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第079話 帝国貴族登場

 翌朝はトリィに起こされた。

 といってもベッドの中で揺すられるような甘い起こされ方ではない。

 彼女はとっくに着替え終わっており、ほっぺをつねるという荒い起こされ方だった。

「起きて。今日はここの冒険者ギルドに行くんでしょ。」

 と言われ、あわてて起き出す。

 テムステイ山に関するクエストをすべて破棄してもらうようにお願いするという難易度高めのミッションだから、交渉時間はなるべくあった方が良い。

 ローラさんがグリフィス辺境伯に挨拶している間を使うので、制限時間はそれがおわるまでだ。


 ミアが手配してくれた朝食を済ませ、宿を出ようとしたところ、身なりのよい紳士が1人僕に近づいて来た。薄紫色の髪がきれいになでつけられている。

 身長は僕と同じくらいで細身の男性で、髪と同じ色の瞳をしている。

「失礼、レイスリン王国のタック・タッキナルディ男爵でしょうか。私はアントニオ・アザーラと申します。ミゼラ帝国の子爵であります。」

 このタイミングで僕に近づく人間はユニコーンがらみしかない。

 そう思い、歩きながら交渉はリッキーにと言おうとしたが、相手が貴族と名乗ったので足を止める。

 さすがに失礼にあたるのでリッキーにはまかせられない。

「なんでしょう。」

「私、この周辺を管轄しておられるグリフィス辺境伯の寄子でして、貴公が昨日帝国に持ち込んだユニコーンを譲っていただけないかと思い、挨拶に伺った次第です。」

 にこやかに表情を浮かべているが、なんとしても譲ってもらう。そんな決意が見て取れた。

 辺境伯の寄子というところが面倒くさい。寄親に良いところ見せようという意気込みを隠してない。

 でもね。そうまでおっしゃるならちょっとお手伝い願いましょうかね。

「なるほど。わざわざ挨拶に来ていただいて申し訳ないが、我々は今日中にオラゾーラ侯爵領に移動せねばならぬ身。交渉に避ける時間はないのです。」

 するとアザーラ子爵はニコリと微笑み

「はい、お忙しい状況は理解しております。ですので今回相場の倍の金額を準備した次第でして。」

 ユニコーンに相場なんかあるんだ。と思ったが表情には出さない。

 アザーラ子爵は僕が交渉の土俵に乗ってきたと思ったのかもしれないがそうはいかない。

「申し訳ない。交渉どころではないのです。実は昨晩からユニコーンを盗もうとする者が続発しておりまして。」

「盗み?ユニコーンは無事なのですか?」

「なんとか無事です。ただ、こちらの冒険者ギルドのクエストを見て、手早く盗もうとしたものがいるらしく、今からギルドに苦情を言いに行くところでして。」

「なんと!」

「なのでご足労いただいて申し訳ありませんが、ギルドがなんらかの対策を打ってもらえない限り、貴公との交渉のお時間は確保することは難しいです。」


 あなたがユニコーンが欲しいというのはわかった。

 僕もあなたとの交渉の場につくのはやぶさかではない。

 でも残念だなぁ、今そのユニコーンを盗もうとしているやつの対策で手一杯なんだよ。

 まずは盗まれないようにしないと本末転倒だし。

 悪いのは僕じゃなくて、盗もうとするやつ。君はわかってくれるよね。


僕の交渉を表現するとこんな感じだ。

僕の意図が伝わったのかどうかはわからないけど、アザール子爵は浮かべていた微笑を少し崩しながら、


「そういうことであれば私もギルドとの交渉に同席しましょう。」


と申し出てくれる。

はい、ギルドとの交渉要員一人ゲット。

同じ貴族がわざわざ出向くことで、無理にでもユニコーン譲渡の交渉の席につかせたかったのかもしれないがそうはいかないよ。


 連絡役としてリッキーを宿に残し、全員でギルドに向かう。

 宿から冒険者ギルドまでの距離はさほどなかったので、昨日から今朝にかけてユニコーンを盗みに来た連中(エヴァ達は全員捕まえた。)を後ろ手に結んだ縄をひっぱりながら、ギルドに連行していく。


 だが途中で面白いことに気が付いた。

 捕まえたのは全部で20人なのだが、このうちの数人が並走しているアザール子爵の馬車をちらちら見るのだ。

 馬車の中にいたアザール子爵が盗人たちと目が合わないように顔をそむけたのが見えた。


 あれぇ?僕と朝一で交渉しようとしたのは、盗みがうまくいかなかったからかなぁ?

 だとしたら中々面の皮がお厚い。

 手段を選ばない人って好きですよ。

 僕もいろいろしても良心が痛まないから。 

 とはいえ、彼なりの事情があるかもしれない。


 ちょっとギルドとの交渉が楽しくなってきたな。

 と思いながらギルドに近づいていくと。


 「そこの馬車、ここで止まってくれ。」

 とバスターソードを横にかまえた冒険者らしき男が僕たちの行く手をふさぐ。

 バスターソードの刃はその男を隠せるぐらいの大型のものだ。

 盗人たちはその男の顔を見ると慌ててうつむいた。


 「ギルドに用があるんだ。邪魔しないでもらえるか。」

馬車から体を出し、立ちはだかる男に伝える。すると、

 「グリフィス辺境伯領区の冒険者ギルドマスターのザナックだ。用件なら俺がこの場で聞く。」

 とバスターソードを構えなおしながら男はそう言った。


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