第062話 エルフの娘と獣人の娘
ターシャ。そう名乗るダークエルフの女性は薄茶色の瞳を僕に向けて、
「こちら、お着替えになります。」
と手にしていた衣服を僕に渡す。
瞳と同色の艶やかな長髪がその動きに合わせて揺れ、光を反射させていた。
「何か?」
と彼女を見たままの僕を見て尋ねてくる。見すぎてしまったかな。
「すみません。エルフの方を近くで見ることがあまりないのでみとれてしまいました。」
「ありがとうございます。それではお着替えを・・・」
彼女はそう言い、僕の服のベルトに手をかけようとする。
「いや、だ、大丈夫だから。自分でできるから。」
「そうは言われましても私もアナスタシア様からお手伝いするように仰せつかっていますので。」
「お気持ちだけで結構です。」
美人さんに着替え手伝ってもらうって。貴族の中にはそういう人もいるかもしれないが、僕は恥ずかしい。
「そうですか。」
とこちらの口調に無理強いは良くないと感じたのかターシャさんは壁際で手を前で組んで立つ。
「あの・・・どうしてそこに立つんですか。」
「お召し物を洗わせていただこうかと。」
「着替え終わったら渡しますから、外で待っててもらえますか。」
美人さんに着替え手伝ってもらうのも、着替え見られるのも恥ずかしいわ!
「そうですか。」
と少し残念そうに部屋を出ようとするターシャさん。
すると再び扉がノックされる。
『どうぞ。』
と扉に念話で回答してみたが、先ほど同様再びノックされる。
どうやらまた抵抗側の誰からしい。
「どうぞ。」
と口に出して言うと、昨日の4人組の1人の背の高い黒子ドレスの人だった。
「おはようございます。」
と黒子ドレスの人が言う。
「おはようございます・・・、」
そう言えばこの人の名前知らないわ。と思ったら
「名乗ってませんでしたね。ヴァレンティナと申します。」
と名前を教えてくれた。
「朝食ができたとアナスタシアが呼びに来たはずですが・・・」
と着替えを持った僕と壁際に立つターシャさんを見ると、
「あなたは何をしているのですか?」
とターシャさんに声をかけた。ターシャさんは少し気まずそうな顔をしている。
着替えを手伝っていないことを咎められてしまうかもしれない。
「僕が自分で着替えると言ったのでターシャさんは悪くないですよ。」
と言うと、黒子ドレスは僕に向き直る。
といっても、顔部分がこっちを向いただけで本当にそうかはわからないけど。
「本当ですよ。女性が近くにいると緊張するんで、離れててもらったんです。」
「女性がお嫌い?」
「そうじゃないです!着替えを手伝ってもらったり、見られるのが恥ずかしいんです。」
「あなた貴族じゃなかったかしら?」
「恥ずかしいと思う貴族もいるんです!」
「あら、そうなの。では外で待ってますから着替えてくださいな。」
と黒子ドレスは外に出て行こうとし、その際ターシャさんにも一瞥してついてくるように促して2人して部屋から出ていった。
じゃあ、着替えるか。
そう思いターシャさんに渡された服を見ると白シャツに黒いスラックスの組み合わせだった。
少し大きめだが着れそうだ。
着ながらウィンに確認する。
『ウィン、ターシャさんもさっきの10人に満たないうちの1人ってこと?』
『・・・そうです。マスターの魔法は効いていません。』
効かないから僕につけたってことか。なかなか逃げるのは大変そうだなぁ。
着替え終わるとウィンが僕の腕に飛びつき、腕輪の隣に同じような形の輪っかになってひっついた。
『護衛につきます。マスター』
『ほい、よろしく。』
着ていた服を持ち外に出ると、黒子ドレスとターシャさんはそろって待っていた。
怒られていたわけでもなさそうだ。とりあえずよかった。
ターシャさんに着ていた服を渡すと一礼して、去っていった。
「じゃあ、食堂に行きましょう。」
と言う黒子ドレスの後に続き、食堂とやらに向かう。
「ここです。」
と黒子ドレスが扉を開けると大きく長いテーブルがあった。
テーブルの横にはかなりの数の人間が座れる椅子が置いてある。
テーブルにはすでに先客がいて、
お誕生日席(上座)にエヴァが座っている。
エヴァの席近くの端5席に朝食が並べられていた。
パン、サラダ、卵、腸詰がワンプレートに並べてある。
僕たちが入ってきた扉と逆側から獣巫女がトレイに飲み物を乗せて来た。
「ようやく来たのね。早く座って。」
エヴァの右隣に座った獣巫女は黒子ドレスと僕に向かい側の席に座るように促す。
エヴァの左隣に黒子ドレスが座り、さらにその左に僕が座る。
僕の真向かい席が開いているな。
そう思っていると、僕たちが入ってきたのとは違う扉から黒鎧が入ってきた。
僕を一瞥するとそのまま僕の向かいの席に座る。
てか人に服装が変わってないとか言いながら、僕以外の4人は昨日から服代わってないじゃないか。
一人は鎧だし。
さらにはご飯食べようかというのに、3人が顔隠したままってどういうこと?
と思っていると獣巫女が身体をぶるっと震わせたかと思うと、仮面に手をやり、そのまま仮面をはずす。
中から昨日気づいた赤い目で僕を見る。
「これでよろしいですか?マスター。」
美しい白銀の髪をあらわにしながら、獣巫女は僕にそう言った。




