第081話 冒険者ギルド説得
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「制圧・・・した?テムステイ山を?」
とザナックはつぶやくように言う。
ザナックの奥さんも手に抱えていた書類を落としてしまう。
「ああ、だからユニコーンを従えている。」
「馬鹿な、王国が単独遠征を計画してるなんて情報どこからも・・・」
「王国が軍を出したんじゃない。僕が・・・僕の家の者だけで制圧した。」
僕が制圧したと言いかけたが、実質何もしてない。
魔道具の実験をしたことによる副産物みたいなものなので、少し表現を変えた。
「2頭のユニコーンを無傷で従えてることからそれなりに実力があるとはわかります。ただ、私たちもあなたの言葉だけを根拠にクエストを取り下げることはできません。」
とザナックの奥さんが言う。
確かに、今回貴族の依頼をうのみにしてユニコーンの生け捕りクエストを、状況確認をせずに掲示してしまったギルドとしては、僕の言葉だけでテムステイ山のクエストをすべて取り下げることはできないだろう。
「すでにいくつかクエストを受けて動いているパーティもいます。彼らはどうなりますか?」
とザナックが聞いてくる。
一瞬、お留守番として残している鬼人の顔が脳裏に浮かぶ。
「殺すな。とは命じているから多分クエスト失敗で戻って来るだろう。」
「わ、わかりました。3番目の依頼は確認が取れ次第ただちにということでよろしいでしょうか。」
「僕は良いが、けが人が少しでも増えないように急いだ方が良いと思うよ。あー、でも魔獣を単騎で狩れるぐらいの冒険者なら無事に帰れるかも。」
「そんな者はギルドにも片手で足りるぐらいしかいません。」
片手ぐらいはいるのか・・・
辺境伯領の冒険者で片手と言うことは、単純に面積で比較すると帝国全土で50人ぐらいか。
冒険者だけでそれということは兵士や騎士にもいるだろうから・・・
やっぱり本格的に国と戦争となるとテムステイ山のメンツは数が足りないな。
アド姉の見立ては正しい。
うまく立ち振る舞わないと。
「じゃあ、最初の2つの依頼の準備をしてきます。」
床に落とした資料を拾い終えたザナックの奥さんがそう言い、部屋を出ていく。
「すぐ準備できると思うんでここでお待ちください。」
と残ったザナックが僕たちをここにとどめる。
時間があるなら馬車組と山組の状況確認でもしてみるか・・・
『ガブリエラ、今大丈夫か?』
『はい、問題ありません。』
『そっちは何か問題起こってる?』
『いえ、ユニコーンの周りに人集まってますが、特には。』
『ほかの3人(エヴァ、ミア、リッキー)にも聞いてくれる?』
ガブリエラを信じないわけではないが、感覚の違いがありそうなので、確認してもらう。
しばらくしてから
『特にないそうです。』
うむ、馬車組は問題なし。
次にっと、頭の上で僕の髪にくるまって寝ていた妖精をつまんで、目の前のテーブルに置く。
「マスター、どうされました?」
テーブルに寝そべったまま聞いてくる妖精
「ブルーノに連絡とりたいんだけど、冒険者の対処状況ってどうなってるか聞いてくれる?」
「了解しました。」
と目をつぶって黙る妖精
「ボアを追って侵入した2組を捕縛&放逐。薬草採取に侵入した3組と1人を脅は・・・、もとい説得して出て行ってもらったそうです。」
ほぼ言ってるから説得って言い直さんでもよろしい。
あの鬼顔で脅迫されたら逃げ出しそうな気はする。
「他に困ったことはないか聞いてくれる?」
「・・・何一つ問題はない。だそうです。」
不安だ。
「ブルーノ以外の居残り組にも何か困ったことないか聞いてくれる。」
「・・・いろいろあるので整理しますね。少々お待ちください。」
まあ、みんな同列にして数百人の意見を聞くとそうもなるか。
無茶を言ってしまったな。
「アギレラ、緊急のものがなければ、あとでまとめて聞くよ。」
「了解しました。ご都合の良い時にお声かけ下さい。」
ここで向かいに座っているザナックの視線に気づく。
「どうかした?」
「まさかと思いますが・・・妖精ですか?」
あっ・・・
「譲らないよ。」
「いえ、その妖精もタックナルディ様の?」
「うん、部下だ。」
「ユニコーン以外にもいるのであれば、見せていただければすぐにクエスト止めましたのに。」
と言いながら、ザナックは扉を開けたところから部下を呼び、何かしら指示をしていた。
どうやらテムステイ山関連クエストの取り下げを指示してくれたらしい。
そこへ、ザナックの奥さんが戻って来て、準備ができたことを伝えてくれる。
そろそろ、ローラさんとの待ち合わせ時間なので、オラゾーラ侯爵領側の門に移動しないと。
外に出ると僕たちの馬車の前後に1台ずつ馬車が並べてあった。
ギルド所有のものだそうだ。オラゾーラ侯爵領で新しく買うつもりなので別に問題はない。
それぞれの馬車には先ほどまで後ろ手で縛られていた中の女性2人が待機していた。
剣士、弓手の2人組のパーティだったそうだ。
また女が・・・とつぶやくトリィに気遣い、挨拶もそこそこに2台の馬車に分乗してもらい御者を頼むことにする。
1台目:御者 女剣士 乗員 ガブリエラ、ヒビキ
2台目:御者 リッキー 乗員 僕 トリィ
3台目:御者 女弓手 乗員 エヴァ、ミア
といった格好だ。
ザナックの奥さんが軽食も積んでくれていたので助かった。
人を雇うのにそこら辺の準備が全くなかった。考慮してないのはまずい。気を付けないと。
さすがのミアも乗員を増やすまでは想定してなくて7人分しか準備してなかったらしい。
ローラさん達イニレ家一行と再合流しオラゾーラ領に向かう。
出発してすぐにリッキーに昨日のローラさんとのやりとりを小窓越しに伝える。
もともとリッキーの雇用はローラさんと合流するまでと言う話だったが、僕がバタバタしていたので落ち着くまで待ってくれてたようだった。
勘当は解かれないという結果に落ち込むかと思ったが、あっさりと
「ではタック様にお世話になりたいとおもいます。」
と言った。
「良いのか?僕とは出会いは最悪だったけど。」
と言うと、
「そのことは忘れてください。」
と御者台で笑いながら言う。まあリッキーが気にしないならいいけど。
じゃあオラゾーラ領に着いたら改めて契約書を書くよ。
とリッキーに伝え終え、小窓から目線を戻すと真正面に座っていたトリィと目が合う。
目が合うと同時に口に手をあて笑いだした。
「どうしたの?」
「出会いは最悪とか言いながら、なんだかんだ面倒見は良いわよね。タックは。」
「良いかな?」
「ええ、良いと思うわ。冒険者をクビになった人も雇ったし。」
「単純に盗みに来た奴は雇ってないぞ、文盲で騙されるというのもかわいそうだからだ。」
「普通はそれでも雇わないのよ。」
「・・・」
「自分ともめた貴族子弟を雇うし、自分をさらった魔獣たちのTOPになるし。」
「ほっとけないんだからしょうがないだろ。」
「そうね、そこがぃぃんだし。」
「え?」
「なんでもないわ。それより今日は移動中に魔道具作らなくていいの?」
「そうだ。昨日もバタバタして作れてないし、今日は頑張らないと。」
とつかの間の通常運転にいそしむ僕だった。
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