第080話 ギルドマスター
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ここで用件を話せという自称ギルドマスター。
だがここは普通に街中で、左右を人が行き来している。
ユニコーンが引く馬車もいるためか、物珍しそうに立ち止まっている見ている人が数人いるが、ギルドマスターと名乗るこの男を”偽物”と言う人もいないので多分この人は本物なのだろう。
馬車を降りて、僕だけギルドマスターを名乗る男性=ザナックに近づく。
みなにはその場にとどまるように伝えたが、トリィだけは僕の後ろについてきた。
護衛も兼ねて昨日の”ずっと一緒にいる”という発言を実践するようだ。
僕は手ぶらだけど、護衛としては腰にミクラを携えてるし、ウィンも左手に巻き付いてるのだけど。
「僕としては何もやましいことはないのでこの往来で話してもいいのだけど、そちらは大丈夫?」
とお互いが普通に会話できる距離に近づくとザナックに声をかける。
30代後半から40代前半と言ったところだろうか。目つきが鋭いおじさんだった。
「うちのギルメンを縛ってさらしものにしておきながら何もやましくないってのは理解できねーな。」
と噛みつかんばかりの表情で言い放つザナック。
「この人たちは、僕の泊ってた宿に盗みに入ってきた人たちなんだけど。」
「何ぃ?」
「今の話だと冒険者ギルドは盗みを容認していたってことになるけど?」
「おいっ、てめえらどういうこった?この若造の話は本当か!?」
ザナックは僕の後ろで縛られている盗人たちに声をかける。
誰もしゃべらない。顔を伏せたままだ。
別に猿轡までしているわけではないからしゃべることはできるはずだけど。
「ザナック殿、往来でのやりとりは迷惑だ。ギルドの中でやらないかね。」
馬車から降りて来たらしいアザール子爵も会話に加わる。
「ギルドは今、急増したユニコーン生け捕りのクエストでてんやわんやなんだよ!」
はあ?!
「ここ80年ほどテムステイ山から出てこないと思ってたら昨日発見されたっていうじゃねーか。それも2頭も。帝国中から依頼がいっぱいきてるぜ。中には80年前の落札価格の5倍出すって家もあるらしい。」
ほほう。5倍・・・。横にいる子爵の顔がゆがむのがわかる。
珍しいはずなのに相場という表現をつかうのでおかしいと思ったんだ。
コーヒー何杯分とかって身近な表現で錯覚させる商法はこちらの世界でもあるのだろう。
売る気は全くないけど金額的価値はきちんと確認した方がいいかもしれない。
「なあ、ザナックさん。そのユニコーンってあれのこと?」
熱く語るザナックに向けてうちの馬車を引いている馬を指さす。
「あ?あのなユニコーンに馬車引かせるような奴がいるわけ・・・。」
と言いながらも僕の指す方向を改めて確認したらしく、口がポカーンと空き、つかんでいたバスタードソードを落としかける。
「に、兄ちゃんたちが捕まえたのか?」
「いや、もともと2頭とも僕のだよ。今のところ売るつもりはない。今ギルドに行こうとしてたのは、ギルドにかかってるユニコーンがらみのクエストを全部取り下げるようにお願いするためだ。」
「タッキナルディ男爵!売るつもりがないとはどういうことですか!?私に売って下さるのではないのですか!?」
ザナックに答えたつもりだが、横からアザール子爵が口をはさむ。
「アザール子爵、私は売るといった記憶はありません。盗人が出回っていてあなたとの交渉の場につくことすらできないと言っただけです。」
「で、では何故交渉の窓口を設けていたのです?」
「譲ってくれと言う有象無象が大挙して押し寄せたからです。少なくとも金額ではふるいに落とせるでしょう?もっとも・・・」
と言いながら後ろを向き、
「交渉人が減った代わりに盗人が増えてしまったので、どちらにしても手間はかかりましたが。」
「あ、あんた貴族なのか?し、失礼した。」
とあわてて頭を下げるザナック。
「ああ、別に無理しなくても良いですよ。貴族といって王国貴族ですから不敬と言ってあなたを罰したりできませんし。」
「だめよ、タック。王国貴族は帝国では外賓としてあつかわれるんだから。王国で同じ扱いされ返したらどうするって、帝国の貴族からこの人が怒られるわ。慣れてなくてもがんばって敬意を払ってもらわらないと。」
と後ろからこっそりとトリィが口添えする。
こっそりと言いながらザナックには十分聞こえる声量だ。
ザナックはげっそりとした表情を浮かべながら、言葉を選んで僕たちに告げた。
「わかりました。ギルドで部屋を準備いたします。ついて来てください。」
◇◇◇◇◇
ギルドについて、ザナックに中に案内される。
ユニコーンを譲ってもらえないとわかったアザール子爵はすごすごと帰っていった。
交渉できたとしても相場の5倍の話があると勝てないのだけど。
あと捕まったギルドメンバーがアザール子爵の馬車を見ていたのはアザール子爵がそそのかしたわけではないが、犯行に及んだのは名を明かさない貴族から裏から圧力かけられたことによるものなので、貴族を代表して恨みの目を向けられたようだ。
中は喧騒としていたが、ザナックが”ユニコーンがらみのクエストが達成された。”と告げると8割ほどの人間が解散した。ザナックによるとこれぐらいの人数が通常だそうだ。
2階に案内され、上がってすぐの客室に通される。
ここまで来たのは僕とトリィとヒビキの3人。
残りの4人は馬車で待機。引き続きユニコーンと馬車の番だ。
明るいし、ギルドの目の前で何かするとも思えないけど用心は必要だ。
出された飲み物を飲んでいると、ザナックが1人の女性を連れて現れた。
「家内です。ここの副ギルド長をしています。」
ザナックにそう紹介された女性は、手元に大量の書類を抱えたまま、頭を深く下げる。
「タッキナルディ男爵様、このたびは当ギルドの不手際で大変ご迷惑をおかけしました。」
不手際?何が?となっているとザナックの奥さんが以下の補足してくれた。
・本来クエスト依頼が来た場合、内容を精査して犯罪に加担することにならないか確認する。
・だが、今回ユニコーンを目にした貴族経由で依頼が来たため、すでに人の物でないかどうかの確認がおろそかにされたままクエストを開示してしまった。
・僕たちが捕まえたやつを聴取すると、僕たちをただの冒険者と思ったらしく、横取りを画策したらしい。
・馬車が1台しかないこと、貴族としてのタッキナルディ家の馬車ではなくタッキナルディ商会のものだと思ったそうだ。(商会ならいいのかと思わなくもないが。)
「20人がかりで横取りしようとしたんですか?」
と聞くと、20人のうち10人以上は文盲らしく、違うクエストだと騙されて参加したそうだ。
どんなクエストか聞くと「盗まれたユニコーンを取り戻すクエスト」とのこと。
確認しないにもほどがあるだろ。でも文盲だと確認できないのか・・・
「その20人はどうなりますか?」
と聞くと冒険者ギルドからの追放&犯罪奴隷落ちだそうだ。
自分自身で罰金を払うことで奴隷落ちを免れることができるが、
クエストを偽ったものはそもそもの罰金が高いので奴隷落ち確定。
文盲で騙されたもののうち何人かも罰金が払えず奴隷落ちするだろうとのことだ。
「それで今回ご迷惑をおかけしたことに対する賠償金なのですが・・・」
と覚悟して切り出すザナックとその奥さんに
「お金はいらない。代わりに今から言うことをやってほしい。」
と切り出す。
ザナックと奥さんはその言葉を聞いて、身構える。
賠償金の代わりなのでかなりの難題を覚悟しているようだ。
「何、難しいことはあんまりない。3つだけだしすぐできる。」
と安心させるために言ってみたがザナックと奥さんの表情は変わらない。
「1つ、このあとすぐにオラゾーラ侯爵領に移動したいがユニコーンの馬車だけだと心もとないのでそこまでの馬車を2台手配してほしい。」
ザナックが奥さんを見て、奥さんがうなづく。あてはあるようだ。
「2つ、その馬車に乗る護衛が欲しい。人の物を盗もうってやつは困る。文字は読めなくてもいい。」
ザナックと奥さんが顔を見合わせる。
何かザナックがうれしそうに僕を見るがそうそう世の中甘くない。
「3つ、ユニコーンに限らず、テムステイ山に関するあらゆるクエストを停止してほしい。」
ここでザナックと奥さんがきょとんとした顔になる。
「あの、1つ目と2つ目はわかりました。3つ目も可能ですが、理由をお伺いしても。」
とおずおずと聞いてくるザナックに
「僕がテムステイ山を制圧したから。占有地の勝手な出入りを止めさせるのは当然だろ。」
と答えると、ザナックは先ほどユニコーンを目にした時よりも口を開き、唖然としていた。
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(2月18日 誤字指摘ありがとうございました。)




