第065話 庇護
ガブリエラ?ベラ?は扉のところに立ち、僕の反応を待っている。
『まあ、入りなよ。』
と念話で声をかけるとほっとしたように部屋の中に入ってきた。
持って来てくれたお菓子と飲み物をテーブルに置いてもらい、僕の向かいに座ってもらう。
クッキーの様なお菓子を半分こして、自称メイドさんの前に置くと、ためらうことなく食べ始めた。
主人より先に手をつけるとはなかなか面白い自称メイドさんである。
ひょっとして毒見しろと受け取られてしまったか。
一人で食べるのが申し訳なかっただけなんだ。
お詫びに飲み物は僕が先に口にする。
が、あまり気にしたようすもなく彼女はクッキーを少しずつかじっていた。
『ウィン、念話って複数人でできるの?』
自称メイドさんが2つ目のクッキーに手を伸ばした時点でウィンに念話で質問する。
『申し訳ありません。わかりません。』
むむむ、めんどくさいな。ウィンとは念話でないと会話できないし。3人で念話で話したいが・・・
まずはベラと話すか。
『ベラさんと呼んでいいの?ガブリエラさんの方が良いんじゃない?』
『わたしはベラです。』
認めるわけにはいかないらしい。
『打ち合わせは出なくてもいいの?』
『途中まで聞いていたけど、結論出す前にエヴァが出て行けと。』
『なんで?』
『私が残ると内容がマスターに伝わるかもしれないから。マスターの所に行ってなさいって。』
なるほど・・・ って言うかもう同一人物じゃん。隠す気ないじゃん。
と思っていると、
『マスター』
とウィンが話しかけてくる。
『何?』
『仮面をかぶっている時はガブリエラ様、外されてるときはベラ様とお呼びすればよいかと。』
『呼び名を変えてあげるってこと?』
仮面をつけてるガブリエラの時はアド姉の捕獲にあたれるぐらいの実力者。
だけど白呪だって他の人にばれるとその地位があやぶまれるってことか。
『うん、そういうことにしてほしい。』
とガブリエラ=ベラが念話で伝える。
ん?ちょっと待て。
『ガブリエラさん、じゃなかったベラさん、ひょっとして僕とウィンの念話届いている?』
『念話ではベラで良い。さっきから聞こえるようになった。』
さっきって・・・3人で話したいって願った時かな・・・
便利な機能だけど、何がきっかけでオンになるかわからん。従属魔法のマニュアルが欲しい。
エヴァに教えてくれって頼むか?
うーん、でも従属魔法上書きしたやつに教えてくれるかな。
『エヴァは、優しいからお願いしたら教えてくれる。』
少なくともこの思考が駄々洩れな状態は困るから、頭を下げてでも教えてもらおう。
そこまで考えたところで部屋がノックされる。
「どうぞ。」
と声をかける。
扉を開けたのはヴァレンティナだった。黒子なので表情が全く分からん。
「結論が出たからみんな来てくれるかしら。」
と言い、机の上の魔道具にも気づいたらしく、
「本当にこの短時間でできるのねぇ。それも持って来てくれる?」
と言ったので両手に1つずつつかんで後に続く。
先程と同じ大広間に連れていかれる。
エヴァンジェリンとアナスタシアは席についたままだ。
朝食の時と同じ席に座る。
「まずは些事から済ませようか。それが頼んだシャワーの魔道具だね。」
「そうだね。」
と言って簡単に使い方を説明する。
簡易版なので壁はない。
魔法陣を刻んだシャワーヘッドと水量と温度を調整するレバーだけだ。
2台とも空気中の水分を吸収してお湯となって出てくるところまで実践して見せると、エヴァは満足そうにうなづいた。
「ありがとう。では。」とエヴァは言うと、ガブリエラに仮面をつけるようにうながす。
ガブリエラはこちらを見たが、僕が何も言わなかったので言われた通りに仮面をつけた。
すると次にエヴァは
「来い、ブルーノ。」
と僕たちに伝えるかのような音量でつぶやいた。
ブルーノって確か、この屋敷に入る前にあった鬼人だよな。
と思い出しているとエヴァから向かって正面の扉が勢いよく開き、僕が思った通りの男が現れた。
「急に呼ぶんじゃねーよ。こっちだって仕事してんだぞ!って、おーい!!!」
と途中までエヴァに文句を言っていたと思ったら視線をずらして僕を見て叫び始めた。
「おめー、なんで俺の服を着てんだよー!!!」
「アナスタシアさんに用意してもらいました。すいません、借りてます。」
「アナスタシアも俺の部屋から黙って持っていくんじゃねー!!!」
「いなかったから。」
「理由になってねぇ。それより何よりなんでお前が四天の席に座ってやがる!!!」
ブルーノは一瞬アナスタシアに叫ぶがすぐに僕に向き直る。
「タックはお前に従属魔法かけてるんだから、少なくとも四天になってても問題ないだろ。」
とエヴァが言うと、ブルーノは何かに気付いたようにハッとなったかと思うと、急にひざまづき、
「申し訳ありませんでしたぁ!!!」
とこちらに頭を下げてきた。
「ガブリエラがレジストできなかったのにブルーノができるわけないでしょ。」
と僕の後ろでヴァレンティナがつぶやいた。
「お前に2つ頼みがある。」
とエヴァンジェリンがブルーノに言う。
先程のガブリエラ同様こちらをちらりと見たが僕が何も言わないので、エヴァを向き、
「なんでしょう。」
と問う。
「1つ目はこの魔道具をキャンプ地の両端に置いてシャワーを浴びさせろ。レバーをひねれば出る。」
と言って僕が作った魔道具をブルーノに放る。
使い方のレクチャーが僕の説明より雑だったが、ブルーノは何も言わず首肯した。
「2つ目は避難民も含めて全員に伝達を頼む。」
「内容は?」
ここでエヴァは僕を見るとにやりと笑い、こう続けた。
「我々はこのたび、タック・タッキナルディの軍門に下ることになった。これよりこの方の庇護下に入る。」
どうしてそうなる?




