第070話 当主の判断
エヴァの発言を聞いてアド姉は一瞬固まったように見えた。
「え、どういうこと?」
が、すぐに気を取り直し、エヴァに聞き返す。
「私たちはタックの下について、日の当たる場所に出る。」
「さっき、あなたたちが自分で言ったことでしょ。外に出ても改めて危険視されるだけよ。」
「アドリアーナ、私たちはもう隠れるのに疲れたんだ。」
とそれまで黙っていた黒子も口を開く。
「あなたの誘いに乗ってここに避難してきたけど、ここもそろそろ限界だと思う。次の手を考えないと。」
と黒子が続けると、
「私たちを探してではないが、各国の依頼を受けた冒険者がどんどんテムステイ山に入ってきている。私たちはともかく、他の人間が見つかる可能性はどんどんあがるぞ。タックがテムステイ山を制圧したとなれば、冒険者や巡回部隊がここに近づくこともなくなる。」
と黒鎧も後に続いた。
アド姉、エヴァ&黒子&黒鎧がにらみ合う形になる。
一触即発の状態になってしまったので、手をあげてみなの注目を集める。
「みなに確認したいことがあるんだけど。」
と聞くとそれまでにらみ合っていた4人は見合わせると僕にうなづいた。
「まずアド姉に聞きたいんだけど、アド姉はみんなを助けたいんだよね。」
「もちろんよ。」
「助ける方法は認識阻害をかけた領域の中での生活。」
「そうね。そのために必要な物を送ってるもの。」
「アド姉も知っている通り認識阻害と言っても触るとわかってしまうんだけど、その対策は?」
「完全な阻害は無理よ。そこはエヴァ達になんとか。」
そこで口を挟もうとしたエヴァにも質問する。
「次にエヴァ達に質問。認識阻害をかけた領域の中での生活に限界を感じている?」
「そうね。」
「認識阻害の領域だけでは生活できない?」
「そうね。領域から出て食料調達とかしないといけないし。」
「ちょっと待って。自給自足できてないの?農地と私の送る食料で足りるはずでしょ。」
とたまらずアド姉が口をはさむ。
アド姉を手で制し、もう一つ質問する。
「エヴァ、もう一つ質問。認識阻害を超えて来た人たちをどうしている?」
「冒険者たちは眠らせて、遠くに運んで、それ以外は保護している。」
「それ以外ってどういう人?」
「追放された人や逃げて来た奴隷。」
「私が送った人以外もここに人がいるの?」
とアド姉が聞くとエヴァ達はうなづいた。
その後いろいろみなに確認していくと以下のような話だった。
・もともとアド姉が保護したかった人たちは235名
・アド姉はこの人数を元に食糧計画をたて、定期的に野盗の被害にあった体裁を取り配送
・屋敷とその周辺に認識阻害をほどこし、周囲の魔獣(テイム済み)もいたので天然の隠れみのになっていた。
・アド姉が国に疑われ始めたのとほぼ同時期に奴隷商から逃げて来た数人の奴隷が認識阻害を突破し屋敷に。
・奴隷の処置を相談しようにもアド姉は現れず、かといって追放するわけにもいかず、周囲の魔獣(テイム済みの大イノシシや大蛇など)を定期的に狩ることで食糧難を回避
・食糧難は回避できたが、魔獣が減ったことにより、狩人や冒険者が屋敷近くまで接近する機会が増えて来た。
・狩人や冒険者だけでなく、逃げて来た奴隷や難民も来るようになり、全部かくまっているうちに人数は1124名に←今ここ
「というわけでここでの生活は限界なのよ。」
と言いたいことを話し終えたエヴァはアド姉に伝える。
「早く教えてくれれば良かったのに。」
「相談したかったのにここに来なかったのはアドリアーナでしょ。”もう少し待って”ばかりで。」
「ちなみにアド姉はいつまで待ってもらうつもりだったの?」
と聞くと、
「ん~。私を疑ってるやつをあとくされなくつぶすまで。」
とぶっそうな回答が返ってくる。
「つぶすまではどれくらいかかる見込みなの?」
「あと2,3年かなぁ・・・枝葉が多いから・・・。」
「2,3年と言うことだけど・・・待てる?」
とエヴァ達に聞くがガブリエラ以外の3人とも首を横に振った。
ガブリエラは飲み物を準備に行っている。トリィもそれに付いて厨房に行っていた。
「となると・・・」
と僕が口を開くと、席についている4人がこちらを見る。
「エヴァの言うとおり、テムステイ山を僕が制圧したことにして、ここの全員を僕の領民にすることが今とれる最善手だと思うよ。」
「ターちゃん。」
とアド姉が僕を見ながら、
「ここの全員を考えた最善手は確かにそれかもしれない。でもターちゃんだけなら最善手は他にもあるかもよ。」
と言う。
確かにそうだ。ここの人たちを見なかったことにして、ローラさんの後を追えばいい。
でも・・・
「アド姉。僕だけのことを考えてもそれが最善手なんだよ。」
「どうして?」
「困ってる人を見捨てれば楽かもしれない。僕がやりたい魔道具士に専念できるかもね。」
「そうね。」
「でも、後で結局後悔する。もっといい結果になったんじゃないかって。」
「手を差し伸べてもいい結果になるとは限らないわよ。」
「それはそうかもしれない。でも他にも理由があってね。」
「何かしら?」
「手助けできるのに、見捨てたと知ったら、僕をなぐりそうな人が何人か思い浮かぶから。」
真っ先に母の顔が思い浮かんだ。次に兄だ。父はなぐりそうにないけど泣きそうな気がする。
「結論は出たかしら。決まったら今後の方針を相談しましょう。」
と厨房から飲み物とお茶菓子を乗せたトレイを持ったガブリエラと一緒に戻ってきたトリィがそういった。
見捨てる判断をしたら、まず誰よりも先に僕にとびかかってきそうな子がここにいるなぁ。
そう思いながら、改めて席につき、これからについて意見を交わす僕たちだった。




