第077話 護衛の子が辞めるって言ってます。
ローラさんとの打ち合わせを終え、自分の部屋に戻る。
戻る途中の廊下で、エヴァがアギレラを貸してくれというので、頭の上で寝ていたアギレラを、そっと渡す。
どうするのかと聞いたら王国に行ったヴァレンティナと、司教領に行ったアナスタシアにはウィンと同じ金属生物の魔獣が同行しており、アギレラを通じて打ち合わせをするそうだ。
「打ち合わせにあたって主殿に希望はあるか?」
とエヴァが聞いてくる?
「希望って?」
「我々の4番から7番の順番じゃよ。ほれ強い順とか、魔力が高い順とか。」
打ち合わせってそれか。そんなもんに付き合わされるアギレラを不憫に思う。
「いや、僕は女性に順番とか決めないから・・・ 決めたいなら好きにしてよ。」
あきらめてそう言うと、アギレラの首をつまみスキップしながら部屋を出て行った。
そのままガブリエラのところに行くのだろう。
部屋に戻るとミアとヒビキが夕食の準備をしていた。
食堂で食べようと予約に行ったところ、ユニコーンを欲しがっている貴族の従者と出くわしたそうだ。
どうやらすでに宿の部屋を抑えているようで、一刻も早く交渉したいと言われたとのこと。
あまりにしつこく外食にしてもついてきそうなので、部屋で食事をとることにしたのだそうだ。
では何の準備をしているかというと、交渉相手の選別を行っているリッキー(ユニコーンの話を聞きつけたやつが後からも数十人来たらしい。)、馬車番をしているトリィとガブリエラ(すでに何人か追い払ったらしい。)のために運び込まれた夕食を軽食用にアレンジしていたらしい。
「お食事になさいますか。」
とミアが聞いてくるので、
「うん、一緒に食べよう。」
と答える。
ミアはてきぱきと3人分の食事を並べ終えたが、僕とヒビキに飲み物を注いだところで、
「私、先に他の方々に軽食とどけてまいります。タック様とヒビキ様で先にお召し上がりください。」
と言うが早いか、軽食を入れたバッグを手に僕とヒビキを置いて部屋を出て行ってしまった。
「じゃあ、食べようか。」
というとヒビキが黙ってうなづく。食事を口に運び始めるが、静かな夕食だ。
ヒビキは静かな子だが、無口というわけではなく食べながらいろいろ話す子だ。
僕と2人きりだと、気を使って何かしら話題を振ってくるような子なのにこれは珍しい。
「元気ないね。疲れちゃった?」
と声をかけるとヒビキはうつむいていた顔をあげる。
よく見ると目の下にクマができている。相当疲れているのだろう。
疲れの原因は間違いなく僕だ。
護衛のことでいろいろ気を使わなきゃいけないのに、護衛対象の僕が自由気ままに動いてる。
昨日の夜も心配かけてしまったのに、ケロっとした顔でテムステイ山を制圧しました。
と同行者増やしたり、魔獣連れてきたりと好き放題だ。
「ごめんね、いろいろ振り回しちゃって。」
と詫びると、僕を見ていたヒビキの目から涙が零れ落ちた。
「ど、どうしたの?」
慌てて声をかけると零れていた涙が滝に変わる。
駆け寄り、ハンカチを目元にあてるとヒビキは
「ごめんねぇ、ごめんねぇ。」
と泣きながら言う。
えっ?なんで?気苦労かけて謝らないといけないのは僕なのに。
泣きじゃくるヒビキをなだめながら泣いてる理由を聞くと・・・
「わたし、護衛なのにあっさり眠らされちゃって。」
「タックを取り返しに行くときも弱いからって同行できなくて。」
「タックが無事戻って来て、これからはちゃんとって思ってたのに高いの怖くて。」
「荷物持ちすらミアちゃんの方が身体強化すごくて。」
とこの二日間で護衛として自信喪失してしまったらしい。
「私みたいな弱いやつなんか護衛失格なんだよ。」
という。
ハンカチはすでにべちょべちょになっていて、ヒビキは目の前にあった僕のシャツのお腹あたりに顔を左右にこすりつけるようにして涙を拭いている。
なんでそこで拭くの?目の前にあるから?あっそう。
なんで腰に手を回してガッチリつかむの?固定しないと拭きづらいから?あっそう。
でもその状態で抱き着かれると僕の両太ももにやわらかいものがあたるんだよ。知らない?あっそう。
さらにその状態で頭を左右にふるとそれに合わせて太ももの感触も変わるんだよ。知らない?あっそう。
僕はヒビキの頭をなではげます。
「いや、強い弱いは比較対象おかしいから。魔獣認定される人やその魔獣とタイマン張れる人と比べちゃだめだって。」
とはげます。
「ミアの身体強化だって、僕の魔道具だから。ヒビキにも魔道具あげるから護衛頑張ってよ。」
「王国に戻ったら新しい護衛雇いなさいよ。その人に魔道具渡せばいいでしょ。」
僕のお腹に顔をうずめながらヒビキが言う。
ここでふとローラさんが先ほど言ってたことを思い出す。
『陞爵でさらに人がいるようになる。』
信用できる人なんてそんな簡単に見つけられるもんじゃない。ましてや護衛なんてなおさらだ。
「王国には私より強い人いっぱいいるわ。」
と続けて言うヒビキに
「ヒビキに辞められると困る。僕はヒビキにいてほしいんだ。」
と言うとヒビキは僕のお腹から顔をあげ、僕を上目づかいで見る。泣いていたのと僕のお腹でこすっていたか顔が真っ赤だ。
トッドも僕の護衛だけど、自信喪失しているヒビキには君だけと伝えた方が良いだろう。
「タック、それってどういう意・・・」
とヒビキが僕に何か聞こうとしていたが、その瞬間、僕たちは猛烈な殺気にさらされた。
殺気の出処らしき扉の方を見るとそこには扉を開け、無表情で僕を見つめるトリィがいた。




