第071話 帝国への移動
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方針が決まった後、アド姉とトリィにトッド達も隠れ家に連れてきてもらう。
アド姉とトリィを送った後、放した馬が2頭戻って来たらしく1台に1頭つないである状態だった。
僕が無事だったことに一安心していたトッド、ヒビキ、ミア、リッキーにテムステイ山を(表向き)制圧したことを告げる。
呆然とした顔になった4人に制圧しただけでなく山に潜んでいた難民、元奴隷、さらに魔獣を配下にしたと伝えるとトッドとヒビキはさらに顔をしかめた。
「難民や元奴隷はまだしも魔獣が残っている状態だと制圧したとは言えないのではないか。」
そういう2人だったが、エヴァが連れて来たワイルドボアの子供にお手とおまわりをさせたところで、反論はなくなる。
同じ疑問を呈すやつはいるだろうから同じことを何度か繰り返す必要はあるだろうと言われたが、そこは必要経費と割り切るしかない。
次に各国にテムステイ山制圧を伝えるメンバーを決める。
王国:トッド、黒子
司教領:アド姉、黒鎧
帝国:僕、トリィ、ミア、ヒビキ、リッキー、エヴァ、ガブリエラ
黒子は司教領からの追放組、
黒鎧は王国からの脱出組なのでそれぞれの国に僕の配下に加わったものとして同行する。
トップが直接会うかどうかは別だが、証明はそれなりにしてくれるだろう。
帝国に人数が偏っているのは、コネがないことに加え、僕がもともと寄る予定だったからだ。
トッドは王都に戻ったら面識のある元イニレ家当主(前伯爵)を通じて国王に話を通してもらう。
トッドも護衛途中で離れることに難色を示していたが、おっさんに話を付けられるルートを考えると自分が適任だと思ったそうだ。ヒビキは元イニレ家当主(前伯爵)とは報告程度しか会話していないらしい。
アニストン家の後継だったヒビキよりも、リールの側近としてトッドに唾をつけておきたかった前当主はトッドをかわいがってくれていたそうだ。
そんなトッドに箔をつけようとしたボヤーキさんの暴走でその目はなくなってしまったが・・・
司教領にはアド姉が中将の立場を駆使して司教領上層部に話をしてくれるそうだ。
王国と司教領はなんとかなりそうだが、帝国はそうもいかない。
父さんが子爵に任命されたそうだが、それだけですぐに上層部と話ができるとも思えないので、いろいろ対応できるように人数を多めにして挑む。
テムステイ山は各国への伝達が終わるまで鬼人のブルーノに守らせることにした。
隠れなくてもよし。侵入者は山の外に叩き出せと指示するととてもうれしそうにニヤリと笑った。
暴れたくてしょうがなかったのだろう。
殺すのはなしだぞ。と釘を刺すと一瞬めんどくさそうな顔をしたが、従属が効いたのか首肯した。
◇◇◇◇◇
いろいろ決めたり、手配しているうちに昼を過ぎてしまった。
僕は先に移動しておいて、手配はまかせようと思ったのだが、エヴァが絶対に今日中に帝国領にはつけるからトップとしてどんとかまえておけ。というので信じることにした。
エヴァを知っているガブリエラとウィンからも念話で「大丈夫。心配ない。」と言われたこともある。
持って来ていた馬車2台のうち1台を王国行、もう1台を帝国行に振り分ける。
大人数が乗ることになったので、荷物は下ろせるものはほとんど下ろした。
前日に村で購入した食料も難民たちに提供する。
スズメの涙にしかならないはずだが、難民たちの代表からは喜ばれた。
僕が大量に買い占めたレーズンやナッツなどは配給されないので助かるそうだ。
僕たちは最後に出ることにして、他の2組を見送る。
ここまでくると少しの時間を惜しんで一緒に出発しても変わらないので、もうエヴァを全面的に信じるしかない。
「じゃあ、王様への連絡頼むよ。」
というとトッドは微妙な顔をしながらうなづいた。
横に立つ黒子を一瞥したが、特に何も言うことはないようだ。
トッドはヒビキに顔を向けると
「このアホの護衛頼むぞ。」
とだけ告げて馬車の御者席に座る。アホって誰だ。
黒子と難民のうち御者として選ばれた2名が馬車に乗ると、それを見届けたトッドはゆっくりと馬車を動かし始めた。
馬車には戻ってきた馬を2頭ともつないである。
僕の書いた魔法陣にも魔力を補充しているので行きよりも早く王国に戻れるはずだ。
「私たちも行くわ。」
とアド姉と黒鎧も少し離れたところから声をかける。
5メートルほどの大きさのグリフォンがそのそばにいる。
これも僕が従属させた魔獣だそうだ。
直接意思疎通はできてないが、アギレラを通じてアド姉と黒鎧の言うことを聞くように指示してある。
もともと王国から帝国に向かう途中の道なので司教領に向かうには馬車では難しい。
アド姉はこのグリフォンで最寄りのサイフォン商会まで向かい、そこからは自前の馬車で行くそうだ。
さすがに街中にグリフォンで降りれないので、少し離れたところにおりることになりそうだが、僕たちが帝都につくのと同じくらいのタイミングで司教領の中央区には着ける見込みとのこと。
アド姉と黒鎧はグリフォンの背に乗ると、アド姉はゆっくりとグリフォンの首をさすって、
「行きましょう。」
とグリフォンに声をかけた。
グリフォンはゆっくりと羽をはばたかせ飛び立っていった。
「さてと・・・」
とアド姉たちを見送ったあと振り返る。
トリィ、ミア、ヒビキ、リッキー、エヴァ、ガブリエラと馬がない馬車がある。
「エヴァ、この状態からでも今日中に帝国領に着けるってことだけど、どうするの?」
「着けるわよ。良いから私以外は馬車に乗りなさい。」
何故かエヴァは朝着ていたワンピースではなく、貫頭衣に着替えている。
僕たちが馬車に乗り込んだのを確認すると、口に指をやり、指笛を鳴らす。
高音があたりにひびいたかと思うと、エヴァの後方(テムステイ山の方向)から何か走ってきた。
走ってきたのは2頭の馬だった。
「馬はいるんだ。でも馬がいたとしても今日中にはつかないよね。」
今日の夕方にはローラさんが帝国領に着くのだ。
その前かせめて同時に帝国領に入って今後のことについて相談したい。
「ただの馬じゃない。」
僕の右横に座っていたガブリエラが言う。
「角が生えてないか?あの馬・・・」
とドアそばに座っていたリッキーがつぶやく。
確かにそれほど大きくはないが、2頭ともひたいから1本の角が生えている。
「そう、ユニコーン。」
とガブリエラが正解を教えてくれた。
「ユニコーンは早いのかい?」
馬の倍以上速いのであれば、追いつけるかもしれない。
エヴァは御者としてあれを制することができるから外に残ったのか?
と思ったが、
「早くない。普通の馬より多少早い程度。」
と言うガブリエラの回答で愕然とした。
「え、やっぱり間に合わないってオチ?」
「違う。あれは後で使うのだと思う。」
「後って?」
と僕が聞き返そうとした時に
『では行くぞ。全員何かにつかまっておれよ!』
外でエヴァが大声を出すのが聞こえた。
声がした方向を見ると、エヴァの身体が光り出している。
エヴァの身体の輪郭がわからなくなるぐらい光り、同時に貫頭衣がちぎれ飛ぶ。
思わず立ち上がろうとする僕の手をガブリエラがつかみ、「大丈夫。」と小声で伝えてくれた。
光の輪郭は徐々に大きくなっていき、最初の大きさから高さが5倍、横に10倍ほどに広がるとその広がりを止めた。
その後光が収まっていくと、そこには青く光り輝くうろこを全身にまとった魔獣がいた。
瞳孔が縦に開き、両手には4本の指ととがった爪、横に10倍ほどに広がったのはうろこと同色の幕のような4枚の羽だった。
「「ドラゴン?!」」
とトリィとヒビキの声が重なる。
「そう、エヴァはテムステイ山の盟主である青龍。普段は私たちと生活するために人化している。」
とガブリエラは言い、何かに気付いたような顔をして僕を見て、
「間違い。エヴァは元盟主。」
いや、待て待て。突っ込みたいところはそこじゃない。
魔獣じゃん。
魔獣認定されてしまった訳ありの女の子って感じで話してたのに魔獣じゃん。
ましてやその生息域のTOPを張るような魔獣の後任はあなたですと言われても困るんだが・・・
そうつっこもうとしたところ、馬車が大きく揺れた。
と同時に馬車の窓部分から爪が4本入って来て馬車の天井部分をしっかりつかむ。
まさか! と思った瞬間、エヴァ=ドラゴンは僕たちの乗った馬車を掴んだまま空へと飛び出した。




