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第076話 誰も僕の話を聞かない

 僕たちは帝国の入国管理門、通称:入管門に向かう。

 そこにはすでにかなりの行列ができていたが、他国の貴族、それも国家間の婚姻をとりまとめる調整役の入国ということで、待ち行列を無視して最優先で審査してもらう事になった。

 ユニコーンを隠そうとしなかったせいか、そちらにばかり審査の目が行き、他の追及はさほどなかった。

 事前に入国予定者を申請していたため、変更があった箇所を審査官に伝える。

 事前に申請しておいた方が審査の時間が短くなるというだけなので、変更することに問題はない。

 リッキーはトッドの代理、エヴァとガブリエラは僕が途中の町で雇ったメイドと言う形にした。

 メイドということにしたのにも一応理由があり、頭につけるヘッドドレスだかホワイトブリムとか言うもので角なり、耳なりが隠せるからだ。

 帝国の女性審査官は、僕を見目好い女性を旅先で見受けし趣味丸出しのメイド服を着せてる女好き貴族と認定したらしく、その視線はそれはそれは冷たいものだった。

 これもまあ一時的なものなので、受け入れよう。

 最後に”ユニコーンが暴れた場合、全責任を負う。”と書かれた誓約書に署名させられたが、それだけで入国審査はおりた。


 だがそうすべてがうまくいくこともなく、入管門をくぐったところでユニコーンを譲ってほしいという人たちが殺到する。

 たまらず馬車を走らせ、宿まで移動するものの、交渉したい人間も付いて来てしまった。

 このままだと宿にも迷惑がかかってしまうので、リッキーに宿の前に待機してもらい、いろいろ条件つけて交渉相手を選別してもらうことにする。

 選別したところで譲るつもりはないのだけど。


 交渉希望者の中に帝国貴族の使者がいたため金銭では太刀打ちできないと早々あきらめたものが多い。

 だが中には交渉はあきらめても、ユニコーン自体はあきらめきれず実力行使に出そうなやつもいたので、リッキー以外のメンバーには交代でユニコーンの見張りについてもらうことにした。

 そもそもユニコーンは僕とエヴァの指示以外聞かないので奪えるはずもないが、暴れて僕の監督責任が問われても困るからだ。

「馬の代わりに連れて来たのだけど、騒ぎになってしまったわね。」

 とエヴァが申し訳なさそうに言ったが、ユニコーンが囮になることでエヴァやガブリエラに注目がいかなかったので何の問題もない。


 ガブリエラとトリィが先にユニコーンと馬車の護衛につき、僕、エヴァ、ヒビキ、ミアの4人で荷物を運ぶ。

 荷物が多かったので手伝おうと手を伸ばすがヒビキに止められる。

「トッドが言ってたでしょ。貴族としての自覚を持てって。」

 うーん、確かにそうなんだが・・・

 なんだろう?女性に荷物を持たせて自分は手ぶらという状況に釈然としてない自分がいる。

 前世の感覚なのか? まあいずれにしても持たせてもらえないのでおとなしく従う。


 宿の受付から部屋を聞いたミアを先頭に部屋に進む。

 部屋の開くと奥にベッドが4つほどならんだ部屋だった。

「ここで寝るの?」

 と口にすると、

「ここは女性部屋です。タック様のお部屋はこちらに」

 とミアは向かって左にある扉から隣の部屋に行く。

 隣に行くと真ん中に大きなベッドが置いてあった。

「ここがタック様のお部屋になります。」

「ん?待った。ベッド5つしかないじゃん。トッドは元々どこで寝るつもりだったんだ?」

「トッド様は馬車番として馬車で寝ると言われてました。」

「となるとリッキーは?」

「私たちと寝るわけにもいかないので馬車で寝ていただくことになりますね。」

「女性も5人いるけどベッド4つしかないよね。」

「1人は馬車番になると思いますので交代で良いかと。」

 リッキーが残るなら馬車番は・・・と思ったがリッキーは荒事向きじゃないからやっぱり誰かいないと駄目だろう。僕も無理だ。


「わかった。申し訳ないけど馬車番はまかせるよ。」

 といい、荷物を置いた後、エヴァを連れてローラさんの部屋に向かう。

 話は通してあったらしく、すぐにローラさんの部屋に入れてもらえた。


 丸テーブルがあり、そこには椅子が4脚置いてあった。

「お呼びだてして申し訳ありません。そちらにお座りください。」

 そう言われ、エヴァとローラさんの向かいの席に座る。

「もう1人のガブリエラさんは?」

「ユニコーンの番してます。どこかで交代しましょうか。」

 と僕が聞くと、

「いえ、エヴァさんへの質問で私の疑問が解消されたらそれで結構です。」

 とローラさんが答えた。

 エヴァをちらりと向くと、僕に向かってうなづいた後にローラさんの方を向き。

「ローラ殿は(あるじ)どのの協力者なのだろう?それであればこちらも協力は惜しまない。なんでも聞いてくれ。」

 と言う。


「では・・・あなた方はタックさんの領地でどのようなポジションを希望されてますか?」

 とローラさんはエヴァに質問した。

「ポジションとな・・・」

「はい、今回テムステイ山を制圧したことでタックさんは陞爵(しょうしゃく)されるでしょうから軍事面でも治政面でもさらに人材が必要になります。」

「ん?ローラさん、陞爵(しょうしゃく)って何ですか?」

 と聞くと、ローラさんは僕の方を残念そうな顔で見る。

「この間、男爵に任命されたのが叙爵です。それまで貴族ではなかったものが新たに任命されることを()()と言います。それに対して陞爵(しょうしゃく)とは貴族だったものの階位があがることを言います。」

「え?、僕階位はこれ以上あげたくないんですけど。」

 というとローラさんはこめかみを抑えて、

「魔獣を単独で倒した、従えた、生息域を解放した、は十分に叙爵、陞爵(しょうしゃく)の理由になりえます。国の成り立ちを説明した際もその話はしたはずですが・・・」

 と言われローラさんの貴族のお勉強で聞いた話を思い出す。

 建国時には国内にいくつか点在していた魔獣の生息域を再三の遠征でつぶしていった結果、生き残りの魔獣がテムステイ山に集結し、逆にテムステイ山がつぶれにくくなったんだっけ。

 たしかに生息域をつぶした際に活躍した人間や家が爵位もらってそこを治める領主になってるな。

 戦闘行為を一切してないので実感がわかないけど、制圧したと宣言すればそういうことになるのか。

「しまった!みたいな顔してますけど、今さらシナリオの大前提は変更しませんからね。」

 とローラさんに釘を刺される。

 階位上がると、パーティに出て他の貴族と交流しなきゃいけなかったり、おっさんに王命と言う名の無理難題言われたりとか増えるんじゃないか?どうやってかわそうかな。

 と僕が考え始めるのをよそに、ローラさんはエヴァさんに向き直ると先ほどの質問を繰り返した。

「そうじゃな。ガブリエラと一緒でタック付きのメイドで良い。」

「軍事面にも治政面にも関わらない?」

「タックに頼まれたらやるぐらいじゃな。」

「なるほど。では人材は両方で探しておきますね。」

「ローラさん、そんなに急に人って必要ですか?」 

と聞くとローラさんは真顔になる。

「必要になります。イニレ家がいい例です。」

「ん?」

「妹が側妃、兄が側近に任命され、人手不足になったことでイニレ家に何が起きました?」

 と言われ納得する。

 洗脳系の魔道具を抱えた連中の侵入を許してしまい、結果的にお兄さんは廃嫡となってしまった。

 人材確保は時間をかけてきちんとすべしというイニレ家の教訓ができあがったのだろう。

「わかりました。お手数おかけしますがよろしくお願いします。」

「タックさんも学校の同級生とかお知り合いにいい人がいたら誘っていただいて結構ですよ。」

「いやぁ、僕の同級生は魔法使えなかった時と魔道具作れるようになった時で態度クルクル変える奴が多かったので、それほど信用面で期待できないですね。アニストン姉弟は態度変わらずかつ友好的だった少数派です。」

 というとローラさんは一瞬微妙な顔をしたが、ニコリと笑って

「馬鹿なことをしましたねぇ。こんな優良物件なのに。」

 と告げる。

 そんなローラさんに疑問に思ったことをぶつける。

「信用面と言えばローラさんが今日あったばかりのエヴァやガブリエラを信用しているのは何故です?」

「信用ですか?うーん、ご本人を前に言うのもあれですが信用しているわけではないです。」

「え?」

 と思わず声が出る。教訓は?と僕が戸惑っていると

「私が信用しているのはタックさんとアドリアーナさんですよ。」

 と補足してくれる。

「僕とアド姉?」

「はい、お2人はエヴァさん達を信じて助けたいと思ったんでしょう?」

「そうですね。僕はアド姉が保護したいと思ってる人たちだから助けたいと思いました。」

「それにタックさんの第2夫人になると公言してるアドリアーナさんが信用できない人をタックさんにまかせて司教領に行くとも思えませんし。」

 なるほど、アド姉の行動からエヴァ達を信用に足ると判断したわけか・・・

 と納得していると黙って僕たちの話を聞いていたエヴァが口を開く。

「アドリアーナは主殿(あるじどの)の姉ではなく、嫁なのか?嫁はトリィと言ってなかったか?」

「僕の嫁になりたいって言ってるだけだよ。」

 と僕が言うと、

「アドリアーナさんは2番手の嫁でもいいからタックさんと結婚したいそうですよ。」

 とローラさんがいらぬ補足をする。

「なんと!ただ者ではないと思っておったがアドリアーナがそこまで入れ込むとは!主殿(あるじどの)!わたしとも結婚しよう。私は3番手、いやガブリエラもしたいじゃろうから・・・」

 とエヴァが考え事を始めるとローラさんが手をあげてそれを制す。

「エヴァさん、3番手は私なので、4番手以降で調整をお願いします。」

「いや、ローラさん、何を言い出すの?・・・」

陞爵(しょうしゃく)、それも普通の制圧ではないですから私と同格以上は確実です。当主同士の結婚でもつりあいとかうるさく言う人もいないでしょう。」

「いや、でも3番手って。」

「お忘れになったんですか?私第一王子の第2側妃だったんですよ。順番は同じです。」

「いや、王子とただの魔道具士を同格にしないでくださいよ。」

 と言うがローラさんはニコニコと微笑みを浮かべたままだ。

 意思を変えるつもりはないようだ。

 どう説得しようか悩んでる僕にエヴァがとどめを刺す。

主殿(あるじどの)、一応4番手から7番手まで確保とさせてくれ。ヴァレンティナとアナスタシアが戻ってきたら順番をきちんと決めるゆえ。あやつらも主殿(あるじどの)のことを憎からず思っているのでな。」


 どうして僕の意見を誰も聞いてくれないんだろう・・・

 これをトリィが聞いたら怒るだろうなぁ・・・

 どうしよう・・・

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