックリンは装備の新調にあたりステラから金を借りていたらしい。
完全にブルックリンに巻き込まれた格好だが、自分は運がないとあきらめてブルックリンに付き合うことにしたらしい。
友達思いなのだな。というと友達運がないだけですと答えられた。
最後にブルックリン同様、給金で自分を買い上げることは可能と伝えると、2人同時に開放してほしいと言ってきた。やっぱり友達思いだと思うが、否定するだけだと思うのであえて口にはしない。
ステラはブルックリン同様淡々としゃべってよく食べる。
村が貧しかったので食べられるときに食べる習慣がついているそうだ。
食費は給金から引いてください。報酬も食事でほとんど消えてました。というステラに苦笑いしながら了承する。
あとリッキー達に文字の読み書きを習うように伝えると喜んでいた。
自分でもこのままだとまずいということは理解していたようだ。
これで新入り2人の面談は終了。
ステラとガブリエラに馬車番に戻ってもらい、代わりにヒビキにテーブルに来てもらうように言づける。
エヴァとガブリエラとはしゃべらないのかって?
2人は最初から最後までずっと食べ続けてた。
テムステイ山の食事は塩だけだったり、柑橘類を絞ったものをかけるぐらいだったので、今回の胡椒だったりトマトケチャップ的な味付けは斬新だったらしい。
そう言われてみればあそこでもらった朝食も
パン(無味)、サラダ(レモン汁)、卵(塩)、腸詰(塩)
だったわ。素朴な味と思いながら素直に食べたが彼女たちからするとそれしかなかったというのが正解のようだ。
ステラとガブリエラが戻ってしばらくして、ヒビキがテーブルに来た。
ちゃんと話すのはこないだ泣かれて以来なので少し緊張する。
これまでどおり護衛を続けてくれると良いのだけど。
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