第084話 帝国貴族子弟を懲らしめたい
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ドレッドはとっくに僕を見ずに、トリィ達を見ていた。
トリィがこれ以上汚れないように、ドレッドの前に身体を滑り込ませる。
「あ?どうした?あとは私にまかせて、君はどこにでも行きたまえ。」
と寝言をほざくドレッド。
「ドレッド殿の帝国貴族としての心得、大変感服しました。」
「うん?わかったのなら早く退きたまえよ。」
「博識のドレッド殿に教えていただきたいことがもう一つありまして。」
と言うとドレッドは横にいた体格の良い2人を向き、
「どけろ、私は忙しい。」
と言う。もう説明は終わったとでも言わんばかりだった。
指示を受けた男2人が、僕の肩をつかもうと手を伸ばす。
つかまれたら、こちらの身分を明かしてドレッドをつぶそう。
だが、男たちの手が僕の肩に届くことはなかった。
「マスターに何をしようとしているの?」
とガブリエラが右の男の手をはらいのけ、
「主どのにその汚い手を近づけるでない。」
とエヴァが左の男の手を握っていたから。
右の男は払いのけられた時、筋でも痛めたのか二の腕を抑えたままうずくまり、左の男はエヴァの手をふりほどこうともがいていたが、エヴァの手のあたりで何かが割れるような音がしたかと思うと、口から泡を出して失神した。
エヴァが抵抗を鬱陶しいと思い、つぶしたようだ。
「マスターはなんで抵抗しない?」
とガブリエラはこちらを振り返り不思議そうに聞く。
「こいつが先に手を出したって大義名分が欲しかったんだよ。」
とガブリエラに教えてあげる。
トリィとヒビキは察して僕に手を出されるまでこらえたようだが、エヴァとガブリエラはそうもいかなかったようだ。
申し訳なさそうにするガブリエラの頭をなでて問題ないから大丈夫。と声をかける。
「た、大義名分?貴様、伯爵と子爵はどちらが上かも知らんのか?」
抵抗されたことにおどろいたのか、動揺しながらもドレッドが叫ぶ。
「それぐらい知ってる。じゃあ逆に聞くが、伯爵の子供と男爵だったらどっちが上なんだ?」
「だ、男爵? 貴様何を言っている?」
お供が二人とも倒されて、不安になったようだ。
「質問に質問で返すな。伯爵の子息と男爵ではどちらが上かと聞いているんだ。答えろ。」
エヴァとガブリエラに逃げ道を抑えられたことに観念して答えるドレッド。
「だ、男爵だ。」
「そうか、では改めて名乗ろう。タック・タッキナルディ。レイスリン王国で男爵位についている。」
とにっこりと告げる。
「え、男爵?、王国? いや、貴様は、いや、あなた様はタッキナルディ子爵を父と。」
と言ったところで、何かに気付いたようだがもう遅い。
「そちらも嘘じゃない。親子で異なる国からほぼ同時期に貴族位を受領したというだけだ。」
「な、なんでここに王国貴族が?」
「オラゾーラ侯爵領の寄子に連なる者なのに聞いてないのか?こちらのお嬢様との婚姻の手続きのためにレイスリン王国から使者が来ると。」
ここまで言うとドレッドは真っ青な顔をして震え始めた。
勘違いというか勝手な思い込みから自分が何をしたのか気づいたようだ。
貴族の立場を悪用するという意味ではこいつと同レベルと言うのが非常にムカつくが、これが一番手っ取り早いから仕方がない。
こんな手を取らせたドレッドが何もかも悪い。
どんな目にあわせてやろうかと考えていると、思ったより時間がかかってしまったようだ。
いつのまにか周囲を20~30名ほどの武装した兵士たちに囲まれてしまっていた。
武装はしているが、抜剣はしていない。
兵士たちの中から1人代表者が出てくると、
「オラゾーラ侯爵領治安部隊の者です。 商業ギルドで騒ぎを起こしたのはあなたたちですか?」
と聞いてきた。
◇◇◇◇◇
僕がドレッドを懲らしめてやることはかなわなかった。
今僕の前にはドレッドが床に頭を叩きつけられている。
横で同様に跪いて僕に頭を下げている男性がドレッドの頭を押さえつけている。
男性はドレッドの兄だそうだ。
出会った時から憤怒の表情なので、素がどんな顔なのかはわからない。
ここはオラゾーラ侯爵領治安部隊隊舎の一室である。
ただの商業ギルド前の騒ぎと聞いてかけつけた治安部隊だったが、帝国貴族子弟と王国貴族のトラブルということで急遽あわただしくなった。
まずは聴取させてほしいということでドレッドと僕たちは治安部隊の隊舎まで移動する。
ただ残って周囲の人たちに聞き込みをした隊員の話で、ちょうど僕たちに馬車を引き渡そうとして表に出ていた商業ギルドの女性をはじめ、幾人かが証人となり、悪いのはドレッドということになったのだが、そこは腐っても貴族子弟。
法規通りさばいてよいかと上へのお伺いが連鎖した結果、侯爵家は大騒ぎになり、事態の収拾を命じられたドレッドのお兄さんがここに駆け付けたということらしい。
ドレッドは僕の目の前に連れてこられた時にすでに、顔中こぶとあざだらけで殴るところがなくなっていた。
殴ったのは全部このお兄さんらしい。ひどい話である。
一瞬ラナ王女から教えてもらった回復魔法で治してから殴ろうかと思ったが、せっかく教えてもらった魔法をこんなやつに使うのも申し訳ないのでやめた。
頭を下げたままのドレッドのお兄さんに聞く。もうドレッドとは口も聞きたくない。
「私が謝罪を受け入れたとして、ドレッド氏はこの後どうなりますか?」
「隣のグリフィス辺境伯のところでテムステイ山の哨戒任務にあてる。前線で性根を叩きなおしてもらうつもりだ。」
「性根を叩きなおすのは別の所にしてください。」
「な、何故だろうか?」
と顔をあげて不思議そうな顔をするドレッド兄。
「テムステイ山は先日私が制圧してますので。哨戒しても何も起こりませんよ。」
と告げると目をむく。
「グリフィス辺境伯にもお伝えしたつもりですが、まだ聞かれてませんか?ユニコーンもそこで入手したのですが。」
「す、すまない。私のところには届いていない。急ぎ戻って確認する。」
いや、あんたはドレッドのことで来たんじゃないのか。
と心の中でつっこんだが、僕の発言が衝撃すぎてそれどころでもないようだ。
「ドレッド氏がもう2度と我が家の人間の前に出てこないようにお願いします。」
と脅迫とも取られかねない表現で頼んだが、一も二もなくうなづくとドレッドを引きずるようにして帰っていった。
ドレッド達の姿が見えなくなったので、治安部隊隊長に僕たちも引き上げてよいか聞く。
主犯が帰ったのに僕たちだけ引き留めてもしょうがないと思ったのだろう。
宿泊先だけ伝えると、僕たちも引き上げてよいということになった。
明日の朝から帝都に行くと伝えると、隊長から申し出があった。
明日の朝までに護衛を選別する。宿で合流させたいのでそれまで出発は待ってほしいそうだ。
王国の人間だけで帝国内を移動すると今回のようなトラブルに遭遇すると大変なので、護衛は必要とのこと。
さらに僕たちはユニコーンと言う幻獣をこれ見よがしにさらしての移動なので、隊長の懸念は至極もっともだ。
了承すると、一緒に隊舎まで運ばれた馬車3台を持って来てくれた。
もちろんユニコーンも一緒だ。
どたばたして時間を食ってしまったがまだいろいろやらねばならないことが残っている。
3台の馬車に分乗し商店街に向かう。
ここで荷物を買うついでに遅い昼食を取るつもりだ。
ついでにグリフィス辺境伯領で参加した元冒険者と面談するとしよう。
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