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第072話 イニレ家一行との合流

 馬車が浮かび上がった瞬間、ミアとリッキーが思わず声をあげる。

 窓際に座っていたから、外が見えてしまったのだろう。


 僕の左右に座っているトリィとガブリエラも窓際なので怖くないのか?と思って、左を見るとトリィは僕の左手を掴んで目を閉じていた。

 右を見るとガブリエラも僕の右手に捕まっている。

「僕の腕を掴まれると、僕が何にもつかまれないんだけど。」

 とトリィに言うと、

「でもエヴァさんが出る前に何かにつかまっとけって。」

 と薄目を開けて僕に答える。

「いや、何かってのは僕だと駄目だと思うんだけど。」

 馬車のどこかにつかまっておけって意図だよ、きっと。

「ガブリエラも馬車のどこかを掴んでおきなよ。」

「マスター、今はベラと呼ばないと駄目。」

 呼び名のほうが気になるの?確かに今は仮面を外してメイド服に着替えているけど。

「ベラも馬車のどこかを掴みなさい。」

「はい、マスター。」

 そういうと右手で馬車の窓枠をつかむ。

 だが、左手は僕の右手に絡めたままだ。そっちは放す気はないらしい。


 ガブリエラが手を伸ばした窓枠を見ると、窓の向こうに同じようにエヴァの腕に捕まれた2頭のユニコーンが見えた。

 爪がくいこまないように腹の下で交差されているが、ユニコーンはすべてをあきらめたかのような目をして、前方を見つめていた。

 パッと見、餌として捕まったようにしか見えないので諦念の心境なのだろう。


 僕の視線に気づいたヒビキが、ユニコーンの向こう側にあるテムステイ山の頂上を見て小さく悲鳴をあげる。

 僕は前世の記憶か飛行機などから山を見下ろすとこんな感じに見えるという認識を持っているので、それほど怖くはなかったが、初めて見る物ばかりだったヒビキはそうはいかなかったらしく、席からずりおちるように床にひざをつくと目の前の僕にしがみついてきた。

「申し訳ありません!怖いです!」

 と目をつぶり、僕のふとももあたりを掴んでくる。

「いや、だからなんで僕を掴むんだよ。ヒビキは怖くなかったんじゃないの?!」

「タックの顔だけ見て、他を見ないようにしてたんです!あなたが外見るからつられちゃったんです!」

「それ、僕が悪いの?!」

 と言うと、ヒビキは僕の脚につかまったまま首を縦にブンブンとふる。

 トリィはヒビキに何か言おうとしたが、外の光景が目に入ったのか、再び目をつむると僕の左手に力を入れて掴まってきた。


「タック様・・・」

 と言う声に目を向けるとミアが僕を見ていた。

 ミアはちゃんと窓枠に捕まっている。

 最初に悲鳴はあげたものの、ちゃんと掴まっているようだ。

 だが、身体が震えていた。

「どうしたの、ミア、大丈夫?」

 と声をかけると窓枠から手を離し、ミアも僕の脚に捕まってくる。

 ヒビキが掴まってなかったひざ下あたりをつかんできた。

「なんで!?」

「すいません、寒くて耐えられないんです!!!」

「だからってなんで僕に?」

「いえ、さすがに今日初めてあった方に掴まるわけには。」

 とミアはちらりとガブリエラを見ながら言う。

 ヒビキがミアも抱き着いて来たのに気付いたのか僕の右足を解放し左足だけに掴まる。

 ミアはそれに気づきヒビキに礼を言って僕の右足に掴まった。

 いや、そんな譲り合いはいらんのだよ。


 寒い?

 両側から抱き着かれていたので気づかなかったが、高度のことを思い出した。

 高度があがるとその分寒くなり、さらにはエヴァが高速移動しているので、かなりの寒さのはずだ。

 ふとリッキーを見ると、くちびるを真っ青にしながら窓枠につかまってこちらを見ていた。

「私もそちらに行って良いでしょうか?」

 声を震わせながら言うリッキーに

「駄目だ。」

 と宣言し、絶望の顔をさせる。


「ヒビキ、ヒビキ。」

 と左足をゆすりしがみついているヒビキに声をかける。

「何ですか?」

 としがみついたままこちらを見る。車内でしゃがんでいて外の景色が見えないからか目はしっかりと開けていた。

「馬車の前方に空壁(エアウォール)張れない?車体前部を覆えるぐらいに。」

「張れるけど・・・なんで?」

「理由は後から話すからとりあえず頼むよ。」

 そういうとヒビキは片手を前方に向け何事か唱える。

「あと、怖いだろうけどユニコーンたちの前にも張ってあげてくれない?」

 と言うと外を見るのは嫌なのか、片目だけを開けて外のユニコーンたちを見ながら同じように魔法を唱えてくれた。

 これでユニコーンたちも凍えず済むだろう。

 馬車の中の気温も外気に奪われずに済むはずだ。


 リッキーを見ると血色が少し戻っていた。

 もう少し遅かったら危なかったかもしれない。


「これで僕に掴まらなくても大丈夫だな。」

「そうですね。大丈夫です。それはそうと女性に掴まられている確率が高いのは御屋形様の日ごろの行いがなせるわざですか?」

 確か、初めてリッキーに会った時もローラさんに掴まられていたな・・・

「日ごろの行いかもしれないけど善い行いのおかげか悪い行いのせいかはわからんよ。」

「どちらにしてもうらやましいですね。」

 と唇を震わせながら言ってきた。

 なんにせよ、おしゃべりできるぐらいには余裕は出てきたようだ。


 そこへ

 『複数台で移動している馬車が見えたぞ。確認してくれ。』

 とエヴァが声をかけて来た。

 身動きの取れない僕には窓から下が見えないが、エヴァはわかるようだ。

 だんだん高度を下げ、エヴァが見つけた馬車群に近づいていく。


 リッキーから馬車にイニレ家の紋章が見えると言われたことでほっとするが、

 馬車が動きを止め、中から人が出てきて慌てふためいていると聞き、あわててエヴァに距離を開けて地上に降りるように伝えるのだった。

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